第255話 寧々さん、仲人を申し出る
元亀3年(1572年)10月下旬 美濃国岐阜城 寧々
「先頃潰した木曽に嫁がせていた娘であるが、まだ子はなしておらぬ。柴田殿ほどの人物に貰って頂けるのであれば、儂としても安心なのだが?」
信長様は考え込まれているが、これは悪くない話だとわたしは思った。信玄公の婿に柴田殿が入り、信長様の叔母婿に秋山殿が入れば、両家の縁は深まり、絶対とは言わないけれども戦が起こる可能性は格段に下がるだろう。そして……
(織田と和を結んだ武田が駿河を押さえておけば、徳川はこれ以上大きくなることはない!)
そう考えたら、前世であの腹黒タヌキにまんまと化かされてしまったわたしとしては、その復讐のためにも、信玄公に協力しないわけにはいかない。今度こそ、アイツの悔しがる顔を拝みたいのだ。
「弾正忠様。今のお話ですが……よろしければ、わたしが間に入りましょうか?」
「寧々?」
「お市様も柴田殿には幸せになってもらいたいと仰せでしたし、ここは是非一肌脱がさせていただけたらと……」
もちろん、一肌脱ぐとは言ったが、着物をここで脱ぐわけではない。だから、藤吉郎殿……盛りのついた猿のように、イヤらしい目つきで見ないでもらいたい。気持ち悪いから、菜々さんに通報するわよ?
「しかし……大丈夫か?今度失敗したら、権六の奴……下手したら、本気で仏門に入りかねんぞ?」
「ですが、このままではどちらにしても、坊主になるのではありませんか?」
「それは……そうだが……」
「ならば、やってみるしかないのでは?ダメで元々かと……」
わたしは、そのように申し上げて信長様に決断を迫った。聞けば、木曽殿に嫁がれていた関係で、信玄公のご息女・真理姫様は、岩村城からそう遠くない木曽に未だ滞在しているとか。それなら、そう日を置かずして見合いは可能だ。
「……相分かった。権六の見合い話は、寧々に任せよう。頼んだぞ」
「畏まりました。この縁がお二人にとって最良になるように、務めさせていただきます」
こうして、話はまとまり、わたしはその任を引き受けた。但し、ただでは転ばない。
「それで、弾正忠様。もう一つ提案があるのですが……」
ここで、わたしはさっき考えついたおつや様を正式に秋山殿の妻にすることを提案した。そうすることで、両家の縁を深めて徳川を困らせるために。
「それは面白いな。織田殿……儂からも頼みたい。いかがであろうか?」
「こうなった以上、それは構わぬが……岩村城は渡すわけにはいかぬ。つやは一度、遠山家から引き取った上で、改めて俺の養女として秋山殿の元に輿入れをさせたい。それでよろしいか?」
「結構だ。あと、ついでと言っては何だが……以前、破談となった松とそちらの奇妙丸殿……いや、元服された勘九郎殿との縁組の話であるが、改めてそちらもお願いできないか?」
「それは……こちらとしては願ったりかなったりだ。ならば、その兄たる四郎殿が無位無官というのも外聞がよろしくないな。この後、京に上られた暁には、然るべき位階と官位を授かるように、手配しておこう」
「忝い。ならば、我ら武田はこれより先、織田殿と手を結ぶことを誓わせていただきたい」
こうして、とんとん拍子に話はまとまり、織田と武田の盟約は成立した。
「それで、徳川との争いであるが……」
「我が武田は、遠江から兵を引きますので、駿河との国境をもって、停戦といたしたく……お願いできまいか?」
「わかった。徳川には俺の方からそのように命じておこう。ただし……以後、小競り合いをして、顔を潰さないでは頂きたいが?」
「無論、承知しておる。我らの方からは、手出しはせぬ」
「ならば、重畳。言うことないな」
ニッコリと笑みを浮かべられた信長様は、その他細かい段取りを決めていく。ただ、こうなるとわたしの出番はなく、あとは権六殿の見合いをどう段取りするのかを考えるのだった。
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