第25話 紅月の魔女 ③

エイミィの眼は益々紅く光り、辺りは大きくグラグラ大きく揺れた。


彼女の顔の皺はみるみる濃くなり、両眼はつり上がった。


まるで、本物の悪魔のようである。


「嘘でしょ…何なの…?」


「これ、やばっ…」


上級生二人はしゃがみこみ、近くにあった柱にひたすらしがみついた。


「ユリアさんは、下がってなさい。ここは、私に任せて。」


サリバンは、ユリアを制すると杖を構えた。


「いいえ。先生、エイミィは、学校で共に学ぶ友達です。先生が思ってる程、この子は怖くありません。」


ユリアは、サリバンの手を掴むと強く首を横に振った。


「でも…」


「大丈夫です。先生。私に任せてください。」


ユリアは、サリバンを制すると、表情を微動だに変えずエイミィにゆっくり近寄った。



グラついた衝撃で、ユリアは横に倒れた。


だが、立ち上がりエイミィに近づく。



「ユリアさん、あなた正気ですか…?」



ユリアは、正面を向いた。


揺れは、益々強くなっていき空間内に亀裂が入り、それは深く広がっていった。


辺りが騒然とどよめく中、ユリアだけは平然と正面を見据えている。




遠くの方から、カツカツと人の歩く音がこだました。


四人は振り返り、エイミィは力を緩めた。


「何をしてるのですか?ここは、聖なるハロウィンの場なんですよ。」


先生が、腕を組みながら苦水を飲んだかのような渋い顔をしている。



「先生、この二人がエイミィをからかって魔法を使い酷いことをしようとしてたんです。」


ユリアは、上級生二人を睨みつけると指を指した。




「エイミィさん、貴女、光に弱いって言うから、僅かな灯りでも明るく見えるように工夫したのですよ?」


先生は、上級生二人を怪訝そうな顔で見つめると、エイミィの方まで歩み寄った。


エイミィは、ビクッと仰け反り杖を構える手を緩めた。手はプルプル震えている。


「大丈夫だから、ね?」


ユリアは、エイミィに優しく話しかけた。


「先生、魔法を使ったのですか?」


「ええ。それが何か…?」



「ルール違反です。ハロウィンは、魔法禁止だって…」


「禁止も何も、ハロウィンは、みんなが平等に楽しむものです。誰かが困っていたら、助ける。それが魔法というものです。」



「先生は、知ってるでしょう?この子の父親は…」




「この子は、魔女です。魔女としての素質があるから、こうしてこの学校に居るのです。折角のハロウィンに、輪を乱す生徒は、許されませんよ?キリアさんと、ミーナさん、後で話があります。明日、朝早く、私の書斎に来るように。」


「チッ…」


「行きましょ…」


キリアとミーナは、不愉快そうに目を吊り上げるとその場を去った。




「エイミィさん、一体、なんてことするんですか?これらの石像は、我が学校に代々受け継がれてきた貴重なものです。」


「…すみません。」


エイミィは、唇を噛み締めボソッと小さな声を出した。


「あなたも、私の父親見たらきっと嫌になりますよ。見たことないから、何とでも言えるのです。」


「確かに、私は、貴女の父親は知りません。ですが、貴女は魔女の才能があります。」


「これは、悪魔としての力でしょう?ほら、こうやって…」


エイミィは、歪んだ不敵な笑みを浮かべ右手の手のひらを上に向けた。


深紅色の炎が、ボワッと音を立てて発現した。


「ここで、己の力を間違った方に使うのはおやめなさい。貴女は、魔女なのですよ?」



「綺麗事は、やめてくださいますか?今まで、色んな人が情けを掛けたフリをして裏でコソコソ私のことを笑いものにしてきました。」


エイミィは、過去の苦い経験がフラッシュバックした。


偽善者達が、自分を取り囲み情けをかけ、クスクス笑っているのだ。


エイミィは、目を閉じブンブン激しく首を横に振った。



「その事は、その時にしか分かりえません。さあ、会場に向かいなさい。」


「…はい。」


エイミィは、納得いかないような感じで顔を背けると手を広げ、石像を直そうとした。


「待ちなさい。この場で、魔法以外の力を使うのは許されません。ユリアさん、あとは宜しく。」


「はい。」





先生は、ユリアにエイミィを託すと「アスクス・イズ・アスタ」と、呪文を唱え杖を振るい廊下全体を歩き回り石像を元に戻す作業をした。



その辺を、ずっとさっきから蝙蝠がパタパタ羽根を広げ屋敷の天井を飛び回っていたのだった。




広い、暗がりの洞窟のような空間には、蝙蝠が飛び回っていた。


そして、闇の向こうから1羽の蝙蝠が向かっていき、中の広い空間の中央の台座についた。


台座には、頭から山羊のような角を生やした筋骨隆々の悪魔の男が、脚を組んで座っている。


蝙蝠は、悪魔の王の耳元を飛び回っている。


「そうか、そうか、エイミィは、いずれ我の後を継がねばならないからな…」



悪魔の王は、蝙蝠からの伝言を聞くと、カカカと笑うと赤ワインを一気に飲み干した。



「魔王様、準備は万端なのですか?」


「ああ。我は沢山の魂を食らいつくしてきた。しかも、我の姿と声は、同胞とエイミィ以外には、分かるまい。魔女も、所詮、ちっぽけな草きれなのだよ?」


「本当に作用で御座います。」


傍で給仕係をしていた、小間使いの悪魔の小男が深々と丁寧にお辞儀をした。



「さてと、これから楽しくなっていきそうだ。」


悪魔の王は、林檎を飾ると地図を拡げ、ククク…と、渋い笑い声を出し、左右非対称な歪な笑みを浮かべた。

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セイラと、オソロシ魔女学校(仮) RYU @sky099

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