第24話 紅月の魔女 ②
ハロウィンの会場は、賑わいを見せていた。
入口の両端には、三メートル程の巨大なツリーのオブジェが置かれており、メルヘンでカラフルな飾り吊るされていた。
大聖堂を彷彿とさせる広大な広間には、1000人以上の生徒が、黄色い声ではしゃいでいた。
「確か、この辺りよね…?」
サリバンは、ユリアと約束していた入口付近に立つと、辺りを伺った。
辺りを伺うと、生徒の多くが気合いが入っていた、ゾンビやキョンシーのようなメイクをした者、ピンクの髪のパンクファッションの者、赤ずきんやシンデレラ、白雪姫に仮装した者、狼やお化けの仮装をした者など、さまざまいる。
天井には、年季の入った巨大なシャンデリアが規則正しく連なり仄かな光を灯していた。
無限に続く三台のテーブルには、紫、白、茶色、黄色、赤、緑など、ワインやシャンパン、パンミートローフやタンドリーチキン、ジャックランタンの顔を形どったクッキーなどが、鮮やかに彩りを見せていた。
バイキング型式であり、盛大に御伽噺の世界に出てくるような夢のワクワクが、そこに広がりを見せていた。
今まで、グレーと茶色の堅苦しい厳粛な雰囲気でしか知らないサリバンだが、この時、子供の頃に感じたワクワクを不思議と感じ取ってしまった。
赤ずきんの格好をした生徒の後ろから、白雪姫の格好をしたユリアが姿を見せた。
ユリアは、サリバンを見つけると、大きく手を振る。
「あー、先生、ここです!」
「結構、目がクラクラしますわね…一体、何人くらいいるのかしら?」
「2000人位でしょうか?」
「2000人…?!」
「ええ。この学校は、中等部と高等部があります。そして、少し離れたところに大学部があります。私、高等部を出たらそこに入学する予定なんです。」
「大学部…?」
「ええ。私、将来はここの学校の先生になりたいんです。」
通常の魔法使いは、高等部を出たら就職の道を選ぶ。
魔法生物使い(ドラゴンやグリフォンなどの操縦士)を目指す者、飛行術の選手を目指す者、魔具屋の職人を目指す者、魔法料理や魔法菓子の職人を目指す者、アートや調律師など…様々である。
だが、学校の先生や研究職、魔法生物関係の医療従事者やコミニケーたーは、それなりの知識やスキルが必要になる。
これらの仕事は、花形と呼ばれ、競走倍率が高い。
卒業までに資格を取らないとならない。
「学校の?」
「はい。私、昔、親も居なく、魔女の血が流れてるから、人間界では周りから変な風に見られてきたんです。魔法のコントロールが悪いのもあってか、魔法を間違った方向に使ってしまうこともあったんです。そして、1人孤独に心を閉ざして自暴自棄になっていた時がありました。そんな中、私の事を厳しく優しく導いてくれた先生がいたんです。私は、人を正しい方向に導く仕事は、何て素敵なんだろう…と、思ってて…私も、彼女のように闇を光を灯す魔女になりたいと、思いました。」
「それは、素敵な夢ですね。あなたは、きっと良い先生になれますよ。応援してますよ。」
「ありがとうございます。」
ユリアは、屈託のない満面の笑みを見せた。
サリバンは、大人しく柔和な彼女の心の中に、強い芯の強さを感じ取った。アスファルトの隙間から生える、一輪の花のようだった。
ようせが羽根を羽ばたかせ、光のシャワーを放つ。
光のシャワーは、バチバチ音を立ててカラフルで派手な花火で、学校のシンボルである青薔薇を形どった。
青薔薇は、蕾の状態からみるみる広がりだし満開の花を咲かせ、会場内は歓声の渦に包まれた。
「さっきから、ずっとそわそわしてるようだけど…どうかしたのですか?」
「…あの…先生、長い黒髪で碧の目をした小柄な子見ませんでしたか?この辺りに来る約束してたんです。耳が、少し特徴的で…肌は白くて…長い前髪を赤いリボンで束ねてて…」
「いいえ…見ませんでしたね…」
「そんな、どこ行っちゃったんだろ…?」
「さあ、今宵は皆で盛り上がろう!乾杯!」
校長先生は、巨大なクラッカーを盛大に切った。
食事会が始まり、各々がそれぞれ取り皿に食事を取り分け談笑で盛り上がっていた。
30分ほどすると、会場内は騒がしくなり、人の出入りが激しくなった。
サリバンは、席を立ちトイレへ向かおうとしていたその時だった。
ユリアに案内され歩いていると、
広い廊下の暗がりの向こうから、生徒の談笑している声が児玉してきた。
2人は、少し、気になり様子を覗きに歩いていくと、
月明かりの下、生徒が廊下の隅の方に座り中庭を虚ろな目で眺めていた姿がそこにあった。
「この子は…?」
「さっきまで探していた、エイミィです。良い子なんだけど、ちょっと、訳ありで馴染めなくて…」
よくよく見ると、耳がやや尖っている。
肌が異様に白く、月明かりの下反射し、益々白くなっている。
遠くの方から、生徒の軽く嘲笑うような不快な声が反響する。
「生贄にしまーす。なんちゃってね…」
「悪魔の子なら、こうしたらどうなるかしら、ね?」
生徒の一人が、そう言い放ちエイミィの髪を掴むと、杖を振るう構えをする。
「どの呪文に、しましょうかねぇ…?」
「光の呪文とか良いんじゃない…?悪魔は、光や日光に弱いでしょう?この子に華やかなパーティーなんか、無理。苦しくなっちゃうから。だから、こうして、一人ぽつんと座ってるのよ。」
「先輩、何しようとしてたんですか?」
ユリアは、駆けつけ杖を振るおうとする上級生の右腕を払い除けた。
その拍子に、杖がカラカラ音を立てて廊下に転がった。
落とした上級生は、軽く舌打ちすると屈んで杖を拾った。
「ハロウィンの夜は、魔法禁止だって知ってますよね?破ったら、謹慎を喰らいますよ?」
「良いのよ。緊急を要さない限りはって、言われてるじゃない。今は、その大事な時なのよ。」
「その緊急とは、何のことですか?」
「ちょっとした、実験よ。実験。私らも、貴女と同じで好奇心が強いからさ。」
ユリアは、唇を噛み締め終始ずっと二人を睨みつけている。
かつての、恩師との約束だろうかー?
しばらくの間、突き刺さる重い沈黙が流れた。
「あー、怖い怖い…ちょっとした、お遊びのつもりだったのにね。」
「これだから、バカ真面目は、困るのよ…良いとこ取りして、新しい先生に、かっこいいとこ見せて気持ち良くなろうとしてるんでしょう?」
上級生2人は、ユリアを睨みつけ深々とため息つきながらその場を離れた。
「エイミィ、ずっと、探してたんだよ?ここで、何してたの?」
ユリアの声掛けに応じて、エイミィは立ち上がった。
彼女の碧色の瞳が、赤く変色した。
彼女は、鬼のような険しい顔付きで鋭い眼光でユリア睨みつける。
「どうせ、あんたも本音では…裏では、私の事、穢らわしい悪魔だって思って馬鹿にしてるんでしょ?この、偽善者。私、あんたみたい人がずっと前から嫌いだったの…」
「え…?」
ユリアは、瞳孔を揺らし一瞬固まる。
「なら、その意味、教えてあげる。」
廊下のランプが、
バチバチという音を立ててガタガタ揺れ、ガラスが割れた。
炎が弱まり、消えた。
「ち、ちょっと…」
「何よ、これ…」
さっきまで遊んでいた上級生は、急に不安の強い顔になり、声を震わせた。
波動が波打ち、廊下のオブジェが次々とガタガタ揺れ倒れて割れた。
「皆、まとめて殺してあげるから。」
エイミィの声が、急に低くしゃがれた声になった。
サリバンは、さっきからずっとドライアイスのような乾いた冷たいオーラをエイミィから感じ取った。
全身にキリキリ突き刺さる風のシャワーを、四人全員受け取った。
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