第8話 襲撃

「何であんたがここに……!!」

「成り行きだ。それよりお前達今日は外で寝ろ」

「はい?」


 つい数時間前に自分の理念やプライドに泥をかけた人間が、今度は私達を家から追い出そうとする。

 いくら命や国の恩人とはいえここまで暴君のような態度を取られては私も我慢の限界がきた。


「いい加減にしろよ……人を何だと思ってるんだ? 自分が目立てば他の人はどうでもいいっていうのか!?」


 私は怒りのあまり壁をドンッと強く叩いてしまう。


「まぁいい。用事は済んだしな。俺は帰るとするか」


 彼は不本意そうにしながらもそれ以上は何も言わずに帰ってくれる。


「お姉ちゃん……変な人だったね」

「あぁそうだ。世の中には一見優しそうに見えても頭がおかしい人がいるんだ。だから簡単に人を家に上げたらダメだぞ」

「はーい」


 私達はご飯を食べ、いつも通りの日常を送り気づけばもう寝る時間になっていた。


「ねぇお姉ちゃん。今日なんだか疲れてるけどどうかしたの?」

「えっ!? そ、そんなことないぞ」


 部下の葬式によって溜まった精神的な疲労が顔に出てしまっていたのか、妹に無駄な心配をかけてしまっていたらしい。


 私もダメだな。お母さんとお父さんが死んでしまった時、私がしっかりして妹を育てていくんだって決めたのに。


「実は知ってるんだ。お姉ちゃんのお友達が亡くなっちゃったんでしょ?」

「な、何でそれを……」

「今日偶々お姉ちゃんのお友達の騎士の人に会って」


 あの馬鹿達か……私の小さな妹に余計なこと言って……


「お姉ちゃん。アタシ、大きくなったらお医者さんになるんだ! それでお姉ちゃんやお友達が怪我しても大丈夫なようにするの!」

「そうか……ありがとうな」


 妹はずっと私が守って育てていかないとと思っていた。だがそれは間違いだったようだ。

 妹はもうこんなにも立派に育ってくれていた。もう私が必要なくなる日もそう遠くないかもしれない。


 そんなことに喜びと同時に寂しさも覚えながらも、私達は一緒にベッドで寝るのだった。



☆☆☆


 月光が部屋に差し込む中、私は物音と異臭に気づき目を覚ます。


「うん? 何だこの匂い……」


 私はベッドから起き上がるが、妹はまだスヤスヤと寝ている。そんな妹を起こさないように私はゆっくりと部屋から出て異臭の出所を探す。

 だが扉の向こうには信じられない光景が広がっている。


 視界いっぱいに火の海が広がっていた。

 両親が買ってくれたぬいぐるみが跡形もなく炭となっており、妹が買ってくれた花ももうなくなっていた。

 まさに今現在進行形で私の家族との思い出が詰まった家が炎と共に消されていっていたのだ。


「な、何だこれは!?」


 私が苦手な水属性魔法で消火しようと試みていると、一階から一人の男が上がってくる。


「おうやっと気づいたのか。鈍感な女だこと。ま、気づいても意味ねぇけどな」


 私はその筋肉質で下品な笑みを浮かべる男を知っていた。

 盗賊団スティルの首領、ロブ・ルートだった。

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