番外編3𓇋𓈖𓈖𓇌𓈖〜悪戯〜

 これは二人がまだ一緒だった頃のお話。


 ある夜、アヌビスが見回りに出ていると、遠くの方にゆらゆらと光る何かを目撃する。動物の目だろうか。それにしては大きく、動きも不規則だ。


 あれは一体——。


 もっと近くで確認しようと足を踏み出したその時。


「——ッ!?」

 突然何かに右足を掴まれ、アヌビスは全身が怖気立つのを感じた。悲鳴をあげそうになるのを必死に堪え、恐る恐る足元に目をやると、更に恐ろしい光景がその目に飛び込んできた。


 暗闇の中、人影が肩を振るわせじっとこちらを見つめている。


「——っぷは! 何だその顔、驚いて声も出ねえってか」


 おぞましいその光景に似つかわしくない陽気な声がアヌビスの耳に響く。


「ホルス……ッお前!」

 それが弟の仕業だと気づいた瞬間アヌビスはその顔を勢いよく蹴り倒した。


「痛っ!! 何すんだよ!」

「それはこっちの台詞だ。……まさか俺がここに来るまでずっとここで待機してたのか」

 

 当然の如く頷くホルスにアヌビスはため息をつく。


「くだらない事してないで神上がる為の修行でもしてろ」


 そう言い残し、アヌビスはそそくさと夜の闇に姿を消した。早鐘を打つ鼓動が未だおさまらないのはホルスには秘密である。


 翌日、自力では這い上がれない程の深い落とし穴に嵌る事になったホルス。


「冷てっ! 何だこれ地下水? どこまで堀ってんだあいつ」


 毎度の事ながら兄の執念深さにもはや感心せざるを得ないホルスだった。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る