第22話𓇋𓃀𓍢𓎡𓇋~伊吹~
一体どこへ行くつもりだ…?
アヌビスは主の背中を見つめ、その後をついて歩く。
アヌビスも初めて知ったのだが王の神殿には地下に隠し通路があり、2人は炎から逃れるように今この通路を歩いている。
部屋を出てからもう随分経つ気がするが目的地は一向に見えてこない。
しかし自ら神殿に火を放ったこの男の思考が理解できない。別の場所に代わりの神殿でも建っているのだろうか。
いずれにしても幼少期を過ごした思い出の神殿は今頃火の海だろう。
しかしそれに対して何の感情も湧かない自分に笑いがこみ上げる。
俺もいよいよこの男と同じだな。
ふいに同族意識のようなものが頭を掠めた。
そうこうしている間に通路の突き当たりまで来たようだ。
目の前の階段を登り切り、突如差し込んだ光にアヌビスは目を細める。
そこに広がっていた景色はアヌビスが想像していたものとは随分とかけ離れていた。
「今日からここが王の神殿だ。」
これが、神殿?
思わずそう口に出しそうになる程、神殿とは程遠い見た目をしている。
砂だらけで埃っぽい室内は神聖さのかけらもない。
どことなく陰湿な空気が漂っていた。
これだけ埃を被っているという事は前の主は随分前にここを捨てたのだろう。
「気に入らないという顔をしているな。まぁ無理もない。俺はあの神殿が好かない。ガチャガチャした装飾もうざったいだけだ。掃除くらいはさせるがな。」
セトはそう言って埃被ったままの玉座に腰を下ろす。
「あとは単にあいつの遺物が鬱陶しいってだけだ。」
あいつ、というのはやはり父の事だろうか。
この男はやはりどこまでも父を嫌っているようだ。
「安心しろ。お前の部屋はここほど暗くはない。」
別に暗くて怖いと言っている訳ではない。
まるで子供のような扱いを受けアヌビスはむっとしたが何とか心の内に留めた。
「さて、ではお前に最初の
***
「……俺は一体何をやってるんだ?」
大量に並べられた鉢を前にしてホルスはげんなりした顔で言った。
「修行してくれるっていうからついてきたのに、これじゃ完全にあいつの助手じゃねぇか。」
「まぁまぁ。これも修行の一環じゃと思って。」
宥められ、当然のように差し出された鉢をホルスは叩き割る勢いで机に置く。
「で?これをどうするって?」
「胃の薬を作る。そこに入っている種を全てすり潰してくれるか。後はワシがやる。」
これでは薬の調合どころかただの雑用だ。
ホルスは半分やけくそになりながらその種をすり潰していく。
ちょうど半分程すり潰した所でベスが急に話を振ってきた。
「ところでホルス、トトが言っとったその目についてお主自身はどう思っておるのじゃ。何か感じたり、見たりする事はあるのか?」
ベスの問いをホルスはあっさりと否定した。
「ねえな。火事の時も未来を見てるなんて感覚全くなかったし。」
ベスはそうか、と言って唸った。
「動物も人間も形には意味があるじゃろう。獣に鋭い牙や鉤爪があるのはそれで獲物を狩る為じゃ。お主がその目を持ち、羽を持っておるのも何か意味があるんじゃろう。その目の役割が何なのか、改めて調べてもらった方が良いかもしれんのう。」
それを聞くなりホルスはギクリと肩を震わせる。
「一応聞くけど抉り取りはしねえよな……?」
恐れ慄くホルスにベスは追い打ちをかけるように言った。
「さぁ、どうじゃろうの。トト、あやつならやりかねん。」
「……呼んだ?」
すぐ後ろで声がしてホルスは思わず悲鳴を上げそうになる。
ひょこっと顔を出したのはトト本人だった。
「随分早かったのう。話はもう済んだのか?」
「うーん。聞くのだるくなって途中で帰ってきた。」
悪びれもせずまた堂々と…。
話をあまり聞かないのはホルスとて同じだが、さすがに途中で逃げ出す事はしない。せめて最後まで聞くふりはする。
しかも相手がラーだとは。
怖いもの知らずにも程がある。
しかしラーがそこまで怒らないとなるとやはりトトの神格は相当高いものなのだろうとホルスは思った。
「怒ってたよ。結構怒ってた。」
「…………マジか。」
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