第20話𓈖𓇋𓎡𓍢𓋴𓇋𓅓𓇋~憎しみ~

「酷い有様ね……。」


 バステトは昨日の一件を受けて神官達と共にイシスの神官達の宿舎を訪れていた。


 瓦礫と化したそれらは建物としての役割を完全に失っている。


 聞けばホルスとアヌビスの2人が何やら事件に巻き込まれたとかで、それには何とセクメトも関わっているというではないか。


「姉様にも困ったものね。一体何を企んでいるのやら。」


 バステトはそう言ってため息をつく。





「バステト様!こちらへ!」


 瓦礫の上を歩いていた神官の1人がバステトを呼んだ。


「どうしたの?」


 神官の目の前にはひび割れたオシリス像が瓦礫に埋もれるようにして横たわっていた。


 体のほとんどが崩れ落ちてしまっているが、顔だけはかろうじて形を保っている。


 神官が崩れ落ちた像の足の部分を指差した。

 よく見てみると隙間から何かが見えている。


「……これは、パピルス?」


 紙切れのようなそれを取り出してみるとそこには何やら文字が書かれていた。



『𓎡𓍯 𓂋𓍯 𓋴𓅱

𓍿𓇌 𓍿𓇌 𓈖𓍯 𓅓𓇋 𓇌 𓇌𓍯 𓈖𓇌 𓎡𓄿 𓎡 𓇋 𓏏𓇋

𓎡𓄿 𓈖𓄿 𓂋𓄿 𓊃𓅱』



「これは——。」

 バステトは顔をしかめる。


「一体誰が書いたんでしょう…?」


「それも気になるけど、この内容も穏やかじゃないわね。」


 バステトはパピルスを服の中にしまうと、神官達に言った。


「私はこれをイシスに届けるわ。彼女がここに戻る前にこの瓦礫を片付けるよう頼んでおいて。心労が絶えないあの子にこれ以上余計な心配をさせる訳にいかない。」



 バステトはため息をつき、崩れ落ちた像を眺める。



「次から次へと、まったく。貴方がいなくなってこの国はおかしくなってしまったわ。ねえオシリス。貴方が戻ってきてくれたらどんなにいいか。」


 弱々しく呟く主を前にして、神官は何と声を掛けたらいいのか分からずその場に立ち尽くす。



「ごめんなさい。泣き言を言っている場合ではないわね。」


 この国を憂い、救おうとする者。

 またこの国を我が物とし、支配せんとする者。

 両者の思惑がぶつかり合い、混沌と化したこの世界には新たな王が必要だ。


「アヌビスの事も心配だし、私達も沈黙を破る時が来たようね。……ついて来てくれるかしら?」


 バステトが振り返ると神官は笑顔で言った。


「勿論でございます。私どもは例え墓の中であろうとどこまででもご一緒致します。」


「困ったわ。私、まだ当分死ぬつもりはないのだけれど。」


 バステトの答えに神官は血の気の引いた顔で答えた。


「も、申し訳ありません……!そういう事では……!」


「分かっているわ。まずはここを片付けて戻って来て頂戴。これからやるべき事はたくさんあるんだから。」

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