第1話 ゲーマーの朝は遅い
「起きなさい!遅刻するわよ!」
朝、まるで獣が叫んでいるかのような大声が部屋に響き渡った。
「うるさいなぁ……」
そう呟きながら俺は布団を頭までかぶせる。
もうひと眠りとそう思ったとき、布団が投げ飛ばされ、俺はたたき起こされた。
「いいから起きなさい!朝一緒に学校に行くって言ったじゃない!」
怒った声で叫ぶのは少し背が小さく、腰まである長い茶髪を後ろで結んでポニーテールにしている幼馴染の
胡桃とはここ数年話すことも少なかったのだが、受験した高校が同じということもあってか、どういうわけか友達の少ない俺に一緒に登校しようと誘ってきた。
「あのなぁ、別に一緒に登校する必要はないだろ……」
「何言ってんのよ!あんた起こしにこないと絶対遅刻するじゃない!それに今日は入学式なんだから遅刻したら大変でしょ!」
「お前は俺のお袋かよ」
そうつっこんだ俺を無視しながら胡桃は部屋を出る。
「早く着替えて出てきなさいよ」
俺は眠たい目を擦りながらしぶしぶ起き上がる。
髪は寝ぐせがひどくぼさぼさだ。今から治すとなると余計動きたくなくなったが、それでもこれ以上胡桃を怒らせると大変なことになりそうなので急いで支度を始めた。
「髪はこんなもんでいいか」
寝ぐせを適当に直し、目立たないようにした。服は今日から高校に入学するため制服を着ている。中学は制服はなかったため鏡に映る光景は新鮮なものだった。
そうこうしているうちに時間は刻々と迫ってきていた。
「悠人まだー?」
なかなか出てこない俺にしびれを切らしたのか胡桃が玄関から俺を呼んでいる。
「もうすぐだから!」
俺は急いで身支度を終え、入学式のため大した荷物の入ってない鞄を持って、家を出た。もちろん朝食を食べる時間はなかったため、お腹が空いたままだ。
「わるいわるい、髪を直すのに手間取った」
まだ少し残ってる寝ぐせを手で治しながら外で待つ胡桃に声をかけた。
「もう!遅刻したらどうしてくれるのよ!」
そう怒る胡桃だが、朝一緒に登校しようと誘って無理やり来たのは胡桃の方だろうと俺は内心で思いながら学校に向けて歩き出す。
「というか何で急に一緒に登校しようなんて誘ってきたんだよ?中学のとき大して話すこともなかったし、ぶっちゃけそんな仲良くなかっただろ」
「疎遠ってねあんた、学校休むたびに私に課題の内容教えてって頼んできたじゃない!忘れたとは言わせないわよ!」
そうだっけかと俺はすっとぼけながら胡桃から目をそらした。
とはいえ、胡桃以外に聞く人がいなかったため仕方がないのだ。そう仕方がなかったのだ。
「って言ってもそれ以外で話したりはほとんどしなかっただろ」
「それは悠人が学校に来なかったり早退したり遅刻したりでなかなか話す時間がなかったからよ!」
「それは一理あるな」
確かに俺は中学時代は早退したり遅刻したりで一日中学校にいることは少なかった。いたとしても授業が終わったらすぐに家に帰宅していたため、話す時間は少ないだろう。
「忙しかったんだから仕方ないだろ」
「ゲームでね」
そういわれて少し胸に痛みを感じる。
胡桃の言ってることは図星であったのもあるが、正直なところ今の俺はゲームのことを考えたくなかった。
「……ああ、そうだよ」
不機嫌そうな声で胡桃にそう返す。
胡桃もある程度俺のことは知っているのか、それ以上ゲームについて触れることはなくなった。
そこからはほとんど無言のまま学校へと到着する。
校舎に取り付けられている時計を見ると時刻は入学式まで十分しかなかった。
胡桃もそれに気づいたのか、慌てて校舎の中に向かって走り出した。
「悠人急ぐわよ!」
俺は一歩遅れて走りだす、が気づけば胡桃とは距離が開いていた。
それもそのはず、胡桃は中学時代は陸上部で全国大会に行ったほど足が速いのだ。
ゲームばかりしていて部屋に籠っていた俺なんかとは比べ物にならないほどだ。
「ま、待ってくれよ……」
息を切らしながら走ってくる俺を見ながら胡桃は校舎の前で待っている。
きつい言葉で話してくることもあるが、根はやさしいのだ。
「もう、しっかりしなさいよね。私たち今日から高校生なのよ」
「わ、わかってるってるけど……お前速すぎるんだよ」
「別に全力で走ってるわけじゃないんだからそうでもないでしょ」
軽く言っているが全然そんなことなかったぞと言ってやりたい。
そんなことを考えていると校舎の中から制服を着て腕に係員と書かれた人がこちらへと歩いてきた。
だからゲームはやめられない @rentarou23
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