だからゲームはやめられない

@rentarou23

第0話 だから俺はゲームをやめた

 ――ゲームをやめよう。

 高校1年の春、ゲームの大会で結果を残せず敗北したとき、黒川悠人くろかわはるとはそう決意した。そろそろ限界かもしれないなと、悠人は考えた。

 悠人にとってゲームは人生の中で最も大事なもので、そのために今まで青春を捨ててまで続けてきた。だが、そろそろ限界だった。

 幼いころからゲームが好きな両親に育てられて、気づけば悠人もゲームをしていた。昔は純粋にゲームを楽しんでいたはずなのにここ1年間は楽しいとは程遠い毎日であった。

 小学生のころ、小さなゲーム大会で優勝して勝つことの喜びを知ってから悠人はたくさんの大会に出場しては優勝をしていた。

 しかし、中学に上がるころに悠人のプレイしていたゲームがサービス終了を発表した。たしかに有名なゲームではなかったため仕方がないが、それでも悠人にとっては重大なことだった。

 当時はショックのあまり寝込んでしまうほどであったが、このままではいけないと思い別のゲームに切り替えた。悠人が新しく始めたゲームはいわゆるファーストパーソン・シューティングゲーム、通称FPSだ。中でも当時絶大な人気を誇っていたのが『レジェンド・ロワイヤル』というゲームで、サービス開始から1年で数多くの大会が開催され、世界大会では優勝したら何億という賞金がもらえるほど規模の大きなものだった。もちろん悠人も数多くの大会に出場し、ゲームを始めてから2年目にしてテレビでも最近聞くようになったプロゲーマーというゲーマーの頂点のような場所にまで上り詰めた。

 そこまではよかったのだが、プロゲーマーになってからというもの悠人のパフォーマンスは落ちるところまで落ちた。

 まず、プロゲーマーになってすぐに出場した各地域ごとに行われる世界大会の予選で敗北した。順位だけでみれば出場したチームの中では真ん中ぐらいだった。しかし、当時若くしてプロゲーマーになり周囲から注目と期待を浴びていた悠人には大きなプレッシャーとなった。

 一緒に出場していたチームメンバーには気にするなと慰められたが、それでもSNSで自分の名前を調べると『若いだけでプロゲーマーになっただけ』、『なんでこんな弱いやつがプロやってるの?』だの罵詈雑言がいくつも書かれていた。

 それ以来、悠人はゲームを楽しむことができなくなり、思うように結果もでなくなった。

 そして、中学3年の冬にチームを脱退し、一時活動休止となった。


 活動を休止してから高校受験もあったりしてゲームはほとんどやらなくなり、今では1日に1時間やるかやらないかだ。

 そんなことをしているうちに、ゲームに対する熱はどんどん冷めていった。

 大会に出ても勝てるわけでもなく、SNSでは悪口と批判ばかり。

 チームを脱退し、プロではなくなった今の悠人に残ったのは中学3年間の青春を失った虚しさだけであった。

――だから、「俺はゲームをやめたんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る