第5話 寮と学級について
入学より数日後1人の新入生が的当て試験場を、更地にしたとかいう事件のせいで的当てが一日遅れたが的当て自体は無事に完了した……
ノーチェ魔法学園には成績によってクラスを分ける制度があり、上から順にS A B C D Eとなっており、Aクラスまでは学科試験か、魔力測定と魔法属性と的当て、のどちらかで高得点を取れば問題なく入ることが出来るのだが、Sクラスでは上記の全てで超高得点を収めなくてはならず。
一学年20人ほどしか存在しない。更にSクラスは定期テストの免除や研究費の貸与などなど様々な面において他のクラスとは待遇がまるで違うのだ。
さてアルメタジオーネ達がどのクラスになったのかと言うと……
「えー、さて、ひとまずノーチェ魔法学園への入学おめでとう!」
と言って担任は教室内を右から左へ見ながら手をゆっくりと、メトロノームのような正確さで叩く。
教室内には四十人ほどの生徒がおり、頭髪は金髪や赤髪、紫や青色まで多種多様だが黒髪はアルメタ1人であり、他の生徒たちが何回かチラチラとこちらを振り返っている、アルメタはこういう事には慣れていた。
「あー、このC-4クラスを担当することとなった、『L・O・パレージド』だ今後ともよろしく。えー、入学したとはいえ二ヶ月後にはテストがあるから、油断しないように。」
ハーマニーの角張った顎からはある程度の意志の強さ、まるで光を全て吸収するような目と深みのある青色に混じる若白髪からは、失われた若さと過剰なほどに手にした経験が感じられる。
「えーCクラスかと落胆しているかもしれんが、クラスの編制は毎年あるから、頑張ればSクラスだって夢じゃない……」
と言った後に小声でいや流石に夢か……と言ったのを生徒たちは聞き逃さなかった。
「えーじゃあ取り敢えず自己紹介、」
とハーマニーが生徒の名前を一人ずつ名簿を見ながら呼んでいき、呼ばれた生徒は階段上になっている教室を降りて教壇の前に立って軽い自己紹介。
そしてとうとうアルメタの名前が呼ばれる。
はい、と返事をして立ち上がり、アルメタは教壇の前に向かう。
教壇の前に立ったアルメタに向けられたのは好奇や嫌悪といった感情を隠すこともせず込められた視線。
クローバーを含めた全員が自己紹介を終え、休み時間に入る。
「アルー、おんなじクラスだったね!」
クローバーがアルメタに話しかける。
「ええ、ミーティアはBクラスみたいですし、知り合いもあまりいないので同じクラスになれて嬉しいです。」
「あたしも!」
そうしてその日はいくつかのオリエンテーションを経て授業時間は終了した。
少年は用紙に書かれた部屋番号を頼りにとある部屋を探していた、部屋というのは他でもなくこの少年が今後一年間寝泊まりすることとなる寮の部屋であった。
ノーチェ魔法学園は全寮制であり、長期休暇等でない限り全生徒はこの寮での生活を義務づけられている。
少年は目当ての部屋を見つけると、中に入り、荷解きを始める、もう一人の住人はまだ来てないようだった。
「ふぅ、これで荷物は全部かな。」
少年は部屋の中をぐるっと見渡す。
部屋の中にはベッドと机が二つずつ置いてあり、片方の机には既に本や楽譜が置かれ、机の脇には大きめの弦楽器その横には中くらいの打楽器等などが置かれている。
少年は驚く程の白髪で、更に頭をぐるっと1周する様に黒い環状に染められており、それが2本、かなり奇抜な見た目だがこの世界ではあまり目立つことは無い。
少年の名はクラ・スーシア・ウィーン
(知らない人とひとつ屋根の下っていうのは少し不安だけど楽しみだな)
ウィーンは期待していた、初めて親元を離れて始まる新な生活と出会いに、そして同じぐらい不安だった。
その時部屋の扉がノックされる。
「あ、はーい。」
と言ってウィーンは同居人だろうかと思いながら扉を開ける。
そこには真っ黒な髪のこれまた少年、アルメタがいた。
「初めまして、僕はクラ・スーシア・ウィーンこの部屋に住むことになったんだ、よろしく。」
「こちらこそはじめまして、僕もこの部屋に住むことになったキューション・アルメタジオーネです、これからよろしくお願いしますね。」
ウィーンはアルメタの丁寧な態度に胸をなで下ろした。
アルメタは自分に与えられた机にせっせと本や標本を置いていく。
ウィーンはそれらを見て驚いた、次々と机に置かれていく標本というのが、なにかの骨だったり、何かに漬けられた内蔵のようなものだったり、よく見ればアルメタの今着ているコートもよく見れば熊の毛皮のようだ。
ウィーンはたまらず聞いた。
「ね、ねぇアルメタ君って魔術師志望なの?」
この世界では魔術師と魔法使いには明確な違いがある、魔術師が魔法の理論や構造などの研究を行うよに対し、魔法使いは魔法を使用し、戦闘や魔道具の魔力の充填など様々な事をこなす、というものである。
そのためウィーンは標本を次々と取り出すアルメタを見て魔術師志望なのかと思ったというわけだ。
「いや、僕は魔法使い志望だよ、ほら。」
と言ってアルメタは杖を魔法で取り出す。
その杖は龍の骨や金属でできており、棍棒の代わりにしたって問題なさそうな、実戦向けの杖だった。
「そうなんだ、ごめんね、僕の家音楽系の家だからさ、そういうの疎くって。」
「へー、てことは固有魔法も音楽系なの?」
固有魔法、文字通り個人だけが有し発動できる魔法、魔法陣として描くことが出来ない。
更に固有魔法を持つかどうかは殆ど遺伝によって決まり、魔法大国である帝国や王国は勿論、ルナピエナ宗教国家でさえ固有魔法の所持者はそのほとんどが貴族である。
「あーうん、ほら」
と言うとウィーンの背後からどこからともなく半透明の楽器が現れる、トランペットやヴァイオリンなど様々だ。
「うちの家は全員この固有魔法だから、あんまり他の魔法がどうこうって知らなくってさ。」
ほら、と言って固有魔法を発動するウィーン、何も無いところから半透明の楽器が現れ、即興の音楽を奏でる。
「なら見せてあげるよ。」
アルメタが不敵に笑う。
その場に竜巻が巻き起こる、しかしそれは回転する風の塊ではなく、ドス黒い魔力の渦。
そしてそれに呼応するようにアルメタのローブがはためく、と言うよりも蠢きだす。
更にアルメタの置いた標本全てがカタカタと音を立てる。
ウィーンは絶句した、骨や皮だけのもはや「物」となった動物が今まさに、自分の目の前で動いているという事実に、魔法であることはわかっても、そのあまりの光景に、精神が理解することを拒んでいた。
元処刑人一家の魔法譚 3リットルのペンネ @1217144337556539
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