第2話 黒陵高校と島崎

 あ ん ま 寝 れ ん か っ た !…という状態で迎える練習試合(話が結局白熱)。

 迎えるは昨年団体戦インターハイベスト16校の黒陵高校。

 ちなみに灰原高校はベスト8(唐突なマウント)。

 直接対決をしたら五分五分といったところが例年であるが、イレギュラー的な要素があるとすれば昨年の全日本ジュニアで中学生ながら個人戦ベスト4まで残った同年代最強さんである島崎徹の存在であろうか。


 黒陵に入学するやいなやレギュラーの座どころかエースの座に座った島崎には俺もけちょんけちょんにされたことがある。くやちい。

 しかも中性的イケメンとかいう彼がいるおかげで灰原の部内で目下嫉妬の対象たるオレっちへのヘイトが半減しているところがあるのでそういう意味では感謝してる(ハナホジ)。知らんけど(ハナホジ×2)。


 「お、才木だ!やった、近隣の高校にお前が入学したんならいい練習相手になるよ!」


 「どちら様でヤンスか」


 「嘘つけ、俺だよ島崎徹!一昨年のカデット大会で当たったことあるしそん時話しただろーが!」


 「いやですわ奥さんこの人ったら一回話しただけで覚えて貰った気になっちゃってる自意識過剰ボーイよ!」


 そんなこんなで再会の握手を交わしつつ練習試合を組んでいく。

 島崎とはシングルスに割く最後辺りの時間に対戦予定だ。

 一戦目の相手は日本式ペンドラ攻撃型三年生男子、三上潤だ。


 (いきなりレギュラー格とはツイてるな)


 古き良き桧単板ペンドライブ型ということで強烈な威力のドライブが武器の選手。

 一発がある上ローテンポの打ち合いでは無双を誇る相手であるだけにピッチの早さと先手を打つことを重視していきたい。


 7-5


 (一発目バック深くのロングいきやーす)


 自分の手持ちの武器はそれなりに幅が広い。

 サービスエースを狙ってできたりもするくらいにはサービス得意だし、レシーブでもストップとチキータで緩急つけられるし、フォアは肩甲骨系の打ち方だから最速テンポのカウンター狙えて、タッパも170台半ばあるから打ち合いもいける。

 そんな自分の最大の武器は、


 (それらを的確に使いこなす、頭脳!)


 放ったスピードロングサービスは見事に相手の虚をつく形となり、これで8-5。


 (こっからが制圧の時間…!)


 飛び抜けた技術力があるわけではない。センスは中の上だし出力が出せる先天的フィジカルが優れてもいない。鍛え上げてはいるが(筋肉は裏切らない)。


 ーー卓球とは百メートル走をしながらチェスをするようなモノである。


 かつての国際卓球連盟会長、荻村伊智朗氏の発言である。

 適切なタイミングでの技術使用に成功し続けられるのであれば、それは相手に見えない大きな武器となりうる。

 瞬発と頭脳の二重奏、とくと見よ。




 「さーさー、ここまでお互い全勝同士、シャンとやり合おうや。俺が同世代で唯一認めた男、才木制治よ」


 「ちょっと何言ってるかわかんない(イケヴォ)」


 「まだそのやり取り続いてたの!?お兄さん許して!(課長壊れる)」


 「そのスラング、意味調べられんように気ぃつけろよマジで」







 (「なんか負けた」、それが一番しっくりくる表現)


 三上は自分の対戦が休みに入ったため、島崎と制治の対戦の審判を担当することとなった。


 (技術で言えば別格ってほどではない。強豪選手とやり合えるという以上には持ち合わせちゃいないだろう)


 ーーでも、負けた。試合の合間に他の制治と対戦した部員に話を聞いたがいずれも似たような返答が返ってきた。

 そこから導き出した仮説が正しいのであれば。


 (将棋ソフトのAIみてぇな頭してんなコイツ)


 流石にまだ島崎には勝てなかった。

 が、


 (案外こういうヤツがダークホースみたいなモンなんかね。卓球歴四年目、バケモンだな完全に)

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

斯くして少年は卓上の支配者に至りて @t2master

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ