斯くして少年は卓上の支配者に至りて
@t2master
第1話 制治と小春と夏音、時々関口パイセン
俺こと才木制治(サイキ・セイジ)が卓球を始めたのは中学一年生、春の時分。
これといった大それた理由を以て始めたなんてことはなかったが、相手コートに球を入れることに成功した感覚の楽しさにやみつきになって以来、嫌悪感的マイナス感情は微塵も抱いたことはないと言い切れるくらいには卓球という競技の虜になっている。
「しあス!「しあース」
今現在通っている高校内の卓球場には同じような挨拶をしてから練習を開始する部員達の姿と二十台ほど二列に分かれて設置された卓球台の数々。
男子部員二十四人と女子部員十六人は同じ卓球場で練習しつつ、休日二日間は意図して共に練習をするが、平日は原則別メニューの練習をこなしている。
本日は土曜日であるため共同の日である。
「アアン♂アアン♂アアン♂アアン♂」
両基礎ストローク練習を一分ずつ、後に両ハンドのドライブ対ブロックを2分ずつ行い、引き合いも交えるのが2分ほどで技術的なウォーミングアップは終わる。
本日の練習パートナーローテは裏裏シェーク攻撃型の二年生男子、関口先輩から。
永遠の彼女募集中でお馴染み関口先輩迫真の喘ぎ(ではない)声は別に卓球を本気で取り組んでいる者にとっては珍しい光景ではない。
強打系技術を行使する際の腹筋に入る力により自然と息が漏れるところへ声の音が乗る癖がある人というのは一定数いるのである。
まあ俺は全身筋隈なく使って強打するタイプじゃないから声出ないけど。
「才木、お前今クソ失礼なこと考えてないか…?」
「んなことねっす」
「こっち見て言えオラ」
なぜその察しの良さを女子相手に発揮できないのか。
灰原高校七不思議の一つである…知らんけど。
「っしタ!「っしたー」
基礎打ち終わりのタイマーが鳴った。ここからは鬼のフットワーク課題練習である。
「あ、才木」
「おー北川か、よろー」
「んー、よろしく。今日こそは負けないから」
フットワーク課題練習が終わると縛り条件なしの課題練習へと移る。
最初の相手は無表情系スレンダー巨乳美少女の北川小春(キタガワ・コハル)。かわE。
一年生女子部員の中では頭抜けて強い彼女は土日の課題練で部内の同級生で唯一自分より強い俺と当たる度に1ゲームマッチを申し込んでくる戦闘民族でもある。かわE。
少し頬を膨らませながらも負ける度に事細かなアドバイスを求めてくる彼女の姿を正面から見れるのは現時点で俺だけの特権である。ドゥワァ(阿◯寛の恍惚)。
「今日は、どうだった…?」
「メンタル論が染み付いてきつつあるところは成長を感じたところだったかな。土壇場になってもやるべきことを淡々と、しかし適度な熱意は持ちつつ丁寧でいて大胆に。実践できててなによりだと思うよ。技術的には…」
我ながら分析力には自信がある方だ。単純なセンスの良さや素のフィジカルの強さ以外の要素では俺はこの分析力にたくさん助けられてきた。
同時に、卓球のことについて部員含む競技経験者の友人と話す度にどこか温度差を感じる時が少なくなかったのだ。北川小春に、出会うまでは。
「才木、練習終わったらまた…そっちいくね」
「おー、大丈夫だろうけど寮監に見つかんなよ」
「うん。今日もいっぱいお話、しようね」
校内の男子寮にはOB達がこっそりと作った裏口がある。
女子寮生との逢瀬を夢見るむさい男子共の願望により作られたはいいものの、今まで使われたことはほぼなかったそうな。ドンマイパイセンがた。
そんな裏口使用者第二号の北川は満足するまで俺とディープな卓球話に花を咲かせるためだけに俺の部屋へと侵入してくるのだ。
最初に侵入してきた時は銀髪ロングの後ろ姿を見て洋風貞子でも出たんかと危うくちびりそうになった。
叫ばなかった俺を褒めてほちぃ。
「さあ後輩クン、おねーさんとの愛のダブルスの時間だぞー」
「南野先輩ほんと、勘弁してくださいって。心臓に悪いっす」
「にゃはは、もっと素直に喜べ喜べーうりうり」
明日は午前中に近隣の強豪校との練習試合があり、相手校の意向で混合ダブルスの練習試合も組みたいそうな。
混合ダブルスで出場登録したことがあるのはうちの学校では俺と二年生女子の南野夏音(ミナミノ・カノン)先輩だけであるため、終盤の練習時間は混合ダブルスでの練習である。
見た目も中身も普段は黒髪ロング清楚系爆乳美人の南野先輩であるが、どういう腹づもりか少なくとも俺に対してはいたずらっ子的側面が出がちである。
悪い気はしない(迫真)。
俺と南野先輩のペアの試合の組み立てにおいて、一般論では積極使用が推奨されるストップレシーブはあまり使わず、短いサービスに対してはチキータ及び鋭いツッツキを使い分けて長くなったら強打で打ち抜きにかかる。
相手に時間的余裕を取らせず、コンビネーションにズレを生じさせる意図もありつつ南野先輩の対応できるラリーピッチの早さを生かした戦法である。
点を取る度にほっぺをうりうりされながら本日の練習終了のタイマーが鳴り響いた。
「明日も勝とうね後輩クン。二人で最強、だよ♪」
「うっす、頑張りましょう」
「それと、小春ちゃんとのお話に熱持ちすぎて寝不足にならないよーにね。おねーさんはなんでも知ってるんだぞー」
マジでなんで知っとるんやこの人。
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