ピタゴラスカード

上月祈 かみづきいのり

ピタゴラスカード

 クレジットカードに必要なものなんてのは、経済管理能力と良心である。それはバビロンの頃から変わらない。

 二〇二五年の世界。当時の世界がバビロンの頃から変わったものなんていうのは世界的豊かさと人権の意識だ。

 それ以外は変わっていない。世界的豊かさを得たのに貧富の格差はある。人権だけではどうにもならない。

 クレイジーだけどね、これは本当だよ。人間を動かすのは自分を満そうとする欲望だからさ。人権は人間に必要なものでしかない。

 そんな時に僕が作ったのが、「ピタゴラスカード」っていうブランドさ。理想が高く、歪みがない。純音律のような世界に必要なカード。平均律のような汎用性は要らない。

 このカードに必要な審査は特にない。まぁ、ブラックリストの人はちょっと待ってもらうけどね。

 必要なものは、経済管理能力と良心。それを示し続ければ限度額なんてない。それらの能力が高ければボーナスが得られる。

 利用額請求の免除。期間はその人次第。

 このカードは人を試すカードだ。

 馬鹿げてるって鼻で笑うやつが多かった。でも僕はそれを作って交付した。最初はホームレスにね。

 まぁ、予想通り大抵の人は必要なものを示せなかった。だから、その分はなんとしてでも払ってもらったさ。ピタゴラスが無理数を認めなかったように、我々はそいつらの存在を認めなかった。

 でも、ちゃんと示し続ける人もいたよ。それが僕の一番の顧客だった。真面目すぎて馬鹿を見た人たち。その人たちの為に作ったカードだからね。

 まぁ、時間はかかったけど、このカードのボーナスと彼女の示した経済管理能力と良心。五年後には、彼女は億万長者になったよ。この当時のGDP七位の国よりも豊かな人になった。

 復活者、って呼ばれていろんなメディアに取り上げられた。

 この後何が起きるのか?

 世界はピタゴラスカードを強欲のまま必要とした。そして、その特典にありつこうとして必要な2つのものを示し続けた。

 全ての人間の強欲をそそらせるカードだからね。もちろん、一度でも破れば二度と発行しないから、みんなそれを守ったよ。

 あれから八十年経つね。

 貧富の格差はないし、経済で世界が困ることはない。純音律の世界だ。カードを使えない人にも寄付はたくさんされる。良心があるからね。そして、特典があるから気にしない。

 そこらじゅうで踏み倒されてるみたいけど、みんなお互いに踏み倒してるし、自分には被害が及ばないからないも言わない。

 それに、良心のある人々だからそんなことは気にしないんだよ。

 まぁ、僕の理念は達成された訳だけどね。経済管理能力と良心があれば上手くいく。

 調和というのは、欲望を円環に導くことなのだから。

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