第4話
「おはよう」
「おはよう」
少し早く目が覚めて早く学校に着いてしまった。時間が経つにつれて段々と賑やかになっていく。
今日はやけに騒がしいな。
「おはよう」
「、、、、おはよう!」
急に大きな声が聞こえて勢いよく身体を起こした。
下から上へと目線を移してみるが、ずっと眼を閉じていたことで眼の焦点が合わず誰が目の前に立っているのかわからない。
春陽?にしては背が高すぎるし、声も低いので選択肢から除外する。だが春陽以外に僕に話しかけてくる人に心当たりがない。しかも、2人いるっぽい。
「先週の金曜日、葉風さんとどこに行ってたの?」
まだ相手が誰なのか判別できないままに話が進んでいく。
「えっと、、さんぽ?」
嘘は言っていない。だってあの日は空き地に行って、家に帰っているだけだなので散歩みたいなもんだ。
家が向かいにあっただなんて口を滑らせたらきっと羨ましがるだろう。
段々と眼の焦点が合ってきて目の前に誰が立っているのかやっとはっきりとした。
えっと、、確か佐藤光と林原優希だったっけな。まぁそうだよね、流石に気になるよね。この場から早く逃げたいー。タイミングよくチャイムでもならないかなって思ったけど、まだ5分は余裕がある。
「ただ歩いただけなの?いつの間に2人は散歩する仲になった?できれば、もーっと詳しく聞きたいかな」
わー、質問攻めだー。こりゃもう逃げられん。ちょっと前まで俺の存在なんてないようなものだったのに、春陽の一言で一瞬にして存在が大きくなったようだ。
ここまで突っ込まれてしまってはもう誤魔化しも効かない。
正直に話すしかないか。
ん?正直に話すって何を?え、あの能力についてなんてなにも話せないじゃないか。
もうあの禁断の言葉を言うしかない。
「春陽の家と僕の家、近くにあるんだよね」
恐る恐る2人の顔を見てみると、やはり驚いているようだった。
やっぱりそうだよねー。もし僕が彼らの立場だったとしてもきっとその反応すると思うもん。
「つ、付き合ってるわけじゃ、ないんだよね?」
正気を取り戻した後すぐに、質問をされた。この様子だと、この2人は春陽に気があるのだろう。じゃなきゃこんなつっこんだ質問しないだろうし。
「いやいやいやいや、そんな付き合ってるだなんて。あの葉風さんですよ?僕なんかじゃ全く釣り合わないよ。家が近くにあるからよく登下校が一緒になるので、ちょっと喋る程度の関わりです」
「おー、そっかそっか。ってか以外と喋りやすいな咲人!もっとみんなと喋ればいいのに。つーか、今日の放課後一緒にカラオケしに行かない?」
うっ。キラキラ太陽の光が眩しいぜ。さすがクラスの中心の相田光。
「いいねー!他誰か誘う?」
続けて林原優希が話を進める。
「何人かに声かけておく!んで、咲人はどうする?」
たった一日。春陽と僕が話したあの昼休みで僕の存在は何倍にも大きくなったのだ。
ここで断るとまた変な空気になるかもしれない。
「僕も行きたいかな」
あえて友達を作らなかったわけじゃないし、ここが交流を広げる最後のチャンスかもしれない。この波にのるしかない!
「おはよう、咲人!」
オーマイ。僕が絡まれる原因となった春陽の登場だ。
「い、いやー葉風さん、おはようございます。今日、学校終わりにカラオケに行こうと思って咲人を誘っていたところです」
実は急にデレデレした話し方に変わった。
「そうなの?いいなー咲人が行くなら私も行きたい!だめかな?」
一体全体どういうつもりなんだ?その言い方だと春陽との関係が怪しまれそうなのだが。俺のこの数分間の頑張りがすぐに失われるではないか。
春陽は一瞬、こちらを見てアイコンタクトをしてきた。何を伝えたいのかさっぱりだったが、何か目的があってカラオケに行こうとしていることは何となくだが伝わった。
「もちろん!葉風さんなら大歓迎だよ。何人か葉風さんの友達も呼んでいいから」
俺の心配は杞憂に終わった。おそらく春陽と会話できたことが嬉しすぎて、話が深くは頭に入っていないのであろう。
キーンコーンカーンコーン
「チャイムがなっちゃった、じゃあまた後で!」
光や優希、そして春陽は僕の机から自分の机へと急いで戻っていき、静かな教室に担任の先生の声が響き始めた。
その後は何事もなく1日が過ぎていった。
まぁ相変わらず視線がこちらに向いていて居心地が悪かったので、気にしないように顔を伏せて寝たふりをしていた。
この格好をしているとみんなの話し声が鮮明に聞こえる。
やはり僕の話をしているようだった。
時間が経てばきっとみんな忘れて新しい話題になっているだろうから、できるだけ大人しくしてよう。
そう思った。
が、今日の放課後に春陽を含めてカラオケに行く約束を思い出して肩を落とすのであった。
もうここまできてしまっては言い逃れのできない状況が生まれやすくなってしまう。それよりもおそらく春陽は何も隠そうとしていなくて、自分の選んだ道に進んでいる。
そうこう考えているうちに今日の授業が終わり、みんなは帰り始めた。
カラオケに行くメンバーは授業が終わると同時に帰りの支度をし始めて、僕の机に集まった。
目的地に着くまでの話題はもちろん僕だ。好きな食べ物から趣味など根掘り葉掘り聞かれた。
カラオケに着くとすぐに光は曲を入れた。盛り上げに適した一番目の曲に相応しかった。そして、気づいた時には隣に春陽が座っていた。これ絶対狙ってるやろ。
ってかあれ、俺何歌えばいいんだろう。ここに来るまでにアニメが好きなことは伝えたけど、僕がよく聴くアニソンってゴリゴリ過ぎて引かれるんじゃないか?
僕が上手に歌えて、場を明るくできるやつで、何よりもみんなに引かれないような親しみのある曲。頭をぐるぐる回転させて、やっとの思いで、答えが出てきた。
「はい、咲人」
ちょうど僕が曲を入れるターンになったようで、春陽が僕にタブレットを渡してきた。
春陽は最近SNSで流行っている可愛い系の曲を選んで歌っていた。さすが春陽この曲に合っている。ふと周りを見てみると光と優希は春陽の歌っている姿に見惚れて溶けていた。
いよいよ僕の出番が回ってきた。
曲名「好きの向こうに」
「ぱっと目を閉じて
光を塞いだら あなたのその心奪い去ってみたい ………………君の胸にズキュン」
ふぅー久しぶりに歌った。この曲は最近流行っているアニメの主題歌である。
「咲人、歌上手いね!それって何の曲なの?」
あれ、思っていた反応と違う。今、流行っているはずだから、みんな知ってると思ったのに。みんなの顔を見てみるが、みんな知らない曲だけど、いい曲だねみたいな反応をしている。このアニメは終始キュンキュンする場面があって、とにかく主人公が可愛い。やたらとSNSに流れてくるから流行っていると思ったけど、俺の中でしか流行っていなかったってことか。なんたる不覚。
「その曲ってもしかして、あの「可愛いが全て」のop?!」
通じてる人いたーー!ってか春陽じゃないか!?
「あのアニメいいよね!一話目の最後の方のりのたんがメイド服着てる姿、あれに惚れないやついないでしょ。でも、やっぱりこのop、もう最高すぎる。最後のズキュンの部分を何度真似したことか」
春陽は怒涛の勢いで語り始める。そうだよな。やっぱり最高だよな!ってかこの感じは、ガチオタではないか?
おっと、オタクモードが、発動してしまった。我に帰り周りを見たら、あらびっくり仰天。みんな口を開けてポカンとしている。
もちろん原因は春陽であろう。みんな言葉が出ない様子であった。
「みんなも面白いからみてみて!」
そんな空気になっているのを知ってか知らずか、みんなにおすすめをし始めた。
「お、おー!2人がそんなに言うんだったら、見てみようかな」
優希は春陽の熱に押されて、見てみようとしている。
布教成功だ。
なんやかんやあって楽しいカラオケの時間は終わりを迎えた。
今回のカラオケで春陽との関係が余計に怪しまれるきっかけとなりそうだが、実や優希は変わらず話しかけてくれるのでしばらくは安心できそうだ。
春陽の家と僕の家が近いといったことで、帰りに同じ方向に向かっていても特に何も言われなかった。
これに関しては言ってよかったと思える。
みんなと別れて春陽と帰っていると、突然止まり、足を逆に向けた。
そして、なぜか優希を尾行するという形が出来上がった。
一体どういうことなんだ。
まぁ、この流れはきっとあれ関係だよね。
My FLOWER 御野影 未来 @koyo_ri
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