第3話

 目が覚めて、時計を見てみると6時30分を針が示している。今日はいつもより早く起きてしまった。カーテンは閉まっているが隙間から光が差しているので、部屋の中は薄暗い。

 もうすぐ7月に入るので気温が高くなってきており、体感温度も上がっているので身体が暖かい。

 今日の集合時間は午後2時。

 まだ約束の時間まで8時間以上ある。

 集合場所は歩いてほんの数秒の所に建っている春陽の家。

 約束の時間まで予定はないので、もう一眠りしようと思ったがどれだけ長く目を閉じていても眠りにつくことはなかった。

 仕方がないので重たい身体を起こして自分の部屋のある2階から1階に降りてリビングへと入った。

 母はすでに仕事に出掛けていて、父はまだ寝ているようだ。

 静かなリビングを歩き、冷蔵庫から緑茶を取り出す。

 「とくとくとく」と注がれる音が部屋中に響き渡った。

 今日はやけに音が透き通って聞こえる。

 テレビで昨日録画したアニメでも観ることにしよう。僕はソファに座りテレビの電源を入れた。

 異世界転生もののアニメを観て昨日の出来事を不意に思い出した。

 

 ピーンポーン


 頼んでいた荷物でも届いたのであろうか。

 ソファから腰を上げてインターフォンを確認すると、そこには春陽が映っていた。

 休日なので当然だが、制服ではなく私服を着ていて花柄のワンピース姿であった。

 何かあったのかと恐る恐るマイクのボタンを押してみる。

 「はーい」


 「おはよう、咲人!来ちゃった」

 実際に言っているわけではないが最後に「てへっ!」みたいな音が聞こえる。来ちゃったとかいう軽い乗りで来られてもまだこちらはいろいろと準備が整っていない。

 「まだ約束まで時間あるけどどうした?」


 「約束の時間まで暇だから、咲人も時間が空いているなら時間早めてもいいかなと思って来てみた!」

 

 「そういうことね。時間空いてるけどまだ準備できてないから20分後に春陽の家行ってもいい?」

 なんてことだ、メールとか電話があるというのに、わざわざ家にまで来たというのか。

 あ、メール交換してなかったや。ってへ。

 

 「わかった。じゃあ待ってるね」

 何とか時間をもらうことはできたが、髪の毛も寝癖つきまくってるし、何と言ってもまだ心の準備ができていない。

 今更だけどもうちょっ時間を貰えばよかった。とりあえず身だしなみを整えるとするか。

 洗面所に行き顔を洗って、鏡で自分の髪を見てみると想像以上に寝癖がつきまくっていた。急いで水で髪を濡らしドライヤーで髪を綺麗に乾かした。なんとか人前に出ても恥ずかしくない姿になったところで服選びに移った。

 休日は家でゴロゴロしているのであまり服を持っていない。

 ズボンに白いTシャツを着て、上着を羽織り自分の持っている服の中で一番マシなものを選んで着た。

 ここまでで18分くらいかかっていた。

残り後2分でおかしなところがないか鏡を見て最終チェックを行って、春陽の家に向かった。

 数秒で春陽の家に着きインターフォンを押した。すると、ずっと見張っていたのではないかというスピードで春陽は玄関の扉を開けた。心の準備は整った。

 「お邪魔します」

 

 「いらっしゃい。とりあえず私の部屋に行こうか」

 春陽の部屋は2階に上がって左側にあった。お姉さんか、妹さんがいるのか、春陽の部屋の奥には「YOKO」と書かれた部屋があった。

 部屋に入ると既にテーブルの上にはジュースとお菓子が準備してあった。

 どこに座るか迷っていたら春陽が座布団を用意してくれたのでそこに座った。

 

 「まずはこの仕事の歴史について話すね」

 春陽は一冊のノートを取り出して1ページ目を開いた。ノートは綺麗な字で埋め尽くされており、几帳面だということが窺える。

 「初めてこの世界の異変に気付いたのは約20年前。当時19歳であった葉風陽一と日向夏希が2人で河川敷で歌っていたところ、草むらから花が急に咲き、彼らの周りを埋め尽くしたそうだ」


 「ちょ、ちょっと待って!い、いろいろ突っ込みたいところがあるんだけど、まず聞きたいのはその話に出てくるのってもしかして春陽の両親?」

 こんな重大なことに気付いた時のシチュエーションがあまりにものほほんとしすぎていて、これが語り継がれていることに初代の方達はどんな思いでいるのか気になり過ぎる。


 「あー、葉風陽一は私のお父さんだけど日向夏希はその時お父さんが付き合っていた彼女であって私のお母さんではないかな、、」

 そうだよね、春陽が生まれる前の話だからお父さんは苗字的にそうだとしても必ずしもお母さんがこの人とは限らないよね。お父さんもてていたのかな?


 「話の続きだけど、その出来事があってから2人は人々の心の中にある花が見えるようになったの。いろんな人を見ていくうちに人によって匂いが違うことに気付いた。そしてある特定の匂いを放っている人は見かけた後すぐに亡くなったり、事故に遭ったりしていることが分かった。最初は匂いでの判別は難しいけど、慣れたらすぐに嗅ぎ分けられるようになるからそこは心配しないでね。花に詳しい人だと、咲いている花の違和感で危機を予知する人もいるんだ。私は最近やっとわかるようになってきたところなんだけどね。ざっとまとめると、歴史はこんな感じかな。

 ここまでで何か質問ある?」


 「と、とくにないです」

  今までこんな世界があったことすら知らなかった僕にとっては、全てが未知すぎて何を質問すればいいのかすら分からない。


 「じゃあ、次は能力について説明するね。

この力を使える条件は前にも言ったように名前に春夏秋冬や花に関する漢字が使われていること。どうしてこの能力の存在がほとんど知られていないかというと、この能力を使える人がその存在を教える必要があるの。今回の場合は私が咲人に教えたことによって、咲人に能力が宿ったってことになる。今までは光すら見えていなかったでしょ?光が見えるようになったということは、いつかは心の花も見えるようになるはず」


 「えっと、、1つ伝えていなかったのですが、いつからかはもう忘れてしまったのですが、光ならずっと前から見えていました」

 実は光は小さい時から見えていた。あまりにも当たり前の日常すぎて、これが異常だということに気づかなかったようだ。


 「え、、!!うそ、家族にこの仕事してる人がいるとかではないの?」

 春陽は目を大きく見開いて非常に驚いていた。


 「んー、そんな話聞いたことないけどな。母は雑貨屋さんしてて、働いているところを見てきたけどそんなそぶりはなかった。父も会社員してるはず」

 休みの日に何度か母のお店を手伝ったことがあるので怪しいところがないのは確実だ。

 父が仕事をしているところは見たことがないので何とも言えないが、休みの日の様子はいたって普通だ。

 

 「えっとー、、そしたら突発的な能力の発現か、それとも記憶にはないけど昔に能力について聞いていたかの2択かな。いや、でもこれ以外あり得ないって決めつけたらいけないか、、まだこの能力には解明されていないことも多くあるだろうし」

 春陽は少しの間頭の中の知識をぐるぐると回転させて考えていたが、正解は見つけられなかったようだ。

 

 「今考えても仕方ないか。これから私たちがこの能力について解明していけばいいよね!実戦あるのみ!咲人には私と一緒にみんなを救って欲しいの。一緒に歌えば効果も高まるし、まだこの能力には無限の可能性を秘めているんだもん!それを一緒に見つけたいと思ってる。どうかな?」


 「答えはイエスで!正直にいうと今までの日常からかけ離れていて逆に興味があるし、むしろやらせてくださいと思ってる」

 長い付き合いになりそうなので全て正直に話した方がこの先楽だと思ったので、ありのままを話した。そして今まで春陽に見せたテンションより高めの本当の自分を解放した。 

 春陽は少し驚いた顔をしていたが、何かを悟ったのか口角を大きく上げてにっこりとした笑顔を僕に向けた。

 可愛すぎるやろ。


 

 

 

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