僕たちがいつか大人になるということ

１ どこに行こうか？ きっとどこにでもいけるよ。

　僕たちがいつか大人になるということ

　どこに行こうか？　きっとどこにでもいけるよ。

「彗星って孤独なのかな？」

　天文部の部室に貼ってある彗星のポスターを見つめながら、森虹はそんなことを突然、幼馴染の親友である大葉朝にいった。

　彗星のポスターを見ている虹の目はいつものようにずっと遠くにあるなにかを静かに見続けていた。

　いつもそうやって虹は子供のころからずっと、すごく難しいことを考えていた。

　とても大切ななにかを知りたいと思っていた。

　朝はそんな虹の目を見ながら、虹の考えている『すごく難しいこと』を知りたいと思ったし、虹の探して言える『とても大切なこと』がなんなのか知りたいと思っていた。

　でも、どちらも結局、朝には知ることができなかった。

　わかろうと努力したのだけど、朝には全然、わからなかった。

　虹はとても頭が良かった。

　有り体に言えば虹は天才だった。

　県内有数の進学校である朝たちが通っている高校の中でも、いつも一番の成績をとっていたし、それだけではなく、全国でも上位十名くらいのところにはいつも森虹の名前があった。もっとも、虹本人は自分のことを天才だとは全然思っていないようだったけど、（虹はいつも朝に「僕は天才じゃないよ」と笑って言っていた）朝から見た虹は間違いなく天才だった。

　虹は朝の手の届かないところにいた。

　そんな虹に、朝はずっと子供のころから憧れていた。（虹は朝にとって、正義のヒーローのような存在だった）

　虹はいつものそんな朝の憧れた目をして、朝のことを見つめた。

　朝は部室の椅子に座っていて、長いテーブルの上で本を読んでいたのだけど、その本を読む手を止めて、さきほどからずっと虹を見ていた。

　朝は虹の透明な目を見て、とても綺麗で、まるで宇宙のようだ、と思った。

　朝はそれからずっと、彗星は孤独なのか、そうじゃないのか、そんなことばかりを毎日毎日、考えていた。

「あのすみません。突然、失礼します」

　そんなことを言って、虹の妹である森風が近所にある朝の実家を訪ねてきたのは、夏休みのある日のことだった。

　朝が家の外に出ると、泣きはらした赤い目をした風がにっこりと笑って、「お久しぶりです。朝さん」といつもと変わらない明るい口調でそう言った。