8話 もくもくばたばた

 暇つぶしが出来たみたいで雪音が前より出てくるようになったのは助かる。

 それだけ俺が表に出る時間が減るからな。


 表は雪音に任せて憐と一緒にソファでくつろいでたら名前を呼ばれた。

 恒例のリビングに今誰かいるかって確認だな。

 今は俺と憐しかいないから、操縦席からこっちを見ていた雪音がすぐに正面を見るはずだった。

 なんだけど、なんか目を細めてこっちを凝視してくんだよ。


 いや、こっちって言うか後ろか?

 この部屋ってソファ以外何もないんだけどな。

 雪音が「んん?」って言うもんだから、友人も「どうしたん?」とか言ってる。


「今気づいたんだけど、隅っこの方になんかもくもくしてる人がいる」


 リビングは薄暗いから雪音が気づくまで全然わからなかった。

 まじで煙を纏った人格がいる。顔は煙のせいでよく見えないけど、新顔だ。性別も……これじゃわかんねぇな。

 友人は「もくもく? 煙草でも吸ってんの?」って感じで首捻ってるが、まぁ、見えねぇもんな。


 もくもくしてるやつってのは俺たちの中だとまずいんだよ。

 危険思想だったり自殺願望だったり、そういう人格はなぜか煙を纏うんだ。危険なやつほど濃くなる。

 顔もわかんねぇし、これはかなりヤバい。


 俺は以前、他のもくもくした奴に殴られて気絶させられた挙句、部屋に鍵かけられて閉じ込められたこともあるんだ。

 そんなことがあったもんだから、憐のやつは超ビビる。

 なんなら俺を残して一人でモニターの方に逃げやがんの。


 薄情なやつだなーなんて思ってたら、今度は雪音を見て慌てんだよ。

 操縦席行ったら表に出ちまうもんな。

 どうすんだって思ったら、憐のやつは嫌がって方向転換して逃げてくんの。


 でも、そっちはまずいぞ。もくもくしたやついるからな。

 案の定、引き返して俺のとこに逃げて来た。

 そんで、ソファの背もたれに隠れながら、もくもくした人格と雪音とを交互に見んの。

 きょろきょろきょろきょろと、挙動不審にもほどがあるだろ。


 仕方ねぇから、そのあとは俺が頑張って、もくもくしたやつを部屋に戻したよ。

 憐は逃げられるように、ずっとこっちの様子伺ってたな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る