5話 騙された
表に出られるのは孤槍の真似ができるやつって前提があったが、病院ではそうじゃない。
医師や看護師から真似しなくていいよって言って貰えたからだ。
だから、自由に交代できる。疲れたらリビングに引っ込む生活ができるはずだった――
なんだけど、入院中は基本的に俺か憐のどちらかが表に出ていた。
困ったことに入院生活は手にした自由より、別の不自由さが待っていたんだ。
その精神的苦痛から、他の人格たちはリビングにすら出て来やしない。
入院初週に至ってはほぼ俺のワンマンライブ状態だ。
その精神的ストレスから派生したのが憐だ。俺から分裂した唯一の人格だな。
それでも完全に二人だったわけじゃない。
たまーに、遊びたい盛りのなのはが出てくるし、
この雪音ってのは自称JK。
まあ見た目もそんな感じだし、サバ読んでるわけではなさそう。いや別に、サバ読もうがこの世界じゃどうでもいいんだけど。
雪音を一言で表すなら陽キャ。
明るい時の孤槍ってのが第一印象で、めんどくさがり屋なところも、マイペースなところも孤槍そっくりなんだよ。
だから、超気まぐれでリビングに出てくる。
俺たちはよくリビングで会議を開くんだけど、主に情報共有だったり今後の予定を考えたりするんだ。頻度としては週二、三回ってところかな。
この日の議題は、入院生活を俺と憐の二人で回しているってことだ。
正直、二人で回すには疲労が半端じゃない。そこで各人格たち共通の難題、お風呂とご飯に挑むことになった。
ようは、俺たち好き嫌い多くて、食事も風呂も嫌いなんだ。
食べなくていいなら食べたくないし、入らなくていいなら入りたくない。
特に憐はお風呂がダメだ。
孤槍は女性。対して憐は男性。しかも十三歳という年頃だ。良からぬことはしない性格にしても、多少なりとも意識してしまうのは仕方がない。
そこで翌日は、お風呂を雪音、昼食は憐が担当することで負担を分担しようって話になった。
お風呂は予約制だったので事前にお昼前に取ってある。
手筈通り、風呂のために表に出ていた雪音が、憐に「交代の時間だよ~」と声をかける。
モニターを見ていた俺はすぐに「ん?」ってなったが、憐は疑うことなく表に出て行った。
時間はまだお風呂に入れるようになったばかりの時刻。
すぐさま憐は状況を察したが、もう遅い。
雪音はダッシュで部屋に逃げ込み、憐は俺に助けを求める。
だが、俺も風呂に入りたくない。
なので、俺は憐のやつを応援しといた。頑張れ、と。
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