4話 こいつはちょろい

 二〇二三年某日、俺たちは精神病院に入院することになった。

 他の連中は基本的に俺が孤槍の真似ができるようになるまで特訓して表に出すんだけど、入院してから生まれた十四人目、こいつが優秀だった。

 名前はれん。眼鏡をかけた十三歳の男の子。まあ、顔は可愛い方なんじゃないか?


 こいつならすぐに表に出せるのでは?

 そう思った俺は、異例だが生まれて数日の憐を表に出すことにした。

 決して病院生活が嫌だとか、病院食が嫌だとかそういう理由では決してないからな?


 だから、病院生活で、卓球、色塗り、組紐、ポンポン手芸とことあるごとに憐が駆り出されたのは、単に運が悪かっただけなんだ。

 丁度、看護師さんに呼ばれるタイミングで憐が表に出てしまったからだ。俺は何もしていない。


「そろそろ交代して欲しいです」

「交代してくれないヴィヴィさん苦手です」


 表に出てる憐がなんか言ってる気もするが気のせいだろ。

 頼りにしてるぜ憐。


「僕頼りにされてるので頑張ります」


 実はエッセイ書くかって話は入院してた頃から浮上してたんだ。

 なので例の友人はすでに憐のことを始め、俺らが多重人格だってのも認識してた。

 

 その日は、なのはが友人とLINEしてたんだけど、丁度通話できないタイミングだったみたいで、ラムネ食べながら待ってたんだ。

 なのはもおかし食べてる時は大人しくて助かる。

 でも、問題はここからだった。

 待ってる間に、なのはがラムネを口に入れたまま寝ちゃったんだよ。それで憐が強制的に表に出されたわけだ。


 交代するだけならいつものことなんだけど、困ったことに、俺らって食の好みが人格によって違うんだ。


 なのははラムネが大好きなんだが、憐は嫌いでね。

 憐にとったら寝起きから最悪だったと思うぜ。なにせ、口ん中にラムネ入ってるんだもんよ。

 あの時の憐の顔ったら……ふっ。笑うわ。


 これはネタになるなってLINEで友人と話してたんだけどさ、後日、孤槍にエッセイ書いてるのバレちまった。文章で残すとダメだな。失敗したわ。

 当然、孤槍が初耳なんだけどって驚いてたけど、まぁ、内緒で進めてたから知らないのも無理はないんだけどな。

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