第5話 TAKE 2

 半年ぐらい前に、私は、老婆の占い師に出会った。


「警察に捕まりそうなんだけど、どうにか逃げられる方法はない?」

「あるよ。もう一人のあなたになればいいよ。」

「逃げられるんだったら、なんでもいいわ。でも、どういうこと?」


 眩しい朝日。私は、ベットで目覚めた。あれ、さっき、老婆の占い師と話していたんだけど、夢だったのかな? そんなことよりも、警察に捕まる。どうしよう。


 そう、私は、少し前に付き合っていた健一に言い寄ってくる雌猫がいることに気づき、その女が夜道を歩くときに、後ろから肩を掴み、彼から離れろと言ったの。そしたら、ハンドバックで私の頬を殴り、かすり傷だけど、頬から血が出ていた。そして、無視し続けて健一にベタベタと付き纏い続けた。気持ちが悪い女ね。


 こんな女に口で話しても通じないわ。口で分からないんだったら、力で教えてあげないと。そこで、その女の跡をつけ、住む四ツ谷のマンションを見つけた。そこで、ある日、その女のマンションを訪問し、宅配便ですと入り込み、彼女を台所の包丁で殺した。


 床が血でいっぱいとなって、体が痙攣していた姿は、蚊を手でパチンと殺したような感じだった。そう、害虫は駆除しないと。それから、シャワールームで血を洗い流し、持ってきたシャツに着替えた。意外と、高級なリンスを使っているじゃない。こんな女にはもったいない。


 ドライヤーをかけた後、死んだ女を上から見下ろして、冷蔵庫にあったアイスを食べてから、その女の部屋の部屋をでた。後で、アイスを食べたスプーンは洗っておいたけど、指紋を拭き取るのを忘れたのを気づいたわ。でも、今更、その部屋には入くと疑われそうなので、やめた。


 その女は、偶然なんだけど、夏休みで海外旅行に行くって会社に言っていたらしく、1週間ぐらい暑い夏の部屋で放置されて、さらに出社しないからって探されたのが1週間ぐらい後だったので、見ることもできない状態で腐乱して発見されたってテレビで言っていた。元々、心が醜いんだから、外も醜くなってちょうどいいって感じ。


 でも、健一もひどい。こんなくだらない女に引っかかって、私を裏切るなんて。こんな男は許せないと怒りが沸々と湧いてきた。


 そこで、彼とドライブに出かけて、公園で眠り薬を入れたお茶を飲ませた。そして寝た頃を見計らって、山の中の林道で、私は、車を降り、彼を運転席に乗せ替えて、上からタイヤのストッパーを外した。彼を移動するときは、本当に重かったけど、指紋とかは拭き取っておいたし、身分とか分かるものも全て取っておいたわ。


 そうしたら、車はスピードをあげ坂を下っていき、曲がり角でガードレールを突き破り、谷に落ちていった。そして、河原に落ちて車から炎が出ていたわ。私を大切にしないから、こうなるのよ。大切にすべきだったわね。


 でも、殺害から数ヶ月経っても、警察が私のところに来る気配はなかった。それよりも、おかしいことがいくつもあった。1つ目は、彼を取って仲違いをした琴音とは仲良く話すことができた。そして、当時、付き合っていた同期の彼とは付き合っていないことになっていた。


 同期の高宮に、今夜会わない?ってDMを出しても返事がなかった。そこで、廊下で会った時に、最近、冷たいじゃんって話しかけたら、不審者でも見る目で逃げて行った。どうも、私達は付き合っていないみたい。


 警察の件もそうだし、どうも、別の世界の私に変わったみたいだと気づいた。あの老婆の占い師のおかげだろう。


 職場の女性たちとも仲良く話せて、ランチとかも一緒に行けるような人も何人もいた。おそらく、あの占い師がこの世の中を変えてくれたんだと思う。私は、2人を殺していないことになったのだと思う。これで、人生をやり直せるわ。


 でも、付き合っている男がいないのは退屈ね。出会い系アプリで眼科医と出会い、付き合うようになった。彼は、とっても紳士で、私を大切にしてくれた。


 でも、ある日、防犯業者が訪問してきて、部屋から監視カメラ、盗聴器とか10個以上出てきた。また、それとほぼ同じ頃、大学の時の友人から連絡があり、私の上半身が裸な写真や、私が寝ていて、下着も全く付けていない写真とか、下半身をアップした写真とかがネットで出回っていることがわかった。


 そして、私は、写真のせいで会社をクビになってしまい、キャバクラで働くことになったわ。でも、キャバクラって、女社会で、気に入らない女が多く、あんまり楽しくない日々だった。


 私のこと、いつも文句言ってくる女がいて、ひどく突っかかってくるから、まだ誰も来ていない時間に、その女を非常階段に呼び出し、突き落としてやった。そして、私は、何もなかったように、定時にお店に出勤したら、警察が来ていて、階段からあの女が落ちて、頭の打ちどころが悪く死んだと聞かされた。


 そして、会社をクビになった原因の眼科医も許せなかった。キャバクラには暴力団の人もい他ので、一晩寝てあげるから、殺してと言ったら、即答でOKだって。どう殺したのと聞いたら、ホームで突き落とし、電車にはねられたって。当然の報いね。


 それから数ヶ月して、警察が私のところに来た。キャバクラで、死んだ女といつも揉めていたということで、殺害の容疑者だということだった。でも、私は、家にいて、事故の後にお店に来たと言ったんだけど、周辺の監視カメラで私が事故直後に近くを歩いていたという証拠を見せられた。


 言い訳できない状況だったけど、刑事たちは、眼科医の殺害も疑っていて、私がお願いした暴力団の団員が、私の指示で殺害したと自白した。


 私は、いずれも知らないと言ったけど、嘘は通せないものね。2人を殺害し、反省の色が見えないということで無期懲役の殺人罪が言い渡さた。そして、私は、今、刑務所にいる。


 占い師の老婆は、刑務所の前で空を見上げていた。


「途中で違った道を歩いても、結局、同じところに行き着くもんなんだよ。でも、どっちが幸せだったのかね。意外と、誰も殺していない彼女の方が、男性と幸せな時間を過ごせてよかったかもしれないね。これからも、時々、入れ替わるけど、刑務所だと入れ替わったって気づかないかもね。」


 そう言って、老婆は、笑いながら街中に消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パラレルワールドの公式 一宮 沙耶 @saya_love

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ