第4話 逮捕

 朝、突然、玄関のベルが鳴った。パジャマ姿で出ると、警察だと言うじゃない。警察手帳とか見せられても、それが本物かどうかはわからないし。でも、逃げる理由もないので、少し待ってもらい、着替えをして、玄関を開けて、話しを聞くことにした。


 でも、その場ですむ感じじゃなくて、少し込み入った話しなので、警察にきてほしいと言われた。今日は、特に用事はなかったけど、悪いことしてないし、どうしようかと迷っていたら、来ないと今度は令状を持ってくると言われたので、行くことにした。


「半年前の8月15日、夜11時から1時までどこにいましたか?」

「そんな前のこと、よく覚えていませんが・・・。」


 その日は、老婆の占い師と会う前で、今の自分が何をしていたかわからないから、昔の私の話しをするしかない。


「わかりませんか?」

「携帯でスケジュール確認してみますね。多分、この日は、仕事も少なかったので早く家に帰って、家で夕飯を1人で食べてました。何か、あったんですか?」

「それはおかしいですね。その時間、あなたが、四ツ谷で、マンションのエレベータにある監視カメラに写っているんですが。」

「そんなはずはないですよ。四ツ谷とか行かないし。他人の空似じゃないですか。」

「本当のことを言わないと、後で不利になりますよ。あなたの指紋を採取させてもらいます。伊藤 瑞希が殺害された現場にあった指紋と照合しますので。」

「伊藤さん? 誰ですか?」

「そこまでシラを切るんですね。伊藤さんは、あなたが当時、付き合っていた佐藤 健一さんが付き合っていた女性です。二股をかけていたことを怒って、あなたは、その後、彼と別れたって、わかっているんですよ。」

「なんの話しか、全くわかりませんが。」


 刑事は、廊下で同僚通しで話していた。


「あの女が殺ったとしか考えられないな。」

「どうしてですか?」

「だって、殺害された直後に別れるなんて。佐藤が1人で殺して、あの女が知らないんだったら、こんなタイミングよく別れないだろう。そもそも、あの女と過ごしたいから殺したんだろう。また、佐藤が1人で殺して、当面ほとぼりを覚ますために距離をいたとしても、あの女が彼をあんな風に庇わないだろう。そうすると、一緒に殺したか、あの女が殺して、裏切った佐藤と別れたというのが自然じゃないか。」

「佐藤も行方不明で、ここまで捜査が長引いてしまいましたが、やっと、この女まで辿り着けましたね。決着まで、すぐそこって感じです。がんばりましょう。」

「そうだな。佐藤が行方不明だったから、佐藤が犯人と思い込んでいて、時間を浪費してしまった。佐藤に別の彼女がいたなんて、分からなかったからな。」


 その日は帰させられたが、翌日、令状を持って刑事がきて、私は警察に連れて行かれた。


「伊藤さんが殺害された現場にあった指紋とあなたの指紋が一致しましたよ。どうして、その時間に家にいるって嘘をついたんですか?」

「本当に家にいましたし、伊藤さんも誰か分からないんです。」

「じゃあ、どうしてあなたの指紋が伊藤さんの殺害現場から出てくるんだ? そんな嘘をついても、辻褄が合わないんだよ。お前が殺害犯人なんだな。早く自白した方がいいぞ。」 


 ちょうど、その時、山中で死体で発見された死体が佐藤だということも判明した。それまで、車が盗難車で、車が焼け焦げ、身元が分からなかったらしい。でも、伊藤 瑞希の件で、私の交流関係が調べられたときに佐藤ではないかとなり、歯形の照合で佐藤だと特定されたんだって。


 さらに、事故の直前、山に向かう道の監視カメラに、死亡した佐藤と一緒に車に乗っている私の写真が写っていたらしい。


「なんて女なんだ。伊藤さんだけじゃなく、付き合っていた彼も殺したのか。しかも、盗難車を使ったって。暴力団とかの繋がりもあるんじゃないか。見た目と違い、すごい悪人なんだな。」

「盗難車とか、佐藤さんとか、私は全く、知りません。信じてください。」

「証拠が、お前が殺したって言っているんだよ。本当にしぶとい女だ。」


 私は、伊藤という方や、佐藤という方とは、全く会ったこともないしって言い続けたんだけど、いくら言っても信じてもらえなかった。そこで、誰かにはめられたんじゃないかと強く言った。でも、前にいた会社での私の評判は最悪で、関係を持ちたくないという人ばかりだったので、はめる動機もないだろうという結論になった。


 平行線のままで捜査は長期間に及んだんだけど、私の職場の何人もの人から、私から佐藤さんが彼だって紹介されたという証言があり、警察の誰もが、私が嘘つきだと思うようになった。


 どうして、誰も、私のこと信じてくれないの。でも、もう一人の私が殺したのかもしれない。ただ、別の私と言っても私なんでしょ。こんな温厚な私が人を殺すはずないじゃない。


 でも、親友の彼を取っちゃうとか、職場の大半の女性社員から嫌われていたとか、もしかしたら、ひどい女だったのかもしれない。どうして、人生を交換しちゃったんだろう。人生を交換すれば、ばら色の人生だと信じていたのに。


 私は、控え目で、周りに迷惑をかけないように静かに過ごしてきたのに、これがその結果なんてひどい。ただ、男性に優しくしてもらって、普通の結婚生活がしたかっただけなのに。そんなささやかな願いも、叶えてもらえないの。


 でも、指紋や監視カメラが決定的な証拠になり、2人を殺害し、反省の色が見えないとして無期懲役の殺人罪が言い渡さた。そして、私は、今、刑務所にいる。

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