第二話 農薬は必要なの?
『今日も質問が来ていたぞ』
コッパは手紙を読み始める。
『無農薬でも農作物は作れるのだから、農薬を使う意味が分かりません…だそうだ』
『たっ…確かに使わない方が、あっ…安全な気がするんだな!』
リュートは深いため息を吐いた。
『そういう質問は凄く多いんだけど、先に植物も病気になるってことと、農薬を使う意味を知って欲しいんだよな』
『しっ…植物も病気になるだか?』
『色々な病気があるけど、それは店に並ばないから見たことがないだけなんだ。<晩腐病>とか<灰星病>とか検索してみな』
『こっ…これは、店に並んでいたら二度とその店に行かなくなるほどの酷さだな…』
実物を見たコッパの顔がひきつる。
『よくある勘違いは、農薬は果実に使うわけじゃねえってことだな。農薬は樹や葉っぱに使うんだ』
『そっ…そんな使い方で、びっ…病気が治るんだか?』
『農薬は病気を治すために使うわけじゃねえよ。病気にならねえために使うんだ。それに病気の多くは、風や雨で拡散して感染しちまう。病気になってからじゃ遅いんだ』
『しかし感染する病気ならば、一度農薬を使って病気の原因を撲滅すれば毎年使う必要はないのではないか?』
コッパがリュートに質問した。
『それが可能なら最高だよな』
リュートは悲哀を帯びた声を出した。
『農家だって農薬を使わないで良いなら買いたくなんてねえよ。その分儲かるんだからな。でもな病気の原因は土の中にもあるし、そこらじゅうにあるんだ。人間だってコロナやインフルエンザを撲滅したいよな?でも撲滅出来ずにいる。病原体を撲滅出来ればワクチンも薬も必要なくなるけど、金を払い続けて病気にならないようにしている。それと同じなんだよ』
『だが農薬を使わずに野菜を作っている者の話を聞くことはあるぞ』
リュートは嘲笑うような目でコッパを見た。
『確かに農薬を使わなくても野菜は作れるぜ。ただし物凄く手間がかかる。だがこの国で農業をしている人間はどのくらいいるか考えたことはあるか?』
『あまり多い印象はないな…』
コッパは口元に指を当てて考える。
『農薬を使わないで育てているヤツは、どれくらいの量を作っている?農家は何トン単位の農作物を作っているし、畑の面積も何千㎡単位だ。そうしないと人口の数%しかいない農家が国民に十分な食料を供給することなんてできねえよ』
『でっ…でも、のっ…農薬は使っても安全なんだか?』
ミンがリュートを不思議そうに見つめていた。
『農薬は使ってから何日間は出荷出来ねえっていう基準があるんだ。基準があるってことは、その日数を過ぎれば安全だっていう保証をされてるってことだろ。だから農薬が無害とは言わねえけど、用法用量を守って使えば心配することはねえよ』
リュートは最後にポツリと言った。
『人間だって怪我したり病気になったりするんだし、そうなったら薬を使うんだから、それと同じだと思うけどな…』
第二話 完
リュートの農業講座 ボンゴ @pox-black
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