part Kon 12/07 pm 4:12



 


 何がどーなって こーなった?



 メガカラ藤浜駅前店 413号室。

 狭く薄暗い 個室の床に座り込んで 亜樹がボロボロ泣いていた。


 数分前まで ほとんど あたしの思惑通りに 物事は 進んでいた。

 数十秒前ですら ある程度まで 想定の範囲内。


 そして 現状。

 完全に意味不明。



「ゴメン。もしかして 蹴っちゃった?」



 違うと思いつつも 身体を起こし 亜樹に 声をかける。

 亜樹は 顔を覆いながら 小さく首を振る。


 

 そう。

 それも 分かってた。


 亜樹が 覆い被さってきたとき あたしは 形ばかりの抵抗は した。

 だけど 蹴ったり 突き飛ばしたりは してないハズ。


 押し倒されて 胸 鷲掴みにされて 首筋にキスされて ビックリは したけど 嫌じゃなくて……。

 って 思ってたら 突然 亜樹が 床に崩れ落ちて 泣き始めた。


 

 なんで?



 

 今日のここまでを 思い返してみる。


 今日 2人で会う約束したのは 初デートの最後。

 もうちょっと キスしたかったって言ったら カラオケに誘ってくれた。


 あたしも カラオケ嫌いじゃないし『ああ 次は カラオケか…』ってその時は そのまま別れた。

 でも あとあと 考えたら 普通に カラオケ誘ってくれたんじゃなくて カラオケボックスでイチャイチャしようって意味だったんだって 気がついた。


 だってメガカラ藤浜店だもんな。

 ここは 藤工生の間では ラブホ〈メガカラ〉って呼ばれることもある 藤工カップルのイチャラブスポット。

 クラスの子が ここで 触りっこしたとか 話してるのは 実際 あたしも聞いたことある。

 噂話レベルでは 誰々と誰々が フェラしたとか 本番までしちゃったみたいなことが 囁かれてたりする。


 亜樹のお兄さんは 藤工のOBで しかも 伝説のプレイボーイ。

 亜樹が ここのハナシを知ってても ぜんぜん 不思議じゃない。


 桜橋にも メガカラあるのに わざわざ藤浜だもん。

 亜樹のことだから 直接言うのは 恥ずかしかったんだな…たぶん。



 ただのカラオケじゃなくて イチャラブカラオケって 気がついたのが 一昨日の夜。

 まあ オクテでウブな 亜樹のことだから そんな激しいことには なんないだろうな~と思いつつも 昨日の夜は お風呂でいつもより丁寧に 身体のお手入れ。

 部活が 超~忙しくて サボり気味だったから ちょうどよかった。

 

 下着もスポーツブラじゃなく可愛いヤツ。

 万が一の事態に備えておく。



 いや 亜樹相手だし そんなことにはならないって 思ってんだけど…。

 でも ちょっと心配ってゆーか 期待してるってゆーか。

 こないだも しれっと胸 触ってきたしな。



 授業 終わって 図書室で勉強してるときに お弁当のあと 歯磨きしてないことに気づく。

 ちょっと早めに 学校出て 駅前のウェルマで ブレスケア用のガムを買う。

 蕩けるようなキスって おねだりしたワケで キスは 確定だもん。


 ちょうどガム噛み終わったタイミングで 亜樹が改札口に姿を現す。


 

 ここまでは 完璧だった。



 亜樹が手を繋ごうと 腕を挿し伸べてくれたのを見て 一瞬 怯む。

 彼氏と手を繋いで メガカラ入るとこ 知り合いに見られたら 変な噂 立つかもって心配になった。

 だけど 亜樹が ちょっと強引な感じて あたしの手をとってくれる。


 でも その強引な感じが たまらなくカッコいい。

 胸がキュンってなって ドキドキしちゃう。

 

 ……ってゆーか あたし たぶん かなりチョロい。

 いつも控え目で優しい亜樹に『求められてる』って思っちゃうと もうホント 何でも許しちゃいたくなる。

 たぶん もう ホントに 絶対 大丈夫なハズだけど 財布には コンドームも1枚入ってる。

 夏にライブ行ったとき 男とデートしたって勘違いされて ママに無理矢理 渡されたヤツ。

 夢で見たみたいに オチンチンついててなんて アリエナイけど 一応 お守り。



 でも 夢で見たみたいに 優しい声で Hなイジワルされて 身も心も捧げたい。

 そんな願望も 心の片隅に ちょこっとある。

 

 普段は隠れてる 淫乱でダメな あたし。

 亜樹にバレたら ドン引きされるかな?

 

 でも ホントに聡い 亜樹だからな。

 ちょっとしたきっかけで 気づかれちゃうかも…。

 ……そんなドキドキもあったりする。


 

 だから エレベーターの中で『手が熱い』って言われたときは マジに 焦った。

 

 やっぱ あたし 期待しちゃってるのかな?


 あんまり会えてないから 実感 薄いけど そろそろ 付き合って2ヶ月。

 そーゆーことしても 遅くはない時期かも。


 片想いだって思ってた頃は あんなにしてたオナニーも 付き合い始めてからは 亜樹に悪い気がして 1回もしてない。

 まあ 部活が死ぬほど忙しかったってゆーのもあるんだけど。

 

 

 そう思うと 喉の奥がヒリつくようなムラムラ感がある。

 溜まってるって感じ。


 ……いや オクテでウブな亜樹相手だし いいとこ 胸 触られるくらいだとは 思うけどさ。


 でも あたしがリードしてあげたら もうちょっとスゴいことしてくれるかな…?


 ……いやいや そもそも あたしには リードするような経験は ない。

 亜樹より マシってだけで あたしも 恋愛初心者。

 カラオケボックスで ペッティングとか そんな大それたこと できっこない。


 ゆっくり たっぷり キスを楽しんで 後半は 歌うか話すか そんな感じ。

 それでも 十分 幸せ。

 亜樹と2人きりの時間だもん。



 そんなこと考えながら 4Fの個室へ。


 予想通りの 2人用の狭い個室。

 亜樹と並んで座る。

 2人掛けのシートで 少し身体が触れ合って ちょっといい感じ。


 友だちに教えてもらった通りに BGM代わりに〈Northern Pole Star〉の曲を適当に入れる。

 メジャーな カラオケの定番だから 聞こえてても 他のお客さんに怪しまれないハズ。


 

 ってゆータイミングで 亜樹が マイクを取ろうと立ち上がりかけた。


 

 カチンとくる。



 何コイツ?

 ここまで お膳立てしてやったのに 今さら ただのカラオケに逃げるワケ?


 つーか アンタ NPSのファンでも 何でもないでしょ?

 ナニ 歌おうとしてんのよ?

 

 だいたい あたしがファンでもないNPSの曲ばっか6曲も入れたの見た時点で 賢いんだから あたしが何 考えてるか 解ったハズ。


 

 グッと 腕 掴んで

 


「キスしよ?」



 って宣言して ディープキス。

 腹立ったから 思いっきり 舌 突っ込んでやる。


 でも キスしだしたら 亜樹は やっぱ スゴく上手。

 気がついたら 体勢 入れ換えられてて 上から一方的に攻められて トロトロにされてた。

 

 けど まだ こないだのドキドキ感には 届かない。

 亜樹は 遠慮してんのか 胸 触ってはこない。

 スケベって言ったの 気にしてんのかな?

 

 いいのに。

 あたしもスケベなんだから…。


 亜樹の左手を ブラウスの上から 胸に触れさせてあげる。

 

 亜樹の左手が あたしの胸を まさぐり始める。

 

 はじめはオズオズと。

 だんだん 大胆に。


 亜樹は オッパイ触るのも めっちゃ巧い。

 ブラウス越しなのに 自分で直で 触るより 何倍も感じちゃう…。


 亜樹の細い指が オッパイに食い込んでくる度に 喘ぎ声を漏らさないように 必死で 歯を喰い縛る。

 

 痛みを感じる ちょっと手前のところまで ぎゅっと搾られる。

 あうっ 気持ちいい…。

 吐息が漏れる。

 

 乳首 弄られたやヤバいかも…。


 そう思った瞬間 乳首を指で 挟まれ擦られる。

 あたしの考えは 例によって 亜樹には お見通し。



「――んんっ」



 喘ぎ声が漏れちゃう。

 恥ずかしくて 死にそう。

 

 でも もっとして欲しい。

 それに 亜樹にも 気持ちよくなって欲しい。



「……亜樹 上手。気持ちいいよ……」



 そう言いながら 亜樹の胸に 手を伸ばそうとする。

 あたしの手が左のオッパイに届く前に 亜樹がスゴい力で 覆い被さってきた。

 ビックリしたし まさかって思ったけど 心の片隅で期待してなかったって言ったらウソになる…。


 今までと ぜんぜん違う 乱暴な手つき。

 首筋に 噛みつくみたいに 口づけされる。


 どうなっちゃうんだろ?

 ナニされるんだろ?


 怖いけど 亜樹に連れていかれるなら どーなってもいい。

 財布の中のコンドームが 頭をよぎる。


 ……やっぱ いるのかな?


 さっきみたいに 気持ちよくはないけど でも オマタが濡れていくのがわかる……。

 亜樹ってやっぱり男だったんだって強く感じる。

 亜樹に〈女〉にされる。

 あたしの身体は そう望んでるみたいだった……。



 

 ――そして 亜樹が 崩れ落ちた。



 

 で 話は 冒頭に戻る。

 

 ボロボロと泣き続ける 亜樹。


 なんて声をかけたらいいのか?

 とりあえず すぐ横に腰をおろし 背中をさすってあげる。



「………乱暴なこと しちゃってゴメン」



 聞き取れないほど 小さな声で 亜樹が 謝る。



「ううん。あたし 怒ったりしてないよ? そりゃ ビックリは したけどさ。別に 乱暴なことされたとか 思ってないし。ちょっと 男っぽいって…」


「ボクは 男じゃないんだよっ!!」



 初めて聞く 亜樹の怒鳴り声。

 背中をさすってた手を 腕で振り払われる。

 いつも 穏やかな亜樹が 感情を爆発させた。


 完全に拒否の姿勢。

 

 だけど あたしは 亜樹の彼女。

 拒否されても それでも 亜樹に寄り添いたい。

 傷つけたんなら謝りたいし。


 もう一度 身を寄せ 肩を抱く。



 今度は 亜樹は 拒否しない。

 顔を 腕に埋めて 身を硬くしている。

 亜樹の華奢な身体が 小刻みに震えている。

 


「………大きな声 出してゴメン…」



 しばらくして 呟くように謝罪の言葉。

 そして また 長い沈黙。


 いつしか あたしの入れた曲は 全て終わり 亜樹のすすり泣く声と 近くの部屋から漏れる歌声が 微かに聞こえる。

 

 ……何が 亜樹を こんなに深く傷つけたのか。

 

 わかんない。

 わかんないけど 寄り添いたい。


 ぎゅっと抱きしめ 亜樹の温もりを感じ続ける。

 そして あたしの温度が 亜樹の傷を少しでも暖めてくれることを祈る。



 

「……ゴメン。ありがと。ちょっと 落ち着いた」



 僅かに 顔を上げた 亜樹がポツリポツリと 話し始めた……。

 ………。

 ……。

 …。



            to be continued in “part Kon 12/07 pm 4:37”



 

  

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