第2話 ……はず?

「さようなら」

「「「「「「さよーならー」」」」」」


やる気のない挨拶が、教室に響く。


「ミナ、今日は部活くるの?」


帰りのホームルームが終わった直後に、ユーゴが話しかけてきた。


「今日はね、ボイトレがあるから帰らなきゃなんだ。明日は部活行けるよ」

「相変わらず頑張るねぇ、そういうところ大好き」

「えへへへへ……」


そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうね。

んふふ。


「じゃ、気をつけて帰ってね」

「うん。ユーゴも練習頑張れ!」

「おう!」


こうして、わたしは一人で家路に着いた。




いつもボイトレがあるときは、こうやって一人で帰ってる。

そうじゃないときは、友達と帰ることが多い。

ちなみにユーゴの家は真反対だから、時々送ってくれるとき以外は一緒に帰ってない。


……今頃練習頑張ってるんだろうな。


ちゃんと努力が結果に出ることほど、人が向上できる理由はないよね。

これからもきっと、ユーゴはどんどん成果を上げて、わたしのことなんか、置いていっちゃうな……



そんなことを思っているときだった。


「ハァ……ハァ……ハァ……やっと見つけた……!」


前から何やら知らないおじさんが走ってくる。

小太りで、黒縁のびんぞこみたいに分厚いメガネをかけてる。

頭は若干寂しいみたいで、残ってる髪は白と黒が混じってる。

着てるTシャツはパンパンみたいだけど、どこかで見たことあるような……


「聖奈萌……ちゃん、だよね?」

「え、あ、は、えっと、そう、ですけど……」

「やっぱりだ……今とおんなじですっっっっっっごく可愛い……僕が好きになったばかりの頃の聖奈萌だ……」


わたしにファンなんていないし、だったら……不審者⁉︎

これは……とりあえず、通報すべきかな?


「あ、あのね、警戒しなくていいんだ。僕は、君の、一番よく知ってる人間だから」

「不審者、って、そそそ、そういう幻覚みたいな、ちょ、ヤバいこと言うって、前に事務所の人が言って、ました。顔だけはいいんだから注意しろって言われっ、ました!」


通報しなきゃ……


「待ってよ! 僕は……いや、俺は……」

「い、やです! 待ったら、あ、危ないです、から……」



「ユーゴ! 君の大好きだったはずの人、瀬賀優護なんだよ!」



「え、ええ、えぇ⁉︎」

「このTシャツ覚えてる? 初めてデート行ったときに着てたやつだよ! 忘れちゃった?」


Tシャツ……どうりで見覚えが……


「っで、でも、それだけで信用するわけないっ、ですっ! そそ、それに、『だった』ってなんですか⁉︎ かこっ、過去形にしないでください!」


わたしはユーゴのこと、大好きなんだから!


……それに…………


「い、いいですか? よくっ、聞いてください!」


これだけはっ、言わなきゃいけない。


「わ、わたしの彼氏は……あなたみたいな、変な人じゃありませんっ!」


わたしが、唯一胸を張って言えること。


「ユーゴはっ、世界一かっこいいんですっ!」

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私の彼氏は世界一かっこいい Lemon @remno414

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