第1話 わたしの彼氏は世界一かっこいい

オーディションに落ちたことを知った次の日、月曜日。

重い足を引きずって学校に行く。

窓際の一番後ろの席に座って、ため息を一つついた。

すると。


「だーれだっ」


わたしの視界が暗くなる。


「もー、わかんないはずないじゃん。君の手の温度は、わたしが一番よく知ってる」


そう言いながらも、わたしは笑顔にならずにはいられない。


彼の名前は、瀬賀セガ優護ユーゴ


「ねぇ、昨日って言ってたよね、合格通知。教えてくれる約束でしょ?」


優しい声で言われると、つい甘えたくなってしまう。


「またダメだったぁ〜……!」

「……そっか、残念。俺から見たら、ミナよりもいい女なんていないんだけどな。審査員の目、マジで狂ってるって」


……君に言われてもな。


ユーゴは、1年生のときに付き合い始めて約一年半の、わたしの彼氏。



ダンス部で唯一の男子にして、随一の実力者。

全国大会でプロに負けて2位。

つまり、実質一位。


ワイルドなウルフカットにされた、わたしの瞳と同じ色の髪の毛。

切れ長で眼光の鋭い、黄色とブラウンの中間地点のような、そんな色の瞳。

左耳のリングピアスは、校則違反だけど、誰よりも似合っているはず。


そんな容姿でみんなを魅了した結果、ファンクラブができるほどのイケメン。

(本人はその子たちのこと煙たがってるけどね)


だけどね、わたしが好きなのはそんなところじゃない。



『寒い? じゃあ、早めに帰れば? 風邪ひかれたら困るし』

『アザか。転んでできたわけ? ふーん。痛そっ』

『ライブのチケット当たった? へー、そうなんだ。え? 俺と行きたいって? いや、俺なんかと行っても面白くないよ。これマジ』


他の子に対しての対応がこれなら、わたしと話しているときの彼は……


『寒いの? じゃあ、近くの店でココア飲もっか。寒い時はココアって、前にミナ言ってたろ? それに、風邪ひかれたらめちゃめちゃ心配だし、ミナが苦しむのやだし……あ、店まで寒いだろうから、手繋いでいい?』

『ちょ……! それ、アザ……転んだの? ……んも〜……マジで心配。後ろから見てるから前歩いて。家まで送るから。家帰ったらちゃんと冷やして。で、ここんとこ寝不足みたいだからちゃんと寝て。明日? テストなの? あー、うるさいうるさい。寝て。勉強より健康の方が大事』

『なぁミナ! 見て! ライブのチケット当たった! ほら、前にミナが好きだって言ってたアーティストのやつ! マジで嬉しい! ねぇ、一緒に行こう! 準備はジュースにタオルに昼食に……あ、それも一緒に買いに行こっか。その方が楽しいよな!』


こう。


付き合ってからもうしばらく経ってるのに、愛されてるなって言う実感がひしひしと伝わってくる。

かっこいい上に可愛いも兼ね備えてる。

まさに完璧。


「やっぱりミナが一番だと思うんだよな」


……うん。

そんな君が、やっぱり一番。


「そういえば……ユーゴの方はどうだったの? 一昨日本番だったって言ってたでしょ?」

「あ、もうマジで最高だった。大会とかじゃなくて、フェスのダンサー的な感じだったんだけどさ、もー楽しくてしょうがなかった」

「うん、やっぱりすごい。お疲れ様」

「い〜や、まだまだ止まれないよ。俺は。だって、いつかはプロになって、絶対聖奈萌のこと、世界大会まで連れて行くんだから」

「……ありがとう、優護」


やっぱり、わたしの彼氏は世界一かっこいい。

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