有り体に言えば共依存

 暴れ回った挙げ句疲れて泣き寝してしまった彼を眺めながら、私は荒れ果てたリビングの床で三角座りをしている。


 頭の中でリフレインする彼の言葉は、まるで呪いのように私を苦しめていた。


 当然だ。彼は私を傷付けるべく、その言葉を選んで吐き出したのだから。


 それでも彼が私に対してだけは一切の暴力を振るわないところを見るに、私が入院したり、もしかすると死んだりすることは、彼にとっても不本意なのだろう。


「君にとって僕はこんな風に腐りきって居るほうが都合がいいんだろう? そうすれば君は僕を、ずっと君に縛っておけるのだから当然だ!! それにいつだって君は、僕を慰める善人でいられるじゃないか⁉ それに引き換え僕はどうだ⁉ いつも極悪非道で惨めな敗北者だ!!」



 違う。と否定したところで、彼は受け入れないだろう。元来頭の良かった彼は、私が数年かけて学んだ心理学の全てを、ほんの短期間で吸収していった。


 それで彼の傷が癒えるなら、私は何でも良かった。しかし現実にはどうだろう? どうやら心理学で彼の傷は癒やせないらしい。


 イザヤ書の一節が脳裏を過る。


 『彼は、私たちのそむきの罪のために刺し通され、私たちの咎のために砕かれた。彼への懲らしめが私たちに平安をもたらし、彼の打ち傷によって、私たちはいやされた』


 彼を癒すのは私の打ち傷なのだろうか?

 

 言い返せなかった理由の一つは、彼の言う通りな部分もあるからだ。


 私は彼を癒せるたった一人であることで、ボロボロの自尊心を保っているふしがある。


 有り体に言えば共依存。


 それでも私は、私の打ち傷で彼の傷が癒えるなら、背中に振り下ろされる鞭を受け入れたい。


 有り体に言えば共依存。


 しかし畏れ多くものたまうならば、私は彼にとってのキリストになりたいのだ。

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