惹かれ合う二人は、相手の未来のなかに自分がいない選択肢を選ぶ

  • ★★★ Excellent!!!

『火竜姫』—— なにやら物騒な響きのタイトルの本作。そのイメージにたがわないドラマチックなファンタジーであるとともに、登場人物たちの心情を繊細に描くヒューマンドラマとしても、読みごたえがありそうです。

「ありそうです」なんて無責任な言い方をしたのは、物語がまだ——カクヨムでは——はじまったばかりだから。プロローグを含め、まだ三話分だけの公開ですが、すでに壮大なドラマを予感させます(評者の maru 自身、某サイトの続きは読んでいません)。

ストーリーは、「火竜姫」ことレアと、後に騎士団長となるクロードの絶望的な逃避行で幕を開けます。

このままでは二人とも助からないかもしれない。そう覚悟したクロードが口にする思いがけない提案。当惑するレア自身、心のどこかで望んでいたかもしれない、ささやかな二人の幸せ……。

でも、お互いの幸せを願う二人は、だからこそ、相手の未来のなかに自分がいない選択肢を選んでしまう。一緒にいるには、あまりに相手を思いすぎていて、相手にとって最善だと思う未来は、あまりに非対称なのです。

出自も境遇もまったく異なる二人。ただ一つの共通点は、相手を想う気持ちと、マルリルの白い花に結びついた淡い記憶。

「大人の事情とやらは、いつも当人に断りなく組み込まれる」

物語は、十年後、「大人の事情」に組み込まれつつある二人をめぐり進んでいきます。考え抜かれたディテールと秘めた情感を感じさせる文体は、波乱に富む物語のなかに読者を引き込んでしまうにちがいありません。