第五話:最終回

 あらすじ

 暗躍し続けたクラゲ型生物は、廃ビルの幽霊に悩まされる。

 行動範囲を狭め、彼なりに都内を支配しようとしたが継承者の覚醒や妨害によって計画は失敗。

 だがKINGS・EDGEキングス・エッジが現れないこの状況なら…


 そこで全寺螺潰ぜんじねじふせの状態回復を祈る花恩かおんが廃ビルへ訪れたのをいい事に、廃ビルで部下と交戦した全寺を貶める意味でクラゲ型生物は彼女を利用し、更に廃ビルで格提拳幽目高(かくていけいんゆうせい)の人質とて廃ビルの幽霊を使い、最終決戦を行う!

 この廃ビルで!


 こうして日常へ



 -空海月そらくらげの独白


 せっかく鑑賞から干渉まで出来るようになったら、たかが人間の幽霊に翻弄されるとは。

 どこまでいっても人間が強い現実が憎い。

 お陰で数々の計画が失敗した。


 しかもこちらの復活を見越してか、幽霊の奴、他にも戦える人間に力を渡していた。


 それでもこちらに取り入る人間の姿はなんだか可哀想でいい気分だった。

 怪人となった部下もこちらより頭が良いとさえ感じるほど無益な戦いはしなかった。


 こんな三日天下じゃあ、この先思いやられる。

 だからこそこの幽霊と関わる人間には処罰を。

 壮大な支配より、矮小な復讐の方が絵になるのだから。




 ✳︎


 花恩かおんは病院で横たわる全寺螺潰ぜんじねじふせの看病を続けていた。

 気がついたらクラゲ怪人はいなくなっていて、全寺は廃ビルから搬送された。

 花恩も二人も銃とその記憶を捨て、雄刃太城ゆうべらしあに簡潔な説明によって綺麗に。


 噂の雄刃が病室に入って着替えを持ってくる。

 二人による会話はなかった。

 あれから不仲だとか、そういう話ではなくそんな気分にはなれなかった。

 だが花恩かおんは今日こそ雄刃から何か聞こうと口を開く。

 と同時に雄刃も口を開く。


「雄刃さんから先に。」


「俺から話すことはない。」


「それならどっちが先になんて譲ることはありません。

 いや、話せないのならやめようかな。

 全寺さんを起こすの、良くないし。」


 雄刃は病室の壁を軽く叩いた。

 花恩は敢えてその場に残る。

 黙って彼の話を聞こうと思ったから。


「あの廃ビルは俺達の練習場所だった。


 あの日!いつものようにあそこへ二人で練習していたらあの化け物が現れた。


 だが予兆はあそこに半分住んでいたガキがもう一人の誰かと廃ビルへ出るときにクラゲが去るのを見てわかった。

 それを確かめる意味でも廃ビルに行ってしまった。


 更に言い訳だと罵っても構わない!

 俺達は幽霊を見た。

 あの廃ビルには確かにい…」


 花恩は彼の手を握る。

 そしてありがとうと呟いた。


「そこまで話してくれるとは思わなかった。

 なら、あのクラゲ怪人や今起きていることは現実なんだ。」


 何度も逃避しようとした現実。

 失恋から変わらない。

 今度は本気で愛しあえると思った関係がこんな形で。

 神や悪魔はいなくとも、運命は悪戯に存在する。

 いや、そんなものもない。

 生まれてしまったらもう…。


「カタは…俺がつける!」


「待って!あなたはあなたの予定がある。

 私はここからいなくならない。

 大学やバイトが終わったらいつもここにいるから。」


 雄刃は病室から急いで去っていった。

 居た堪れなかった。

 そうだ。

 この状況なら。

 花恩は涙を隠し、全寺の手を握り目覚めを今日も待つ。



 ✳︎


 一岳徠星いちどらいせいはジムで広まった噂を信じられずにいた。


 クラゲ怪人?

 強化人間?


 そして先輩の竜蟷たつろうさんが何か属性があるんだっけ?

 嘘だろ?

 現実のこととはいえ、否定したくなる。

 そんな葛藤を抱いていた。


 一方、蓋野瀬写司ふのせうつしは一岳にまあまあと宥め、練習に支障をきたしていることを心配する。


 一体何が起きているのか。

 竜蟷さんは無理矢理他の二人にさらわれたような形で戻ってきていない。


 すると一人の青年がやってきた。

 二人とも知っている人だった。


「雄刃…選手?な、なんのよう?」


 雄刃は周囲に見られないように二人を奥へ誘うと要点のみ話した。


「ええ?雄刃選手も関わってたの?

 スケールが少しずつでかくなるのが世紀末感あるなあ。」


 雄刃は若干イラつきながらも仕方ないと理解はしている。

 そして蓋野瀬は廃ビルに住んでいるらしい誰かについて追及した。


「昔どこかの興行で見たことがある。

 それしかわからない。」


 一岳は「なんでこんな格闘家多いんだよ。」と苦笑いだった。

 そしてもしかしたらと点と線が繋がった。


「もしかして…蓋野瀬!あの野生的な顔つきの子って竜蟷先輩連れてった一人かも。」


 たまたま彼の写真を撮っていた蓋野瀬は思い出して雄刃に見せた。

 一岳はツッコミはしない。


「そうだ。

 こいつ。

 でも、何故こんなに首を突っ込んでいるんだ?」


 タイプの違う三人は人生で初めて行う「真相の解明」を実行することにした。



 ✳︎


 異生物進化対策事務所メンバーリーダー形代梅雨総かたしろつゆふさ形代月雨帽かたしろみだれ、補佐役の煎貸いるとは廃ビルへやってくる。


 格提拳幽目かくていけいんゆうせい

 雷帝鍾塊どらいと しょうきは二人して主がいなくなった廃ビルでつぶやく。


「「ここへ戻るのか。」」


 ちょっと!と圧力をかける男性がいる。


「覚醒者だっけ。

 このアクセサリーを持っている人のこと。

 無理矢理二人に源流へ様々な過程を経てここにいるけれど。

 こんな廃ビルを調べたってあの怪人のボスを倒そうなんて流石に無茶だ。」


 竜蟷だった。

 今思えば彼は夢を見たことによって力を得て巻き込まれたわけだが。


「覚醒者の二人に、廃ビルで地の利があり弱点まで知っている雷帝君。

 欠かせないよ。」


 梅雨総が期待を込めて竜蟷の肩を撫でると


「そういうことじゃないじゃん!」


 オーバーリアクションをするしかなかった。


 しばらく歩くと見かけない自動車があり、三人の若者がやってきた。


「現場に戻るのって犯人だけじゃないのか。」


「竜蟷先輩は完全に巻き込まれただけっすね。

 事態がまた飲み込めてないけれど、戻ってくるまでこの廃ビルで戦いますよ。」


 そしてもう一人は雷帝へ蹴りをお見舞いし、その攻撃を雷帝はガードする。


「そういえばたまに廃ビルで声がすると思ったら、あんただったのか。

 関西の空手サイボーグさん。」


 幽目は珍しく割って入ると


「鍵を握ってそうな奴なら歓迎だ。

 もっとも、そっちは多くを話してくれるようには思わないし強制もしない。


 だが俺は…彼女を…廃ビルの幽霊と共存する。」


 一同騒然だった。


 時代が時代とはいえ。

 しかも雄刃は表情が揺らいでない。

 周りは触れちゃいけない空気をやり過ごした。


 それぞれがそれぞれの思惑を抱えて廃ビルの新たな主へと会うため、奥へ奥へと進む。

 許可に関しては雄刃が説得したようだ。

 そこはみな各々のイメージでとどめ言及

 はしなかった。



 ✳︎


 廃ビルの奥へと一同は階段等の老朽化も気にせず

 、あの屋上へ向かう。


 不思議な程妨害はなかった。

 それでも一同は決して油断せず屋上へ登る。



 格提拳幽目かくていけいん ゆうせいはデジャブか原点回帰か縁を感じていた。


 違うのはいつの間にか利害が一致する人間の多さ。

 共通の相手を討伐する。

 もうそれでどうにもならない問題でも。


 幽目は彼女を取り戻すのだ!

 しかし待ち受けていたのは…



花恩かおん?」



 雄刃ゆうべが驚愕している。

 知り合いか。

 だが妙だ。

 まさか、これはっっっ!

 幽目は全員に司令を下す。


「伏せろ!」


 全員は伏せ、花恩と呼ばれた女性からクラゲの触手が放たれる。


「そんな!まさか花恩はっ!」


「安心しろ。

 身体を弄られてはいないし、どこも平気だ。

 ただ操られるだけだ。」


 雷帝が冷静に分析する。

 悔しそうな声がくぐもって聞こえる。


「ビルの主は違うなあ。

 だが、いずれにせよお前達はこちらに攻撃することは出来ない。

 覚醒者がたった二人、そしてこの廃ビルで作った武器は本体であるこちらには通じない。


 そして空の支配者に陸の生物が近づけるわけがない。

 これは強がりではなく事実。


 それに彼女と…そういえばもう一人いたか。


 ほおら!」


 倒れている幽霊を幽目に見せつけるように掲げるクラゲ。



「くそっ。」


 雷帝がなんとか声のする方へ軽く瓦礫を投げるか何処にも当たらず落ちるのみ。


「はっはっはっ。

 最初からこちらが戦えば良かったのだ。

 これだけの数を揃えても二人の乙女を救えぬ勇者しかいない。

 現実を受け止めよ!

 」




 形代梅雨総かたしろつゆふさ


KINGS・EDGEキングス・エッジがない。

 だから余裕なのか?」

 とクラゲを挑発する。



 形代月雨帽かたしろみだれは情報にあったというKINGS・EDGEについて語り出した。


 超越生命体の余力を奪い、普遍的な生物へと変換してしまう輝石を集めることで変化する錫杖。

 しかしまだ詳しい事は足りていない。

 調べる時間もなく、その過程でクラゲ怪人や強化人間が現れては命令違反となる。



「ぶっつけ本番で挑む気概は褒めよう。

 ふははっ。

 一度攻撃が通ったくらいでコケにされたのだ。

 悔しさをもう少し味わせてやろう。」


 花恩と呼ばれた人間も、人質に取られた幽霊にも傷は付けられない。


 雷帝はまだチャンスを伺っている。

 すると、花恩に僅かな光が輝くのを確認できた。

 雷帝は竜蟷に耳打ちする。


「さて。

 ああは言ったがその油断がここまで仲間を呼んだことに繋がった。

 この廃ビルごと潰してしまおう。

 主はこちらなのだから!」


 すると瓦礫が花恩と呼ばれた女性に当たる。


「ほお。

 大事な人間を攻撃するのか。

 何のつもりだ?

 そしてそこのオトコ。

 仲間が裏切り行為をした。

 糾弾しないのか?」


 雄刃は雷帝の目を見て、計画を察したようだ。


「霊体を使った強化をあんたはやったそうだな。

 」


「ふん。

 今更その話題を持ち出してなんの意味がある?

 ヤケになったか?」


「その瓦礫。

 覚醒者の証だ。

 この輝石は夢を見せ続けた男性から受け取った廃ビルと幽霊の力。


 そして…」


 竜蟷が言い終えると花恩の身体から一人の青年の霊体が現れ、操るクラゲを蹴りあげた。


「うっ…な、なんて力だ。

 これは…なぜ?」


 雷帝は雄刃の疑問を確信へ変えた。


「やっぱり覚醒者だったか。

 今、ここにはいないあんたの相方。」


全寺ぜんじは事情があってここには訪れることは出来ない。

 勘違いするな。

 死んだわけじゃない。

 しかし霊体は生きて離れていてもここにいる。

 一か八かの賭けだったが。」


 全寺と呼ばれた青年が一同へ加勢し、花恩と呼ばれた人を大事に抱える。


 彼女はまだ眠っている。


「ずっと悲しませてごめん。

 雄刃!そしてここにいる知らない人達もこの廃ビルに因縁があるのなら、ここで終わらせよう。

 」


「まさか…だが覚醒者が三人になった所で何になる。

 幽霊を助けるつもりか?」


 幽目と全寺は手を組み、助走をつけてさっき全寺が当てた箇所をジャンプし蹴りあげる!


「彼女が渡してくれたチャンスをここで放棄するわけが無い!

 そして俺は彼女の繰り返す日々をここで終わらせる。

 それが成仏だとしても。」


 幽目は青臭いセリフだと内心恥ずかしく思いながらもシチュエーション的にこれぐらい気持ちを込めて助けるつもりだ。


「君も格闘スキルがあるのか。」


「あとにしろ…そう言いたいがワケありだったか。

 そのとおり。

 敗北は許されない。

 このまま…あ、あんたは!」


「覚醒者は三人いるんだけど。」


 クラゲには因果が待ち受けていた。

 流石にこれだけのイレギュラーには対応出来ないか。



「ふっ…はっはっは…だが足りない。

 長年かけて海から陸を超え、空まで浮かぶ進化を遂げたこちらが、この程度でやられるわけがない。」


 やはりしぶとい。

 何度攻撃を当ててもその身体は水分だけではなく、未知の細胞に覆われてそうだ。

 何度も奇跡は起きない。

 だからこそ出来ることで対応する。

 戦いはまだ続いた。


 *


 本当はもうこのまま息絶えたかった。

 やっと出会えた彼との思い出も過去へと変わるくらいなら尚更。


 このまま夢の中でなら誰の邪魔も入らない。

 けれど、彼は雄刃程ではないが語るタイプではなかった。


 何の料理が好きで、何のスポーツで競っているのだろう。

 他にもどんなアニメキャラが好きなのか…



「どうか…生きていて…」


 寝言なのか夢の中の言葉か…最初は分からなかったが次から雄刃が呼びかける声がした。



花恩かおん!やっと起きた!」


 花恩は目を開けると雄刃の後ろに霊が立っていて何か光を優しく投げて渡してくれた。


 すると野性的な顔の男性の顔を見て大声を上げた。

 それにつられて花恩も思い出す。


「あ、あなた廃ビルでぶつかったのに適当に去った人。」


「いや、俺わりぃって言ったよ?」


「変なところばっか覚えて!ハンカチ探すの大変だったのに。」


 しかし周りには他にも何名かいて反応は様々だった。


「雄刃さん。

 これはどういうこと?」


「むしろ俺が聞きたかった。

 けれど、理由は分かる。

 今、空を見上げて欲しい。」


 花恩は空を見た。

 そこには三人の男性がいた。

 そしてその中には。


 花恩は今まで流せなかった分までの涙を流し、まだ分からないことも多いのに全寺を応援した。


 そこで例の彼が近づいて態度の悪さを謝りたいのか手を差し伸べた。

 やはり歳下で歳相応。


 更に双子の青年と探偵助手みたいな人も。

 みんな歳が近くて若い。


 なんだか身体が熱くなってきた。

 変な意味ではなく、さっきの幽霊の力とここにいる皆の光が花恩に集う。


「これって、君も覚醒者…四人目の覚醒者ってこと?」


 すると空で戦う三人の男性と花恩の光が合わさり、錫杖のような武器が現れた。



「「これが、KINGS・EDGE!」」


 花恩はこの剣を三人へ渡し、全寺がそれを受け取ったのが見えた。


 後は頼んだよ。



 *


「そ、そんな…四人目の覚醒者だとおおお!」


 まさかあの子が。

 幽目は全寺へ親近感が湧いた。


「お前にも彼女がいるんだな。」


「いや…幽霊と…なんでもない。

 その通りだ!」


 竜蟷はやれやれと呆れていたが。


「この剣をふるえば、このボスはどうなるんだろう。」


「ふってみれば分かるかもな。

 」


 クラゲは怒り心頭だった。

 しかし、もう抵抗は出来ない。


 長くかけた進化もすぐにまた無力な生き物へと変わる。

 まだ楽しみきれていないのに。


「欲を出しすぎた報いを受けろ!」


 幽目は剣をクラゲへ降り、廃ビルの異空間は徐々に消えていく。


「無力な生物へ戻るとはいえ、こうして進化した歴史は残る。

 それさえあれば、いつでも…ふはははは、また長い時を乗り越えてみせる!」


 このしぶとさに三人は脱帽し、幽目は


「老いてもこの事は忘れられねえよ。

 その時は慎ましやかにひっそり暮らしてくれ。」


 クラゲはもう姿は見えず、三人は廃ビルの屋上へ戻った。


「あんたとは歳近そうだし、どこかで戦い…」


 さっきまでいた筈の彼はこの場にはいなかった。

 忘れかけたが実体はどこかにあるんだったか。


 花恩と呼ばれた女性が雄刃に抱えられて崩れた。

 何があったか幽目が知ることはないだろう。

 ここから先はドライと思われても切り上げよう。

 彼彼女らのために。


 そしてやっと。

 やっと、話せる。


「無事でよかった。」


 語ることはない。

 ここまで長かった。

 今ならあのクラゲがどれだけ進化を待ち望んでいたか実感する。

 勿論他人事だ。


 廃ビルが崩れかける。

 幽目はここにいる全員に幽霊を抱えて礼を伝えたることにした。


「お前ら、結果的にとはいえ協力してくれてサンキュー。

 あとは巻き込んだりもしたことを謝る。

 ごめん。


 色々語りたいこともあるが、友情でもなんでもない。

 俺は彼女と共に共存する。


 その為に…これでフェアだ。

 みんな無事に帰ってくれよ。」


 そうして幽目は廃ビルの主だった彼女を抱えて飛び降りたのだった。




 *


 花恩は、全寺の入院室にある花瓶の水を変える。

 雄刃さんはまた何も言わず彼の準備をしてくれる。


 あの出来後があってから花恩や全寺に息子さんや娘さんを連れてきてくれるようになった。

 今までコンプラを守るためという理由と花恩を気遣って家族を見せないようにしていたらしい。


 今や花恩は女子大生にして主婦の味方。

 雄刃の奥さんも多くは語ろうともせず、最低限のコミュニケーションで成り立っている。



 全寺の意識が蘇る希望はあってもまだいつかは分からない。

 不安がないと言えば嘘になるけれど、花恩は覚悟ではなく信頼で見守っている。

 その姿を雄刃夫妻は微笑んで見ていることを花恩は知らない。


 ここからは花恩が人伝で聞いた話とのこと。


 竜蟷さん達は今でもジムで練習をしているらしい。

 もう選手として活動しているかは分からないけれど、その友人の片ノ瀬かたのせさんは子供達や自分達と同じ弱い立場の人へ力の使い方を教えており、今度借家を手に入れるそうだ。


 後輩ファイターであった一岳徠星いちどらいせいさん、蓋野瀬写司ふのせうつしさんは雄刃さんの推薦で心霊番組を立ち上げた。

 そしてまだリングで戦っている。

 そのチケットをいつも渡してくれるのだが、気遣ってくれてスケジュールに余裕がある日に。

 それじゃ断れないといつの間にか観戦者となった。



 異生物進化対策事務所の方は命令に忠実に働いたとして、まだまだ情報収集と依頼、捜査、そして武術の鍛錬やKINGS・EDGEの使い方、生物進化論の未知数などなど他にも専門的な事も取り扱っているらしく毎日勉強中。

 それを報告しに来てくれる。

 根が優しくマメだけれど明るい人達だ。




 雷帝鍾塊どらいとしょうき君はぶっぎらぼうなままだが廃ビルが崩れたことによって居場所がなくなり、あの時の戦いで見た全寺に憧れてこの病室へ入る。

 もう互いに過去のことは気にしていない。


 ただ話す会話はパターン化してきた。


「あの廃ビル、見れなくなって結構経ったなあ。」


「もう幽目君と彼女の廃ビルだったんだよ。」


「まあ。

 けど、あれから未だに消息不明か。」


 そしてここで話題が尽きる。


 同じ覚醒者として花恩には分かる。

 彼がまだこの世にいる事が。


 彼の恋バナも花恩は興味があった。

 あの幽霊の方も。


 花恩だけ廃ビル観察メンバーの中で一度だけしか見なかったから。




 今もどこかであの場所を守っていると信じている。


 すると全寺を握っていた手が動いた気がした。

 雷帝君も言葉にはしないが見た顔をしていた。


 二人は全寺の顔を覗く。

 全寺は何かに答えるかのように目を覚ますのだった。


 花恩はどんな表情をしていいか悩んでいると、まるで今までの話を聞いていたかのように強く花恩の手を握り返してくれた。

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KINGS・EDGE 釣ール @pixixy1O

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