第2話
昭和20年 8月9日。
日本国内に、2つの悲報がもたらされました。
1つは、広島に続いて、長崎にも新型爆弾が落とされたということです。
新型爆弾とは何なのか、私には分かりません。
ただ、たくさんの人が亡くなったことに間違いはないと思います。
もう1つの悲報は、ソビエト連邦が日本に宣戦布告を行った、ということです。
ソ連は、日ソ中立条約を一方的に破棄して、日本との戦争を開始したのです。
樺太から遠く離れた満州に住んでいる私の親戚から、電話がかかってきました。
ソ連兵が近くまでやってきているので、これから逃げるとのことです。
満州は、戦場になってしまいました。
また、陸軍にいる父の友人からの情報では、千島列島の北の端、
私は青ざめました。
占守島の戦車第11連隊には、私のお父さんがいるからです。
出征前にお父さんが言った言葉を、私は思い出しました。
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「父さんはね、サムライの魂をもっているんだよ」
「サムライ?」
「あぁ。父さんは戦車第11連隊に入るんだ。十一って漢字を組み合わせると、
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そう言って、父はカムチャツカ半島が目の前に見える占守島へと渡っていきました。
そして、その島が今、戦場になったのです。
となると、ソ連と陸続きになっているここ樺太も、戦場になってしまうのでしょうか……
真岡町は樺太の南の方だから、すぐにソ連軍が来るわけではないと思うけど、港町だから狙われやすいと、よく言われていました。
樺太庁からの通達が来ました。
「老人、女性、子供は
郵便局長は、この通達を受けて、私達電話交換手を全員集めて言いました。
「いよいよ、この樺太も戦場となる。キミたちは、樺太庁からの命令に従って北海道へと疎開してもらう」
すると、班長は言いました。
「では、誰が電話交換の業務を行うのですか?」
「男子中学生たちにお願いしようと考えている」
「無理です! 今から中学生を訓練しても、電話交換の業務を数日で覚えられるはずがありません」
「いざとなったら、この郵便電信局は放棄する」
「そんな! 樺太の電話通信はどうなるんですか? 疎開が始まると、いつもよりたくさん電話が使われます! ソ連兵が攻め込んできたら、電話はもっと増えるかもしれません!」
最年長である班長は、まだ24歳なのに、とてもしっかりしています。
そして、この電話交換手という仕事に、強い使命感を持っています。
だから、班長は私の憧れです。
私の意見も、班長と全く同じでした。
戦場になった今だからこそ、電話交換業務の必要性は増すと思うのです。
郵便局長は言いました。
「キミたちは女性だ。戦争になったらキミたち女性はどうなるか、想像できるか。ソ連兵に凌辱されるんだぞ。私はキミたちを、ソ連兵にくれてやるつもりはない!」
「それでも、私は最期までここに残ります!」
「……キミたちにも家族がいるだろう。今日は家に帰り、家族と相談しなさい。その上で、どうしても残りたいというのであれば、その者たちでこの真岡が占領されるその日まで、電話を取り次いでもらう。それでいいか?」
「はい! 局長! ありがとうございます!」
疎開するのか、ここに残るのか、私たちは人生の決断を迫られたのでした。
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