第3話 初めての死
騎士が振り下ろした剣が脳天をかち割った時、彼は激痛と脳が潰されたことで意識が一瞬で飛んでしまった。
と思った次の瞬間、彼の意識は再び覚醒した。
突然の出来事に脳の理解が追いつかない彼であったが、周りの景色には見覚えがあった。
何故なら、彼が今いる場所は最初に目覚めた祭壇の部屋であったからだ。
何故、自分は再び祭壇の部屋にいるのだろうかと考えていると、
「やあ、目覚めたようだね。初めての死の感覚はどうだったかな?」
何処からか、自分へ語りかけてくる声が聞こえてきた。
声が聞こえてきた方へ視線を向けてみると、そこには誰かが立っていた。
その人物は神父服とよく似た服を身に纏っており、深くフードを被り、顔には特徴的な仮面を被っている。
その仮面は十字架に二本の剣がクロスのように交わっているという不思議なデザインであった。
そんな特徴的な仮面を被った神父は彼に理解し難いことを言い放った。
初めての死の感覚はどうだったのかと。
だが、彼には思い当たる節があった。
それは遺跡で騎士によって体を両断されたという記憶があることだ。
確かに、あの時の彼は突如として召喚された騎士の手によって殺されてしまった。
これは紛れもない事実だ。
しかし、気づいたら祭壇の部屋で無傷の状態で目覚めていた。
これは明らかにおかしな状況だ。
殺されたはずなのに生きている。
本来なら絶対にありえないことだ。
だが、絶対にありえなるはずのない状況が現在進行形で起こっている。
この事実に彼が困惑していると、
「この世界は既に秩序が機能していないからね。死んだ者が当たり前のように生き返るんだよ。今の君みたいにね」
壁にもたれるように立っていた神父が彼に状況の説明をし始めた。
神父によると、今の世界は秩序が完全に崩壊しているらしく、死んだ者が当たり前のように生き返るそうだ。
これは秩序の崩壊で魂の循環が行われないことで発生している問題とのことである。
そして、魂は時間が経つことや死ぬ度に磨耗していき、魂が磨耗し切った者は理性を失い、本能のまま暴れる化け物へと変貌してしまう。
人によって魂の摩耗速度は変わってくるのだが、このエデンの地に逃れた多くの者の魂は弱く、直ぐに磨耗してしまう。
そのため、このエデンの地にはこの化け物が溢れかえっている。
だが、化け物たちもただのさばっているわけではない。
彼らの多くは絶対的な強者に付き従っている。
その絶対的強者とはエデンの地に君臨する九人の王だ。
彼らは創造神アヴァロンの絶対的な力を使うことにより、本能のままに行動する化け物たちを統率している。
しかし、その統率も完璧なものではなく、ある程度行動範囲を縛れるだけだ。
それに、九人の王は全ての化け物を支配下に置くことはできず、それぞれ支配下に置くことのできる化け物の種類は異なっている。
そのため、化け物たちの分布はそれぞれの王が治める国によって違うそうだ。
中には九人の王ですら支配することの出来ない化け物も存在しているらしく、そのような化け物たちが思うがままに暴れているとのことであった。
そうして、神父から現在の状況を簡潔に説明してもらい、頭の中で情報を整理していると、
「ちなみに、君の魂は摩耗しないから死ぬことを躊躇う必要はないからね」
神父から彼は自分の魂は摩耗しないという重要な情報を聞かされた。
新たな情報を伝えられた彼は新事実に驚くと同時に何故、自分の魂は摩耗しないのかと不思議に思った。
そうして、彼が頭を悩ましていると、
「君は特別なんだ。何故なら、この世界を救う救世主なのだからね」
神父から自分はこの世界を救う救世主であることを伝えられた。
彼はいきなり自分は救世主であると言われたことに困惑した。
それも仕方ない。
彼は誰からかの願い以外の記憶はないのだから、自分が世界の救世主であることなんて覚えていないのだ。
それに、この神父が嘘をついている可能性だってあり得る。
そうして、彼が困惑している中、続けるように、
「君は記憶を失っていながらも胸の内には強い焦燥感に駆られているだろう?それが何よりも君が救世主である証拠だ。君にはこの世界で成し遂げなければならない使命があるからね」
神父は彼が強い焦燥感に駆られていることが救世主の証拠であると言った。
どうやら、彼が胸の内で強い焦燥感に駆られているのは成し遂げなければならない使命があるためのようだ。
その彼が成し遂げならければならない使命とは、
「このエデンの地にのさばる九人の王から創造神アヴァロンの魂を取り戻し、この世界を正しき終焉へと導く。これが君の使命だよ」
エデンの地に君臨する九人の王たちから創造神アヴァロンの魂を取り戻し、世界を正しき終焉へと導くことであった。
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