第2話 始まりの祭壇
ー俺からの最後の頼みだ。どうか、世界を正しい終焉へ導いてくれー
誰かの声が頭に響き渡ると同時に意識が覚醒する。
少し薄暗い部屋で彼は目覚めた。
目覚めたばかりの彼は視線を動かし、自分が石で作られた台の上に寝かされていたことを知る。
そして、自分が何故、このような場所で寝かされていたのかと思い出そうとしたが、彼は何も思い出すことができなかった。
自分がこの部屋にいる理由はもちろん、生まれた故郷に年齢、そして自分の名前すらも思い出すことができなかった。
ただ一つ覚えていることは、
「俺からの最後の頼みだ。どうか、世界を正しい終焉へ導いてくれ、か」
目覚める際に頭の中に響き渡った誰かからの願いであった。
彼は誰かからの願い以外は何も思い出すことが出来なかったのだが、何故だか焦りや不安は一切なかった。
ただ胸の中には何か大きな使命を成さなければならないという焦燥感のみが燻っていた。
彼は焦燥感に駆られるままに石造りの部屋から外へ飛び出すと、外には石造りの大きな祭壇が広がっていた。
彼はこの祭壇を見た時、何も覚えていないのに何故だか、この祭壇に嫌悪感を抱いていた。
石造りの祭壇に嫌悪感を抱いた彼は足早で祭壇の外へ出ると、目の前には断崖絶壁が広がっていた。
そして、空には大きな亀裂が入っており、赤黒く染まっている。
赤黒く染まっている空には月食のように重なり合う天体たちと日食のように重なり合う天体たちがいくつも浮かんでいる。
目の前に広がる光景を目の当たりにした彼は、過去の記憶がなくともすでにこの世界は壊れ、狂ってしまったことは理解できた。
混沌とした世界を目の当たりにした彼はさらに強い焦燥感に襲われ、焦燥感に従うように彼は何処かへと伸びる道を突き進んだ。
そうして、彼がどこかへ伸びる道を進んでいると、少し大きめの広場のような場所に辿り着いた。
彼はその大きめの広場へと足を踏み入れた瞬間、
「えっ??」
広場が崩落を起こし、彼はその暴落に巻き込まれて深淵へと落下していったのだった。
広場の崩落に巻き込まれてからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
運良く崩落から生き残った彼の意識は覚醒した。
意識が覚醒した彼は周りへ視線を向けてみると、この空間は何かの遺跡のようになっているようであった。
周りを確認するついでに視線を上へ向けてみたのだが、彼は相当な高さから落下して来たらしく、天を見上げても深淵が広がっているだけで空は見えなかった。
壁を登って帰ることは不可能だと判断した彼はそのまま遺跡の中を進むことにした。
そうして、遺跡の中を進み始めた彼は自分が光のない暗闇にいるというのに視界がはっきりしていることを不思議に思った。
だが、記憶のない彼はいくら考えたところで思い当たることはなく、ただ道なりに遺跡の中を進み続けた。
遺跡の通路には壁画や文字はもちろん、装飾も一切ない無骨な石造りであり、ここは何の遺跡なのか皆目見当がつかない。
そのような何のために作られた物か全く分からない遺跡の通路をただ出口へ向けて歩いていると、大きな広場に行き着いた。
彼が行き着いた広場を周りへ視線を向けながら歩いていると、
『ゴゴゴゴゴ』
石と石が擦れるような音がこの広場に響き渡った。
彼はいきなり不審な音が響き渡ったことに驚きつつも音が聞こえて来た方へ視線を向けてみると、先ほど広場の中に入ってきた入り口が塞がれてしまっていた。
入り口が閉じられたことに焦りを覚えた彼は他に手口はないかと必死に探していると、
「な、なんだ!?」
突如広場の中心部分に魔法陣が浮かび上がり、この広場を覆うほどの強力な光が放たれた。
彼はあまりの光量に耐えられず、目を閉じてしまった。
しばらくすると、魔法陣から溢れ出した光は収束していき、彼は目をゆっくりと開けた。
そして、先ほどまで魔法陣があった場所に何かが立っていた。
全長は4メートルほどの人型で、全身を何かの金属で出来た黒い鎧を身に纏っており、騎士のようであった。
この騎士の兜には装飾品として特徴的な二本角が生えており、その姿はバイコーンを思わせる。
そして、腰には体長の半分ほどの二振りの黒い剣が差されており、この騎士は二振りの剣をゆっくりと鞘から引き抜いた。
その瞬間、彼の本能がこのままでは危険だと判断し、直ぐにこの広場から逃げ出そうと出口を探したのだが、見つからない。
そうして、彼が必死に手口を探していると、いつの間にか剣を構えている騎士が目の前に現れた。
あまりに突然の出来事であったため、彼は驚きのあまりその場で固まってしまった。
その僅かな隙が命取りになるとは知らずに。
彼が驚きのあまりその場で固まってしまった瞬間、騎士が目にも留まらぬ速さで振り下ろした剣によって真っ二つに斬られ、彼は即死したのだった。
体を両断にされた彼を見た騎士は完全に絶命していることを確認すると、再び現れた魔法陣の中へと消えていったのだった。
そうして、ドーム型の広場に残ったのは彼の両断された死体のみだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます