第3話 魔王リリス、勇者と出会い救われる。
第二回目配信………。
「皆さんどうも~、こんリリス~☆ 魔王が送るダンジョン配信! 今日も元気にダンジョン配信していきたいと思いまぁ~す!」
ダンジョンの第一階層———始まりの岩窟で、今日も私はスマホに向かって喋る。
ドローンに取り付けた私のスマホは現在オンライン動画プラットフォーム『DanTube』を起動し、私の姿と声を全世界に発信している。
昨日の初配信で、心がボロボロになりそうになった。二度と動画配信なんてしてやるもんかと思った。
だけど、次の日になればこうやってダンジョン配信をやっている。
「さ……さ、今日もダンジョンの奥深くまで進んでいきますよぉ……昨日はグリーンスライムと戦いましたけど、今日はどんな
元気な声を上げる。
精一杯の空元気だ。
コメント:0。
配信画面を見て、少しホッとする。
本来なら絶対にホッとしてはいけないのだが昨日のようなアンチコメントをまた書かれたら、また心折れる。
結局、昨日の私の初配信は10分もたたずに終わった。
グリーンスライムを倒した後、すこし第一階層を歩いて配信を終えた。あのアンチコメントを見た後、自分が何を言ったか覚えていない。ただひたすら叩かれないように言葉を選んで発言したんだろうと思う。
「それじゃあ……どんどん進んで行きますか……!」
第二回目配信なんて……去年のただの魔王だった私だったら絶対にやっていない。
だけど、この世界に来ての一年間。憧れた地上世界に出て、輝いた日々が待っていると思ったところで、日本円を貰うためには超絶ブラック企業で働かなければいけないという現実を突きつけられ、いろいろな経験を積ませられた。
あのプログラム会社にいた時の辛さに比べればこれくらい……!
そう自分を奮い立たせてダンジョンの奥ふかくへ進んで行く。
「この配信中で第一階層は突破したいですね~……ほとんどの配信者がこの第一階層が突破できずに配信をやめるらしいんですけど、リリスはできるんでしょうか……!」
緊張で声が震える。
視聴者数:3人。
この配信を———三人も見ている。
怖い。
また何か言われるんじゃないかと怖い。
びくびくしながらもどんどん進んで行く。その間、ずっと私は震えた声で毒にも薬にもならないような話をし続けていた。
「……それで私はお母さん、イフっていう女神に反抗した罰としてプレーンの地下深くに封じ込められてしまったんですけど、そこに次々と地上から罪を犯した人間たちの魂がやって来るようになりまして……それが魔物なんですけど……こんな話聞いてもつまんないですよね……」
【 】
視聴者数:4。
先ほどから視聴者は一人増えたが、相変わらずコメントは貰えていない。
私の雑談に少し反応してくれるかと思ったが、そんな期待を打ち砕くようにコメント欄に書き込みはなかった。
「そ、それでですね……」
ゲエッ! ゲエッ!
私の話を遮るように魔物の泣き声が響く。
「あ、グリーンゴブリンが出ました……」
緑色の肌をした小鬼。ほとんど裸で腰にしか布を巻いてなく、それもボロボロで汚らしい。
棍棒を振り回し、ゲエゲエと喉の奥から不快な笑い声を漏らすその姿は、初めて見るものには恐怖心を与える。
私は見慣れているし、こんな小物、全く怖くもなんともないが、それでも初めての人間っぽく振舞わないといけない。
そう思った。
「それじゃあ……戦ってみます」
私は、近所の24時間営業の武器屋で買った千円の鉄の剣を抜く。
一番安い、一番悪い武器だ。
さびやすいしすぐに壊れる。
だけど、それを使うのが逆に初心者っぽいとおもって私はこの武器を使うことにした。
本気を出したら、またチート使ったと叩かれるから……。
ゲエ……ッ‼
グリーンゴブリンが棍棒を振り下ろし、それを剣で受ける。
「キャ……ッ!」
しりもちをつく私。
わざと、弱いふりをしてみる。
コメント欄を見る。
【 】
反応は———ない。
「……………」
グエッ! グエッ!
グリーンゴブリンが喜んでいるように跳びあがっている。
ダメか……。
やっぱり、私に配信者としての才能はないのかもしれない。
地上に出てみて、日本で安定した幸せな生活を夢見ていたけど挫折して、だったら配信者として社会に認められようと思ったけど、やっぱり認められない……。
もういっそこのままグリーンゴブリンに頭をわざと勝ち割られて死のうか……。
私とコイツではかなりのレベル差があるから、死ぬにはだいぶ攻撃を受けないと駄目だが……。
そんなことを思っていた時だった。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ‼」
遠くの方から悲鳴が聞こえる。
グエッ‼ グエッ‼ グエッ‼ グエッ‼ グエッ‼ グエッ‼ グエッ‼ グエッ‼
剣を持ちながら、こちらに向かって全速力で奪取している人間が一人。
その後ろから大量のグリーンゴブリンの群れが追いかけまわしている。
私と同じ初心者ダンジョン配信者だろう。持っている武器は私の持っているのと同じ鉄の剣で、装備も手足にだけ鎧をはめて胴体は普通のセーラー服というダンジョン探索を舐めているとしか思えない格好だ。
———助けなきゃ!
グエッ! グエッ!
「———どいて!」
私は手を横薙ぎに振った。
すると目の前にいたグリーンゴブリンは吹き飛び、壁の形が変わるほどの勢いで叩きつけられ、がくんと首を垂らす。
そして地を蹴り、初心者配信者の元へ一足跳びで向かう。
「———え?」
突然目の前に現れた私に、彼女は小さく声を漏らす。
女の子か。
さっきは遠くてあんまり顔が見えなかったが、セーラー服を着ているから学生だろう。
彼女のことを考えるよりもまずは目の前の大量のグリーンゴブリンだ。
手に黒き炎を灯す。
「———黒い……炎ぉ‼」
名前のない、黒炎を生み出す魔法をグリーンゴブリンにぶつける。
グエエエエエエエエエエエッッッ‼‼
黒き炎に包まれ、大量の緑の小鬼たちは一瞬で灰と化す。
「大丈夫ですか⁉」
振り返る。
敵がいなくなったことで、改めて襲われていた女の子がどうなったか確認しようとした。
「————ッ!」
彼女の顔を見た瞬間、私は息を飲んだ。
金髪碧眼の……映画に出てきそうな美少女だった。
「外国人……!」
「あなたもですよね?」
流ちょうな日本語で言いながら、彼女は立ち上がる。
身長が小さい。
私の胸のあたりぐらいまでしかなく、腰まで伸びるロングヘアも相まってお人形さんの様だ。
「あ、いや……私は魔族で外国人じゃなくてどちらかというと異世界人で……」
「え———ッ⁉」
私のその言葉を聞いた瞬間、彼女は目を輝かせて顔を近づけた。
「魔族の方なんですか⁉」
「あ、はい……そうなんです……」
「初めて見ました! 最深部にしかいないって聞いてたんですけど! どうしてこんな浅い場所にいるんですか?」
顔が近い……!
ぐいぐい来る。
瞳がキラキラしていて、肌にハリが合って、若さが眩しい……!
「ちょ、ちょっと地上で就職しようと思ったら失敗しまして……それで仕方なくダンジョン配信者をやろうと思って………!」
「凄い! 魔族の人がダンジョン配信するなんて他にはないですよ! 凄い登録者もいるんだろうなぁ……」
「それが……まだ昨日始めたばっかりで登録者どころか……視聴者もあんまりいなくて……」
「え⁉ もったいない! 宣伝が足りませんよ!」
「そ、そうなんですけど……ずっと会社員として生活していたからやり方がよくわかんなくて……」
「そうなんですか……わっかりました!」
ビシッと敬礼をする金髪美少女外国人。
「私とコラボしましょう! 私と一緒に頑張りましょう! ダンジョン配信!」
「こ、コラボ……いいんですか?」
「はい! こう見えてもダンジョン配信は半年もやってて、チャンネル登録者数も10万人超えてるんですよ!」
「す、すごい……今おいくつですか?」
「14です!」
ま、眩しい……やっぱり若さが眩しい……!
暗いじめじめした地下にいた私なんか、彼女の発する若さの光で消滅してしまいそうだ。
こんな子と千歳の私が絡んでもいいものだろうか……。
迷惑じゃない、だろうか……。
ギュッ……!
「—————ふえぇ⁉」
突然、彼女に手を掴まれて飛び上がりそうなほどビックリした。
「ダメ……ですか……?」
そんな……。
そんな———うるんだ目で見上げられると、
「ダメ……じゃないです……」
断れるわけないじゃないですか……。
「やった! 私———
「そ、そうですか……私、魔王です。魔王、リリス・メフィストです。魔王チャンネルって……ラスボスの魔王が家に帰るだけって配信やってます」
勇者ってことは最深部を目指してるってことか……そのラスボスが目の前にいると聞いたら、彼女はショックを受けるんだろうな……と様子を伺う。
彼女は、プリムラは花のような笑顔を浮かべていた。
「そうですか!」
「あ……はい……」
「そういうコンセプトなんですね!」
「……いや、ちが」
「これから宜しくお願いしますね! お姉さん!」
握った手をブンブンと振られる。
こうして、魔王が何百歳の年下の勇者に付き添われながら、最深部に向かうという変な配信が始まった。
視聴者数:130人
魔王様、地上から最深部に行くだけというダンジョン配信をやったらバズる。 あおき りゅうま @hardness10
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