第2話 小さな一歩



「ふむ、この世界は過ごしやすい気候なんだな〜」


東京と違って、なんかムシムシしてないというかなんというか。

開放感があるというか。

人がいないから当たり前なんだよな。

前世、もう、そう呼ぼう。

諦めよう。

前世は、仕事をして、バタバタして、謝って、寝て…………

ロクな生活してなかったのかもなぁ〜

そう考えると、今回はゆっくり自分の好きなことをやって生きるか。

なんか、『勇者』とかいう負債を背負っちゃってるけど。

いっか。

勇者なんて。


「キャァーー!!誰か、助けてー!!」


むむ!?

悲鳴か?

勇者の優しさが疼くぜ。

体が勝手に!

なんちって。


ごほん。

しかし、助けてやらないと。





〜・〜・〜・〜・〜






「嬢ちゃん、死にたくなかったら、大人しくしな」


「……や、やめてください!」


「舐めた口聞いてんじゃねえ!さっさと置いてくもん置いてって去りな」


「だから、手を離してください!やめてください!」


「死にたくなかったら、言うことを聞け!」


「もう、だから、やめてって言ってるでしょ!聞こえないの?」


「てっめぇ!」


「はいはい。だめだよ、お兄さん。その人の手を離しましょうね」


「てめぇ、誰だ?」


「ただの通りすがりの勇者ですけど……」


「勇者?バカにしてんのか?」


「いえ、バカにはしてません。さぁ、その人を開放してください」


「黙れ。このアマ、舐めた口聞いたから、落とし前をつけさせてもらう」


「私のような淑女にアマなんて言わないでもらいたいね」


「ち、ちょっと、君、余計なこと言わないでよ」


「あぁ、自称勇者くんか。私は大丈夫だよ」


「そういうことじゃなくて!」


「ああ、もう、我慢ならねぇな!死ね!クソアマが!」


「あーぁ。殴んなきゃ、手出さなかったのに……」


「君、早くこっちへ逃げて!」


「大丈夫」



ドガン!


凄まじい土煙と轟音が鳴り響いた。

土煙が晴れると、無傷の銀髪の少女が立っていた。


「えぇ!?無傷!?」


「ほらね、大丈夫って言ったでしょ?」


「男の人は、吹っ飛んでったよ。多分、死んでないんじゃないかな?」


「なら、良かった。じゃなくて!何者?」


「私?私は、『大魔法使い ネルリア・トワイライト』だよ」


「自分で大魔法使いって」


「あなたも変わらないじゃない。自称勇者くん」


「俺の名前は『ヒュンメル・アイレット』だ。一応、勇者だ」


「ふうん。勇者には見えないけど」


「この剣、見えねえのか?」


「魔剣なの?それとも、聖剣?」


「勇者って言ってるんだから、聖剣だろ」


「そ。聖剣なら、さぞ強いんでしょうね」


「試し切りしたら、強すぎてビビってる」


「んで?ヒュンメルは、どうするの?」


「なにがだ?」


「私を仲間にするの?」


「はぁ?」


「勇者なんでしょ?勇者は、魔王を討伐するのが定例だけど?」


「それは……そうなるかもな」


「1人で行く気なの?」


「いや」


「でしょ?私、暇だから行ってやってもいいわよ?」


「いいのか?死ぬかもしんないぞ?」


「別にいいわ。後世に受け継がれるのであれば」


「出世心かよ」


「悪い?」


「いや、別に。じゃあ、よろしく」


「うん。じゃあ、勇者パーティーの結成といこうか」


「いや、2人じゃあ、心もとないから、人を探そう」


「そ。じゃ、近くにちょっと大きめの街があるから、そこに行こうか」


「案内、頼んだ」


「分かった」


勇者って、やっぱ魔王討伐するんだぁ……

ま、いっか。

これもまた人生。

ゆっくりまったり行こか〜。






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転生勇者の異世界英雄譚 天ヶ瀬 らぴす @Amagase_Lapis

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