ヒトリゴト

神渡楓(カワタリ・カエデ)

ヒトリゴト


えぇと、配信されてるかな?

・・・うん。おっけー。されてるね。


これは、私の独り言。

誰もいないこの屋上で一人で、カメラを回して話しています。

 

・・・少し、恥ずかしいけど、これが世界に広まる時には、時に私はもういないから、関係ないや。

 

私は明日から、18歳。どうやら大人になるらしい。


漠然と、大人になるのは20歳からだと思ってたのに、いつのまにか18歳からに変わっちゃった。

なんでだろ・・・まぁ、どうでもいいか。行き着く結果は多分同じだし。


大人ってなんだろうね?お酒が飲める事かな?でも、18歳からお酒は飲めないから、違うんだろうね。

 

私はね、大人になるってのは、人間になる事。だと思うんだよね。

 

動物と人間の違いってなんだろうって考えた時に、ちゃんと考えることが出来ることだって思ったんだよね。

まぁ、思考ができる動物もいるけどさ、多分人間程じゃないじゃん?


でもさ、子供って考えることができないよね。

好奇心が勝つって言うかさ、考えるも先に体が動いてた。みたいな?


だから、きちんと考えることができる人!つまり人間になれた人が、大人。


そんなふうに考えたんだ。見て見て、この腕のあざ。ひどいよね。いっつも制服で隠してるから先生達は知らないんだけど。



うん。大丈夫。痛くはないよ。こんな痛み、もう感じなくなっちゃった。心の方が、ずっとずっと痛いから。

 

ねぇ、みんなはセックスって気持ち良いと思う?

 

私はね、全然だった。埃まみれの部室で強引に服脱がされて、本当に玩具おもちゃみたいに扱われて。

 

セックスって大人がするものってイメージがあったけど、全く逆だった。

 

あれは、新しい玩具おもちゃを手に入れた子供の顔そのものだったもん。忘れらないんだよねぇ。良い思い出じゃないのに。


浴びせられた泥水の味も、舐めさせられた床の汚れの味も、降り注いできた罵詈雑言の雨も、見上げた先にある醜悪な顔も、全部忘れらないんだよね。


そんな私にいつも、大丈夫だよって手を取ってくれた、あの子の手の温かさは覚えてないのに、ある日ごめんねって言いながら手を離された瞬間の冷たさはいつまでも覚えてるんだよね。


なんで、だろうね、


殴られて、なじられて、犯されて、その日々の積み重ね。


どうして私がこんな目に遭ってるんだろう。どうして私なんだろう。私なんだろう・・・考えても、考えても思いつかないや。


考えたくないの。考えたら、震えて、吐いて。その繰り返し。


結局みんな全部、一人事。なんだよね。子供だから、相手のことなんか考えられない。


もちろん私だってそうだよ、笹原ささはら大翔ひろと鴨居かもい雄大ゆうだい柳田やなぎあ瑞希みずき古川ふるかわ沙織さおり


このインターネット放送は絶対に誰かが切り抜いて、ずっと世界のどこかに存在する。

私が名前をあげたから、四人の今後の人生は大きく変わっちゃうんだろうね。


でも、どうでも良いの。私は、子供だから、考えることを拒否されて、あなた達に子供のままで居させられたから、他人のことを慮って考える事なんてもうできないや。


学校に行ったら、明日も、殴られるかなぁ。殴られるんだろうなぁ。理由なんて、考えても分からずに、されるがままに殴られて、犯されて。


私は、大人になれそうにないや。


これを見たみんなは、考えてね。


そして、大人になってね。

 

私が、私たちがなれなかった大人に。

 

星が綺麗だなぁ。今思えば、自分家のマンションなのに、屋上まで来たのは初めてだ。


こんな景色だったんだ。なぁんにも知らなかった。


そろそろ、お別れの時間だね。悪いけど私は先に逝かせてもらうよ。


これは、最後の最後まで、一人事を貫いた私の最後の独り言。


聞いてくれたみんな、ありがとうね。


それじゃあ、おやすみ。

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ヒトリゴト 神渡楓(カワタリ・カエデ) @kawatari

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