第2話


「きいたよ。しばらく療養するんだって?」


 私は長期休暇のために会社への手続きや荷物をまとめていると、同じ部署の先輩───筧先輩が話しかけてきた。

 私は彼に困った顔をして心配かけないよう笑い飛ばした。


「ええ、しばらくは暇になっちゃいますよ」

「君がいないととても残念だよ。新しい社員も異動してきたっていうのに」

「新しい社員?」

「すみません。ちょっといいですか?」

 

 初耳な単語に私が聞き返すと、ちょうどいいタイミングで若い男の子が会話に割って入る。

 どうやら彼が新入社員らしい。


「御影よしきです」

「既に君の事は紹介したよ。簡単にだけど。君、社員への教え方がうまいからこれから彼のお世話を頼む、と言いたかったのに、残念だよ」

「どうかしたんですか?」

「うん、彼女、しばらく身体を休める事になったんだ」

「それは、お大事になさってください。復帰する時までにお仕事のほう覚えておきますね」


 彼は眉を八の字にして困った顔をして、私に握手をせがむ。

 私は彼と握手して、彼と先輩と別れた。


「あれ?」


 その時、御影のちょうど立っていた場所に小さな四角い紙が落ちていて、かがんでそれを拾う。そこにかかれていた社名を読み上げた。


「骨董屋…………?」


 これは持ち主に返してあげよう。

 普通はそう思うかもしれない。

 でも、骨董品を売ってるであろうお店の名刺にしては錦糸の入った豪華な名刺で、非常にうさんくさく気になって仕方なかった。

 それに、この奇妙な名刺が私の今までのつまらない人生を変える事になるかもしれないと思えてならなかった。

 そういうわけで、その持ち主である御影がこちらに戻ってきた時、私はそれをポケットにしまった。


「あー、すみません。この辺に名刺、落ちてませんでした?」

「いいえ」

「そう、ですか……」

「おーい、御影、見つかったか?名刺───あれ、緋山、まだいたのか?」


 その時、筧先輩が御影が来ないことに気づいてこちらに帰ってくる。

 筧先輩は御影に近づいてくると、私に目配せする。

 そんな先輩に御影が耳元に口を近づけ何かささやく。

 おそらく例の名刺の事を伝えてると思うのだろうが、それを伝えると、筧先輩は途端に真剣な顔つきに……というより盛大に不機嫌な顔になった。

 罪悪感が押し寄せ、さすがに名刺を返そうと思ったが、


「緋山、休暇取るんだろう?もういけよ」

「え……」

(なに……筧先輩?)

 

 いつも、誰にでも優しい筧先輩が、急に足蹴にした態度を私に取ってきた。


(こんな態度取られたら、返したくなくなるわ)


 私は再びポケットに名刺をしまった。


   

 

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Destructor and Attacker 月石 白 @Kamizu

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