第3話

 今日の進捗。魔王討伐の旅に出た。以上。村を出てから未だ10分足らずの平原の中である。

 というのも、ぽっと出勇者である僕は戦闘経験がないに等しいので、モンスターを狩ることにしたのだ。この平原にはスライムがうじゃうじゃいるので丁度いいのだそう。

 ツァーリ曰く、

「スライムぐらいならシクルでも倒せるだろ」

 とのこと。

 こいつの辞書には戦略という文字が存在しないので、そのツァーリが言うのであれば、本当に弱いのだろう。

 見た目も小さくて可愛いらしいし、片手が折れてる僕でも余裕だろう。

「……え?」

 そんなふうに考えていた時期が、僕にもありました。

 平原は正に地獄絵図だった。小さくて可愛い見た目をしたスライムは、しっかりと化け物だった。

 口から王水やら硫酸やらの類であろう強力な酸をだすものや、動いた軌道上にマグマを垂れ流すもの、果ては全身から放電するものまでいた。流石にこのギャップにはシビれない。

「「よし、やるか!!」」

 馬鹿なのかこの2人は。いや、2人なら倒せるんだったか。だとしたらお前らは化け物か。人類の脅威は身近な所にこそいたのか。

「……よし! 逃げよう!」

 死ぬよりマシだ、僕は帰らせてもらう!

 ──ハッ、待て。今のセリフは明らかに死亡フラグじゃあなかったか!?

 ……よし、戦おう。自分でも言うのもなんだけど最低なムーブだ。だがそれでいい。死ぬよりマシだ。

 そんな馬鹿らしいことを僕が考えてるうちに、ツァーリとゼリオの二人が、

「ハンマータックル!」

「カットスラッシュ!」

 と、技の名前を言いながら突進していった。

 つーか技名ダッセェ……小学生かよ。

「なんでわざわざ技名叫んでんだよ」

「「お前漫画読んだ事ねぇのかよ」」

 その言葉を聞いて僕は思い出した。そうだ、強い奴は技の名前を叫ぶものだ。そしてそれはカッコイイことだ。

 これは僕も技名を叫ぶしかない、とか考えている内に、次々とツァーリとゼリオがスライムを狩っていった。

 ツァーリはハンマーを持っているのにも関わらず筋肉と格闘技術で戦っており、相変わらず相棒であるらしいハンマーの出番はないようだ。勝てるのならまあいいが。

 ゼリオの方は、あんなに危険なスライムを、直接素手で殴って倒していた。殴られたスライムは、まるで剣などの刃物を用いたかのように綺麗に切断されていた。そんな手品師みたいな芸当ができるとは知らなかったな。

 あれ、なんか僕、こんな戦場のど真ん中で考え事をし過ぎじゃないか? 嫌な予感がするな。そろそろ周りを……

「……って囲まれとる!」

 いつの間にか僕の周りを、10数匹の可愛いスライム達がぐるりと取り囲んでいた。

 慌ててるせいで、利き手じゃない左手では勇者の剣を抜けなかった。

 そして、僕を取り囲むスライムの内の、1匹が僕に飛び掛かってきた。

 ヤバい、死ぬ!

「ぷるぷる。ぼくつよいすらいむじゃないよ」

 ペチャっと音がして、僕にぶつかったスライムは地面に崩れ落ちると、そう呟いた。

「──ザコもいるじゃんか!」

 僕は大喜びでツッコんだ。

 ベシュラリッすると、目の前にいたスライムは飛沫となって飛び散り、小さな金貨を残して消えた。

 なるほど、ツッコミで死ぬザコと。

「ツッコミラッシュ! オラオラオラオラァ!」

 技名を叫び、ツッコミを連打する。

 数秒後には、スライムは全て消えていた。

「ハァ……ハァ……」

 ……何だか今の僕、ものすごくカッコワルイ気がする。絶対勇者のムーブじゃない。


テッテレテッテーテッテー

勇者一行はスライムを倒した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ツッコミ勇者 94 @kyujuyon94

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ