ただ勝つために、すべてを③

「いや……え? あの人今なんて言いました?」

「食べて良いかと言ってておったな……あれを食べるとはのぉ」

「ねぇねぇー聞こえてるんでしょ? だったらどっちなのか応えてよー」


 ラグナは少女と巨人の両方を見ながら思考を巡らせる。


(あれをねぇ。食べるっていうのは物理的にではないだろうし、だとしたらもしかして……確認したいなぁ。もし本当にあれなんだとしたら、絶対に逃すわけにはいかない。機嫌を損ねたくはないけど、あいつが死ぬのもなんだかなぁ……どうしよ?)


「……ねぇ君。君は今、食べて良いって聞いたよね? つまり、君にとってあれは、倒せるのは当然の相手で、文字通り食糧でしかないってことでいいんだよね?」

「? そうだけど、それがなぁに?」

「へぇ、そうかい……うん、わかった。いいよ、好きにするといい」

「ホントに⁉」

「え、いいんですか? ラグナさん」

「うん。あの子が持ってる力がぼくの知っているあれなら、拒否したところで、あの子が無理やり食べようとしたら、ぼくらでは止められない。それに、あの子は巨人をただの食料としか認識していないみたいだしねぇ。まぁ、いい、かな」

「……止められないって、本当、ですか? というか、あれって?」

「見とればわかると思うぞ。あと、お主が想像しとるのはあれじゃろ?」

「そう、あれ。やっぱわかるんだね。流石だよ」

「当然じゃろ」

「いやだからあれって何で――」

「ありがとう! それじゃあ、いっただきまーす‼」


 メイアの言葉を遮るように、ハイテンションのまま少女は跳んだ。自らの体躯よりも明らかに大きい大剣を片手で持っているというのに、少女は巨人の頭上へと一瞬でたどり着いた。


「やっほーー!! 巨人君! お願いだから、あたしを思いっきり、楽しませてね!」


 その声に巨人が反応する間もなく、少女は大剣を頭に叩き込んだ。

 普通に考えれば、あれほどの体格差があれば巨人に攻撃が通じるはずがない。だが、叩き込まれた一撃は、巨人の頭がへこんだのではないかと思うほどの衝撃を起こしていた。


「………え?………いや、え?……何あれ。いやいやいや、何ですかあれ! 何がどうなったらあんな威力が出るんですか⁉」

「……やっぱりそうだったかぁ。いや、うん。想像以上だね」

「そういう勿体ぶった発言はもういいのでさっさと説明お願いします」

「辛辣だね⁉ いやまぁ話すけどね。あれは多分、というか間違いなく、魂を喰らう力を持っているね。潜入中にちょっと話したあれ、覚えてるでしょ?」

「……それって、1000年前最恐と言われていたっていう化け物のことですか?」

「そう。戦争が終わった以上、死んだか封印されたかわかんないけど、居なくなっていたことは事実だったんだけど、なぜかあの子がその力を持ってるっぽいんだよねぇ。発言的にも、あのあほみたいなパワー的にもね」

「なるほど。うわぁ、なんであの体格差で巨人の方が吹っ飛ばされてるんですか?」

「さぁ? ぼくもよくわかんないや」


 メイアの言葉通り、少女の大剣と巨人のこぶしが真正面から衝突したが、拮抗することすらなく巨人のこぶしが吹き飛ばされていた。そして、再び頭上へと移動すると、先ほど以上の威力の攻撃を何度も叩き込んだ。

 巨人も当然反撃するが、その巨体故に攻撃は遅く、それが当たることは無く、一方的なリンチが繰り広げられていた。


「やはり、恐ろしい力じゃな。あやつの喰らった魂は全て、あやつの中に蓄積される。その人間の力や経験、能力や記憶、文字通り全てが。見た目こそただの少女じゃが、実質的なパワーは巨人の倍はあってもおかしくはないじゃろうな。全く、どれだけの魂を喰らえばああなるんじゃ?」

「国の一つか二つかは滅ぼしててもおかしくないんじゃないかな? あ、あと神聖騎士団も食ってるかも。当然討伐対象だろうし、そうだとしたら最高だね」

「えっ怖すぎるんですけどそれ。あ、もうすぐ終わりそうですね」

「だね。さてさて、これからどうするべきかな? というか、ぼく、死なずにいられるかな?」

「え?」

 

 それから数分も経たずして、巨人は倒れ、動きを止めた。息はまだしているようだが、戦う意思は完全に残っていないようだ。


「あ、もう終わっちゃったのー? 張り合いないなー……まぁいっか。こ久々の美味しいごはんだしね。早く食べれるのはうれしい、というかもう我慢できない!! それじゃあ、いただきまーす!!」


 少女は大きく口を開くと、待ちきれないといった感じで口を閉じ、そのままゆっくりと咀嚼した。それと同時に、巨人は一切動かなくなり、少女は虚ろな眼を輝かせながら、恍惚としていた。


「よし、それじゃあ話に行こうか」

「うむ」

「いやちょっと待ってください、さっきなんて言いましたラグナさん」


 ラグナはメイアをガン無視して、少女の元へと向かった。ラグナは、到着すると、すぐさましょんぼりとした表情になった少女に話しかけた。


「あぁ……美味しいなぁ。でも……うぅ、もっと食べたいよぉ、こんなんじゃ足りない、足りないよ……」

「やっほー。お疲れ様、かな? いやまぁ疲れてはなさそうだけど、そいつ、おいしかったみたいだね? 仮にも僕が君に提供したものだからさ。ちょっと、お話に付き合ってくれる?」

「……うん、いいy――ねぇ、それなに? あなたの周りにある、そのおいしそうな魂、なに⁉」

「あ、やっぱり話通じな――」


 少女が口を閉じたその瞬間、ラグナの胴体が消滅した。





あとがき

 1か月以上投稿が停止してしまい、誠に申し訳ありませんでした。考えても考えても納得できるものができず、ようやくマシな感じに仕上がりました。もっと頑張らないとですねホントに。

 次回以降は、がっつり戦闘が始まります。お楽しみに。

 え? 巨人君の影が薄い? まぁうん、そういう運命だったということで、はい。


 

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