ただ勝つために、すべてを②
国中から光が消え、暗闇が一帯を包んだ。そしてすぐさま、光が国中には触れだした。先ほどまでとは比べ物にならないほどの光が。
「え? 何が起こってるんですかこれ?」
「ふむ……あぁ、そうじゃったか。この国にはあれが封印されとったな。なるほど、ようやく合点がいったわ」
「いやマジで気づいてなかったの? メモリア」
「仕方なかろう。封印されてはいるが、地味じゃからな、こやつ」
「いや確かに地味なのは否定しないけどさぁ。君が忘れるほどの地味さではない気がするんだけど? こいつ」
「あのちょっと、何言ってるかわからないんですけど? 説明が欲しいんですけど。俺を置いて行かないでくれませんか⁇」
「ん、あぁ、そう、説明ね。まぁ、見ればわかるよ……いや、ごめんて。説明するからさ、そんな顔しないで?」
「……そんなすごい顔してますか? 俺」
「うん、すごいよ。鏡は見ないほうがいいと思うよ」
「うむ。何というか、成長したのぉ、メイア。良い感じにブレーキをかけられるようになっておるな。その調子で頼むぞ」
「いやメモリアさんも止めて下さいよ!」
「ブレーキが存在せんから無理じゃな。そんなことはどうでもよい。さっさと説明をしてやればよかろう」
「おっけーおっけー。まぁ簡潔に説明するよ」
さらに輝きを増していく光から目をそらしつつ、ラグナは説明を始める。
「ここに封印されてるのは、巨人だね。文字通りの巨人。それだけだね」
「……え? それだけですか? なんか省いてません?」
「言ったでしょ、地味って。ただでっかいだけの人、いや理性ないから化け物ではあるかな。正直何で封印されたのかすらわからない程度には特別な何かを持ってないんだよね。ねぇ、メモリア」
「そうじゃな。戦争期にこやつは一応活躍しておったんじゃが、ぶっちゃけ兵器や魔法があるからのぉ。それを使えば同程度の戦果は簡単に挙げられるからな。ただでかいだけでは、あんま印象に残らんのじゃよ」
「あの、この巨人、弱いんですか?」
「いや強いよ。地味なだけで」
「強いぞ、地味じゃが」
「地味地味言いすぎじゃないですか⁉」
「だってねぇ……っと、そろそろ封印解けるんじゃないかな?」
「え、本当ですか?」
「うん、なんか気配感じるでしょ? 大体、あの辺に」
ラグナは国の下部を指さした。そこには確かにとてつもなく大きなナニカが地上へと上がってきているのが見えた。
「あ、本当ですね……いや、でかすぎません? この国全部ぶっ壊れるんじゃないですか?」
「まぁぶっ壊れるでしょ。というか、こいつ復活させるために、国民全員生贄に捧げられてるんだし、廃墟が壊れるぐらい何の問題もないじゃん」
「あっはい。そうですか」
光がさらに輝きを増すと、国が揺れ始め、中央部の建物から順に、沈んでいった。それに反するように、巨大の気配が地上へと浮上してきた。そして、当然光が消えると、爆発のような衝撃がラグナたちの元まで届き、巨人は、咆哮とともにその姿を現した。
その姿を、人、と形容するかは一考の余地があるだろう。ただ、一言でそれを表すのならば、まさにそれは巨人だった。皮膚は大きな鎧のようであり、顔は、鬼のような形相だった。尻尾や角、翼のようなものもあるように見えるが、ラグナにとってそれらはどうでもよいことだった。ラグナは、一つのことを考えていた。
「すごい声ですね……で、今更なんですけど、なんでこの巨人を復活させようとしたんですか?」
「ぶっちゃけ特に理由はないよ。ただ、ぼくが見たかったというか、神様への嫌がらせというか、そんな感じかな。そんなことより、なんか……でかくないこいつ?」
「え? 巨人だからでかいのは当然では?」
「いや確かにでかいのぉ。わしが見た頃よりも明らかに大きくなっておるように見えるが、封印中に何かあったのじゃろうか?」
巨人は、ラグナの知識にあるものの、倍近く大きくなっていた。
「地味地味言いすぎたから怒りで大きくなったのかな?」
「それはあり得るのぉ」
「いやありえないでしょ⁉」
「いやワンチャンあるかもよ? 50%くらいはあり得るんじゃない?」
「いやないでしょ!」
「冗談だよ。とは言え、0ではないと思うよ。感情によって能力なんかに変化が起きるのは実際あることだからね。封印される前に何らかの怒りを抱えていたとかね。他に要因を考えるとしたら何かある?」
「生贄が多すぎたとかは考えられるじゃろうな。封印中に成長したというのもあり得るかのぉ」
「大きくなっているってことは、何らかのエネルギーを吸収したってことだとは思います。だとしたら、生贄が多かったというのが一番ありえそうですけど、だとしても一瞬で倍近くに成長するのはありえるんですかね?」
「ありえないとは言えないかな。まぁいい。そういう考察は、後回しだ。変化がある以上、ちゃんと調べないとだね。いやはや、実に楽しみだねぇ」
「嬉しそうじゃのぉお主」
「そりゃそうでしょ! 封印なんて言う、変化を止める愚かな行為を経てなお、成長しているなんて、最っ高だよ!! さぁ、調査開始と行こ――」
「わーー!!! なにこれなにこれなにこれー!! すごくおいしそうな気配がしたと思ったら、こんなおっきくて、おいしそうな魂があるなんて!! すごーーーい!!」
突然、ものすごくハイテンションな声がラグナの言葉を遮った。驚きながらラグナたちが声のした方向を見ると、大剣をもった血塗れの少女がそこにいた。少女は、虚ろな眼を輝かせ、巨人を眺めていた。そして、ぐるりと顔をラグナたちの方に向けると、そのままのテンションで話しかけてきた。
「ねぇねぇ! あの巨人、食べていい⁉」
あとがき
はい。遅れました。とりあえず新キャラがラグナ達と出会いましたね。ここからどうなっていくのか、お楽しみに!
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