第四章 ただ勝つために、すべてを①
「あは、あはは、ははははは! たのしいねぇ! ラグナァ!」
「いや、これのどこが? いつ死ぬかわからない、まじで必死に戦ってる状況をどうやって楽しめ――っと、あぶな! 死ぬって、いや本当に死ぬって!」
「死ぬとかどうでもいいじゃん! ほらほらほら、何もかも忘れちゃって、ただいまのこの戦いを楽しもうよぉ!」
「いや無理だけど⁉」
(うーんと、会話による説得は当然不可能でしょ? で、攻撃は当たらないし当てても全くダメージにならない。そのくせあっちはあんなバカでかい大剣を軽々しくぶん回してくるから、一発でもあたるとやばい。体力切れも期待できないし……なんだこの地獄、ほんとやなんだけど。これだったら『神聖騎士団』百人殺す方がまし……いや、そっちの方が嫌だな。こっちのほうがやりがいがある分、楽しいような……いやこんなこと考えてる暇ないな、もっと集中しなきゃ死ぬねこれ)
どのみち戦う以外に選択肢はないのだから、余計な思考は邪魔だ。思考を変え、戦いに集中する。それでも脳の片隅で考えてしまう。
(あーもう、何でこんなことになったんだっけ⁉)
ことの経緯は三日前に遡る。その日はメイアの訓練も兼ねた国家の破壊計画が完了しようとしていた。
「よし、これでこの国の上層部は全部わたしたちの手中に落ちた。最高の結果だよ。よく頑張ってくれたね、イアちゃん」
「うん……私、結局全然うまくできてなかったと思うんだけど。初めの頃から何も変わっていないような……私の訓練だったのに、成長できなかったよね?」
「いいや、イアちゃん。君は成長、はあんましてないのは事実だけど、今回の結果は百点満点だったよ」
「どういうこと、ですか?」
「そもそもこういう人心掌握の技術は一朝一夕で身に付くようなものじゃない。わたしもこのレベルになるまでにはかなり時間がかかったさ。だからうまく行かないのは当然。むしろうまくできてなかったからこそ今回はいいんだよ。未熟さとか初々しさとかがいい感じに属性になってたからねぇ」
メイアは、意図的に人から情報を引き出したり、思考を誘導させたりすることはできていなかったが、いろいろな要素が奇跡的に噛み合った結果、自然と人を惹きつけるようになっていた。
「こういうのを才能っていうんだろうねぇ。わたしにはできない、自然な可愛さ。うーん、実に羨ましいねぇ。そういうわけだからさ、成功したことを喜んで、この国が崩れる瞬間を見届けようじゃないか!」
「そうですね。ラーナさん」
「あ、もう口調とか呼び方とか戻しちゃっていいよー。イア……メイアは結構長い間その姿だったから、戻すのにちょっと苦労するかもね」
そう言いながらラグナは外見を普段の姿に戻した。
「うーん、実に久しぶりだ。正直どっちの姿でも大して違いはないはずだけど、どうもこっちの方がしっくりくるね。ぼくの根っこは男だっていうことなのかな? まぁどうでもいいんだけど。よし、メイアこっち来て、今戻すから」
「あ、はい。今行きます」
「あ、でもなんかもうちょっとイアちゃんのままでいてもらおうかな? 可愛いし、どう?」
「いやですよ⁉ もどしてください!」
「ハハハ。冗談だよ冗談。ほら、今戻したからさ」
「え、あ、本当だ声戻ってる。髪も元に、戻ってますね。えっと、ありがとうございます」
「勝手に女体化させて勝手に戻しただけなんだから、礼はいらなくないかい?」
「確かにそうですね。はぁ……滅茶苦茶疲れましたよ。わた……俺はもう絶対に女の子にはなりませんからね? 絶対ですよ?」
「ウンウンモチロン、キミガヤリタクナイノナラキョウセイハシナイヨ」
「……断れない流れを作り上げて、強制ではないからって、なんやかんやで、女体化させそうな言い方ですねラグナさん」
「もちろんさ! いやー君もぼくのことが分かってきたねぇ。本っ当嬉しいよ! メイア!」
「合ってるんですかぁ……そうですかぁ……」
「ずいぶんと仲良くなったようじゃな。お主ら、素晴らしい漫才じゃったよ」
「いや漫才じゃないですよ⁉」
「あ、やっほーメモリア。こっちは最高の出来だけど、もちろん、そっちも最高だよねぇ?」
「ふっ、当然じゃろ。正直今回の仕事はかなり楽じゃったからな。あの程度の細工でこの国を壊せるじゃろうか? 何が起こるかは想像つくんじゃがな」
「それは今からわかるよ。ぼくらがこの国を出る瞬間ぐらいには始まるんじゃないかな? そういうわけだから、行こっか」
そう言ってラグナは迷いなく国の外へと歩き始めた。メモリアはメイアに目を向けると、メイアもよくわかっていない様子で首を傾げた。
「ふむ。お主も分かってないようじゃな。まぁよいか。行くとしようかの」
「はい。そうですね。一体何が始まるんでしょうか?」
二人もラグナに続いて、歩き始め10分ほどで彼らは町の外へと着いた。
「よしよし、間に合ったね、あと……30秒ってとこかな?」
「ギリギリすぎやしないかお主?」
「本当に国を出る瞬間に始まるんですね……」
「まぁいいでしょ。何であれ、目を離さないようにね割と一瞬ですごいことが起こるからさ」
ラグナは振り返ると、手のひらを国に向けてカウントするように指を折り始めた。そして、ちょうど五秒がたった瞬間、国からあらゆる光が消滅した。
あとがき
はい。一か月以上投稿が開いてしまいました。マジですいません。大体の流れは決まってるのですが、細かい部分がなかなか決まらず、気が付いたらこんなに間が開いてしまいました。投稿を少しずつ速くしていくのでよろしくお願いします。
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