自分のための英雄⑪

「それで、この国では結局何をするんじゃ? その姿を使うとは言っておったが、具体的にどうするつもりじゃ?」

「実のところ今回は、一切暴力を用いないと言うこと以外はなにも決めていないんだよね。この姿を使う理由は、まぁうん。そういうことだよ」

「え? どういうことなんですか?」

「いやお主なんでわから……あぁ、お主子供じゃったな」

「純粋でいいねぇ。まぁ今からいい感じに汚れてもらうことになるけどね」

「はい?」


 ラグナたちは、サーレイション連合王国を出て、次の国へと着いていた。ラグナは変わらず女性の姿をしており、男女問わず目が奪われるような綺麗な姿をしていた。


「さて、ここでの一番の目的は、メイア、君を育てることだ。君は戦闘に関しては十分すぎるほどの実力がすでに備わっている。だからそっち方面は必要にならない限りは放置でいい。君に必要なのは、戦闘以外の技術だ。今回で最低限は身に着けてもらうよ。いいかい?」

「はい、分かりました。それで、俺は具体的に何をすれば?」

「とりあえず君には女の子になってもらう」

「はい⁇」

「とりあえず君には女の子になってもらう」

「いや聞こえてますよ⁉ そのうえで何言ってるかわからないんですよ⁉」

「とりあえず君には女の子になってもらう」

「…………あの、女の子になるっていうのは、女装しろとかそういう?」

「いや、言葉のままだよ。ぼくが今から、君の肉体を女の子に改造する。OK?」

「せめて理由を説明してくれませんか⁉ いきなりそんなこと言われてもわけがわからないですって!」

「それもそうだね。まぁあれだよ。情報を探ったり、そういうことをする場合はね、基本的に女の子の方がやりやすいんだよね。人って単純だから。メイアはそういう経験ないでしょ? だから、初めは難易度が低いほうがいいかなって思ったんだよ」

「なるほどのぉ。筋は通っておるな。それで、本音は?」

「メイアが女の子になったら絶対に面白いことになるからだけど?」

「そうでしたね。ラグナさんはそういう人でしたね知っていましたよえぇ。どうせ俺に拒否権はないんですよね?」

「うん、もちろん。ただ、これは間違いなく君の糧になる。それは事実だよ」

「そう、ですか……わかりました、やりますよ」

「よし。じゃあ始めようか。滅茶苦茶可愛くしてあげようじゃないか」


 ラグナは、とてもいい笑顔でそう言った。メイアは、承諾したことをすぐさま後悔したが、今更どうしようもないと理解し、遠い眼をした。そして、数分が経過した。


「ふぅ……うん。完璧だね。いやまさか、ほとんど変化させてないはずなのに、恐ろしいほどの美少女になるとは。これが才能ってやつかな?」

「じゃな。ラグナもじゃが、お主ら生まれる性別間違えとらんか? 違和感がなさすぎるのじゃが」

「あの、俺どんな姿になってるんですか?」

「ちょっと待ってね、今鏡だすから。あ、それと、その姿で俺は合わなすぎだね。一人称、私とかにした方がいいよ」

「えぇ……わかりました、けど」

「取りあえず見てみたまえ。見れば納得するはずだからさ」

「はい…………え? 誰ですかこれ?」

「当然君だけど? 鏡を見てるのは君なんだから。君しか映らないよ?」

「いや分かってますけど……なんというか、信じられないくらいかわいいですね。これが俺……じゃなくて、私なん、ですね」

「そうだよー。あ、声もあんまり違和感はないけど、ちょっと高くしておこうか。万が一もバレる可能性はないと言い切れるけど」

「素直に喜んでいいんですかね、それ」

「いいんじゃない? 面白いし」

「いいじゃろ。面白いんじゃから」

「……そうですか。あ、声高くなった」

「よしよし、良い感じだねぇ。とりあえず準備はできから始めようか」

「え、何をですか?」

「女の子の練習。仕草とか、話し方とかをね。徹底的にやるから覚悟してね?」

「……分かりました。分かりましたよえぇ。やってやりますよ!」

「あ、吹っ切れたのぉ。素晴らしい出来になりそうで、実に楽しみじゃの」

「どこから行こうかなー……よし、シンプルに立ち方、座り方からとかから行こうかな。まず――」





「はぁ……おいしくない。他の人たちより間違いなく強いはずなのに、なんでこの人たちはこんなにおいしくないのかなぁ」


 その少女は、周囲に無数の死体が転がっているのにもかかわらず、平然とした様子でそう呟いていた。体中が血まみれであり、髪の毛も大量の血液を浴びたためか、薄い水色の髪は、ほとんどが真っ赤に染まっていた。また、その傍らには少女よりも明らかに大きなサイズの大剣が突き刺さっていた。

 少女はどこか虚ろな目をしたまま、何かを食べているかのように口を開け閉めしていた。そのたびに少しだけ表情が変化していた。ほとんどは微妙そうな顔で、ごくまれに、ほんの少し口元を緩めていた。


「今のは、少しおいしかったかな? でも、少ししか変わらない。他がおいしくないから、そう感じてるだけかな? あぁ、もっとおいしいの、いないかな?」


 そう言ってため息を吐く少女のそばに、再び人が近づいてきた。その人間たちの姿は、そこら中に転がっている死体と同じような格好をしており、それは、ラグナたちを襲った存在と同じ、『神聖騎士団』であった。


「また来たのぉ? 何度も言ってるじゃんかぁ。おいしくないから嫌いなの! 早くどっか行ってよぉ……」


 少女の言葉を無視し、騎士たちは攻撃を開始した。


「はぁ、やだなぁもう。何で死ぬのが分かってるのに、突っ込んでくるの? もっと生に執着してくれないと、魂がおいしくなってくれないじゃんか! あーもう、いいや。死んじゃえ」


 少女は大剣を片手で引っこ抜くと、迷うことなく騎士たちに接近し、薙ぎ払った。そして、彼らが全員息絶えるまでに、一分もかからなかった。


「あー終わった。どうしよっかなーこれから。ここに居たらまたあいつらが来るよね? だけどここ以上に、安定して食事ができる場所なんてないし……おいしいの、食べたいなぁ。すっごくおいしい魂、どこかにないかなぁ」





あとがき

 これにて、第三章は終了となります。お楽しみいただけたでしょうか?

 そんなことよりもですね。なんというか、その、一か月近く更新できず、本当に申し訳ありません!! なかなか執筆する時間が取れず、気が付いたら一か月もたっていて滅茶苦茶驚きました。月一投稿にはならないよう、頑張っていく予定なので、どうぞよろしくお願いします。

 そして新キャラ登場です。相も変わらず名前はまだ決まってないので、決まり次第話が始まると思います。

 それでは皆様、第四章『ただ勝つために、すべてを』でお会いしましょう。

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