自分のための英雄⑩

「――という感じかな? なんとなくでもわかってくれたなら問題はないよ」


 ラグナは、あの後自らの能力についてや『英雄の剣』の詳細を説明した。かなり大雑把だったが、メイアはギリギリ理解できたようだ。


「まぁはい。なんとなくは理解できたと思います。にしてもすごいですね。自分をもう一人作り出すって」

「まぁね。あ、ぼくまだリソース残ってるよね? どうする? もうぶっちゃけやることないんだけど」

「ぼくはもうリソース切れるよ?」

「え、なんで?」

「いやーここに登場するときの演出にリソースを大分使っちゃったんだよね。どうせならと派手に爆風起こしたんだよねー。その結果もうリソースが――あっ切れる。ばいばーい」


 そんな風に消えていったラグナを、呆れたような表情で見ながらメモリアが口を開いた。


「うむ。実にお主って感じじゃの」

「だね。ぼくでもそうするだろうから、文句は一切ないけど」

「えぇ……引いてる俺がおかしいんですかねこれ?」

「間違いなく君が正常だよ。君はそのままでいてくれよ? メイア」

「頼むぞ? わしらは基本的にノリと勢いで突っ込んでいくからのぉ。じゃから、ブレーキは全てお主に任せたぞ?」

「え?」


 メイアはたった今ノリと勢いでとんでもない役割を押し付けられたような気がして、唖然とした。

 ラグナは周囲を見渡すと小さく息を吐いた。滅茶苦茶になった国がそこにあった。


「さて、この国に来た目的はもう全部達成しちゃってるんだよね。『英雄の剣』はゲットしたし、メイアという有能すぎる人材も仲間にできて、この国も崩壊してるし、なんだろう、最高かな?」

「じゃな。そういえばお主、男の姿には戻らんのか? もう変装する意味はないじゃろう?」

「あーそれなんだけど、次に行く国はこれを利用したいと思ってるんだよね。だからこのままでいいかなーと」

「ほぉ。ま、楽しみにしておるぞ」

「よし、じゃあさっそく出発、する前に。ねぇ二人とも、せっかくだから、この国のダンジョン全部攻略してみない? メイアは『英雄の剣』に慣れる必要があるし、面白い物資が埋まってそうだからねー」

「良い考えじゃなそれは。まぁわしはセグウェイで着いて行くだけじゃろうが」

「いいですね。どれくらいで攻略しきれますかね?」

「うーん……一週間以内には終わらせたいかな? よし、行こうか」

「うむ」

「はい」





~ここからはダイジェストでお送りします~


「あのーラグナさん? 俺の眼には明らかに手で振って使うはずの双剣が、投げ武器として使われているように見えるんですけど。というか勝手に戻ってきているように見えるんですけど」

「いやー便利だよねこの機能。必ず使い手の元に戻ってくるっていうのは。ダンジョンで騎士たちと戦闘した時にやってみたんだけど、想像以上に使いやすくてね。これからも利用することになるだろうね」

「うーむ。その武器の本来の使い方ではないと思うべきか、効率的に利用していると思うべきか。まぁどっちでもよいじゃろう、見ていて面白いからのぉ」

「だよねぇ。何というか、良い感じにストレスが解消されるんだよねー」

「お主、まだイラついておったんか?」

「ぶっちゃけた話するんだったら、敵が弱すぎて溜まっているストレスをリアルタイムで解消してるだけなんだよね。こういうのを地産地消っていうのかな?」

「お主なんでダンジョン攻略しようって言ったんじゃ⁇」

「何でだろうね? メイアは分かる?」

「いや俺の訓練と物資を探すためって言ってましたよねあなた⁉」





「『英雄の剣』って、ロケランに変形させたりとかできるかな?」

「流石にそれは……できるんじゃなかろうか?」

「え? できるんですか?」

「さぁ、知らん。じゃが、とりあえずやってみればよかろう。それでわかるじゃろ」

「はい……あ、できました」

「本当にできるんだねそれ。適当に言っただけなんだけど……」

「いまなんて言いました⁉」

「別に何も。それより威力はどんなものかな? ほらちょうどいい的がいるし」

「はぁ、分かりました。撃ちますよー」


 メイアがロケランを放つと、ダンジョンの通路を巨大な光が通過した。その眩しさに目をつぶり、光が収まったので目を開けると、先程までとは全く異なる景色があった。当然のようにそこにいたモンスターたちは消滅していた。ダンジョンの壁ごと。


「……えぇ……? マジで言ってるこれ? 撃った方向の壁、全部壊れてない?」

「お主……やりすぎじゃよ?」

「……なんですかこれ? 何がどうなったらこんな威力になるんですか!?」

「これを作った人たちは本当にバカだったってことじゃないかな。うん。そういうことにしよう。ぼくたちは悪くない」





「あ、あれ見て。どう見ても罠でしかない宝箱だよ。開けてみないかい?」

「罠と分かってるのに、何で開けるんですか??」

「だって面白そうじゃん。そう言うわけだから、メモリア、任せたよ」

「うむ、任された。なんと言うか実に爆発しそうな罠──」


 メモリアがその宝箱に近づくと、触れるまもなく爆発した。メイアは何が起こったのか全く理解できず思考が停止した。ラグナは爆発をみて大爆笑していた。


「──じゃったな。なぜ開ける前に爆発するんじゃよ」

「ハハハ! あーおもしろ。急に罠が凶悪になって、最高に笑えるねーこれ。よし、次行こうか」

「うむ……メイア、正気に戻れ」

「……ハッ! あれ? 今何か爆発しませんでしたか?」

「気のせいじゃろ。見ての通り誰もダメージを喰らっておらんのじゃから」

「あぁ、そうみたいですね。宝箱がいきなり爆発したような気がしますけど、気のせいですよね。うん」

「分かりやすい現実逃避だねぇ……あ、あれも何か爆発しそうな気が――」

「無視しましょう」

「あ、はい」





「なんだこのクソボス。死んでくれないかな?」

「固くてすばしっこくて状態異常をまき散らしてくる。うむ、分かりやすくクソじゃな。早く死んでくれぬか?」

「二人ともキレすぎじゃないですか? いやまぁ確かにあれはさっさと死んでほしいとは思いますけど」


 三人の目の前には、ようやく動きを止めることに成功したボスが大量の状態異常で苦しんでいる光景があった。


「あ、死んだね。物理でまともなダメージが与えられないってのは、なかなかに面倒な相手だね。今後もこういう相手が現れることは想定しておく必要がありそうだね」

「そうじゃな。ダンジョンに超強力な毒でも埋まっておらんじゃろうか?」

「あーそれなら確か、隣のダンジョンの最奥にあるはずですよ」

「よし今すぐに行こうか」





「ちょっとこれ敵多すぎないですか⁉」

「そんなことは無いじゃろ。なんせ、敵と敵の間に隙間が存在するんじゃから」

「いや、確実に100体以上に囲まれてるんですけど、これのどこが少ないと⁉」

「まぁまぁ細かいことは良いじゃん。あの木偶人形どもに比べれば、何百倍も楽しいんだし」

「ラグナさん『神聖騎士団』のこと嫌いすぎじゃないですか?」

「そりゃそうでしょ。あのカスどもを嫌わない理由なんて存在しないというか……ナンカ考エタラ、イライラシテキタナ」

「ちょっ‼ ラグナさんヤバイ! その顔はなんかとにかくヤバいです!」

「声もじゃな。どこかでストレスでも発散してきたらどうじゃ?」

「ウン。チョット教会爆破シテクルカラ、コノダンジョンノ攻略ハ任セタヨ」

「あ……はい。分かりました」





「よし、これで終わりだよ。決めてしまえ。メイア」

「はい‼」


 ラグナが両足を奪い動けなくなったそのボスに向けて、メイアは巨大化させた『英雄の剣』を振り下ろした。脳天から完全に真っ二つにされた巨大な人の形をしたそれは、その手に持っていた武器を落とし消滅した。


「お疲れ様じゃ。これですべてのダンジョンを攻略完了じゃな」

「だねー。予想以上早く終わったね。それに、良いものが大量に手に入った。この武器は、ぼくには使えないけど、実に面白かったね。誰かこれを使える人間に会いたいねぇ」

「10mあるこやつですら完全に扱えておらんかった武器じゃぞ。まともに扱える人間がおるとは思わぬが……お主は使えそうか? メイア」

「無理ですね。俺にそれを振れるほどの力はないです」

「だよねー。ま、とりあえず持ち帰るけど。メイアも、かなり戦闘になれてきたみたいだし、少し休んだら、出発しようか」

「うむ」

「了解です」





あとがき

 次回で3章は最終回になります。お楽しみに!


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