自分のための英雄⑨
「さてさて、ぶっちゃけ君たちと戦うのは面白くなさそうだから、速攻で終わらせたいんだよねー。だからさ、早く来なよ。どうせ死ぬんだったら善行積んだ方がいいと思うよ。ぼくの時間を無駄にしないっていうさ」
ラグナは騎士たちを挑発するが、当然のように騎士たちは挑発には乗らず、攻撃を仕掛けずに距離をとったままだった。ダンジョン内で襲撃した騎士たちが負けたということは既に理解してる。何を仕掛けてきても対応できるように身構えていた、が。
「無駄だよ。どれだけ警戒しようと、君たちはここで死ぬ。辞世の句でも読んだらいいと思――あ、ごめん。時間切れだ。後ろを見てみると良いよ」
その言葉につられ、騎士たちの一部が後ろを向いた。そこには、外に出たら面白いことになっていてワクワクしてたのに、心底嫌いな存在である『神聖騎士団』がまたいて、ものすごく不愉快になっている、女性の姿をしたラグナがいた。
ラグナは大きく溜息を吐くと、一瞬で騎士たちのそばに近寄り、感情のない眼で木偶人形どもを見つめ、同じく感情のない声で一言呟いた。
「シネ」
その姿を見た騎士は、思わず悲鳴を上げようとしたが、その瞬間首を斬られた。他の騎士もその姿を認識した瞬間には首を斬られ、騎士が全滅するのに、一分もかからなかった。
「なんとなくこうなるかなって思ってたけど、想像以上にひどかったね。わたし、ぼくのことちゃんと認識してくれるかな? 間違って殺されないよね?」
「大丈夫じゃろ、多分。幽鬼のような顔をしてはおるが、流石に問題ないと思うのじゃが……」
「…………………ア、ヤッホー二人トモ。メイアニ『英雄の剣』ハ渡セタカイ?」
声がまだ無機質な感じはするが、正気には戻ったらしい。
「見ての通りじゃ。メイアはやはり、あの剣を使いこなせる人間じゃったよ」
「どれどれ……おぉ、素晴らしいね。想像以上だよ」
そこには一対多数をものともせずに騎士達を倒していくメイアの姿があった。
『英雄の剣』。その本質は、使い手を永遠に戦い続けさせることにある。剣に選ばれた人間は、強制的にその潜在能力を全て引き出され、全盛期の状態で固定される。
『英雄は、死んではじめて英雄とされる、なんて話はよくあることだけど、死なずに戦い続けてくれる方が良いよね』と言う発想のもと、戦争期に、ある四人の武器職人が殴り合いながら、各々の技術を結集させて作り上げたのが、この剣だ。
『英雄の剣』には彼らのロマンの全てが込められている。その最たる特徴は──
「メイア! その武器を剣と思ってはいけないよ。その形はあくまで、君が剣として使っているからそうなっているだけだ。思い描くんだ、君にとっての英雄を!」
使い手が望む姿にその武器は姿を変える。武器の形をどうするかで、殴り合った末に出した結論、『全部使えるようにすれば良い』と言う暴論を、彼らは実現させた。
メイアは剣を腰の横に置き、抜刀の構えをとった。すると、剣の形が変わり、刀に変化した。
刀を振り抜いたあと、肩の辺りに刀を運ぶと、ハンマーに変形した。そして、振り下ろして騎士達を叩き潰した。
「ハハハ。最高だよ! まさか、言われた瞬間に使いこなすとはね」
ラグナは最高に楽しそうな表情で、その光景を眺めていた。先ほどまでのイライラが全て吹き飛ぶような爽快感を感じていた。
「さぁ、決めてしまえ。英雄と言えば、派手な必殺技でしょ!」
メイアはその言葉に頷くと、再び剣の形になったそれを真上に構えた。すると、赤黒い光が、剣から解き放たれた。そしてそれを、騎士達に向け振り下ろした。その光に、騎士達は飲み込まれ消滅した。そしてついでに、騎士たちの背後にあった城も、消滅した。
「……あーうん、まぁよし」
「そこはやりすぎじゃ、と突っ込んでやるべきなんじゃなかろうか?」
「君さっきのぼくに突っ込まなかったじゃん」
「……うむ、よし」
「いやよくないと思うんですけど!?」
「あ、メイア。お疲れー」
「お疲れ様だよ」
「お疲れさまじゃ」
「あ、はい。お疲れ様です。じゃなくて! 城ぶっ壊しちゃったんですけど、どうすれば良いんですかこれ!? というかなんか女性の姿をしたラグナさんと、普通のラグナさんの二人がいるし、本当にどうなってるんですか!?」
「まぁあれだよ。細かいことは気にしない方が良いと思うよ」
そう言ったラグナは、珍しく苦笑いをしていた。
あとがき
今回メイアが使った必殺技のイメージは、まぁ某騎士王のあれです。なんと言うか、わかりやすい必殺技で良いですよね。
全盛期なのにメイアの身長が150cm位しかないのは、まぁ、はい。そう言うことです。身長が低くてかわいいですね。
あと、ラグナの身長は165㎝位、メモリアの身長は163位と、ほぼ同じになっています。
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