自分のための英雄⑦

 ラグナは『神聖騎士団』の攻撃を全力で避けつつ、その攻撃を観察していた。反撃をしようとはしているのだが、相手の連携が恐ろしいほど正確であり、隙がない。


(うーん、攻撃を喰らう前提だったら確実に数人は持っていけるけど、回復が間に合わなくなるかもだし、毒とかあったら面倒だよねー。毒を使う騎士って、色々ひどい気はするけど、まぁほぼあるとみてよさそうかな。なら結局、攻撃は受けないように攻略するしかないと……はぁ、さっきの戦闘で大分頭使ったから休みたいんだけどなぁ。あぁでも頑張らないと)


 ラグナにとって最も重要なのは楽しむこと。戦うことも、楽しいものなら進んでやるが、楽しくない戦闘、今のような回避し続けるだけの戦いは正直避けたいと思っている。とは言え、勝たなきゃ死ぬかもだから全力は出している。


(結局は初見殺しで倒すのが一番だよね。さて、どれで行くかな? 幻覚は、無理かな? 一人相手なら通じるけど、複数いたらキメラと同じで奇襲は成功しないしね。『歪み』と併用して、逃げるだけなら簡単だけど、やっぱここでこいつらは倒しておきたいから……うん、だったらこれかな)


 ラグナは全方向から騎士たちが攻撃してきたのに合わせ、全力で跳躍した。そして、遠距離から攻撃を仕掛けていた騎士に向けて、極夜をぶん投げた。それと同時に、取り出した爆弾を下に落とし、ラグナ自身は騎士の頭を足場にして離脱した。


(これで終わってくれたら楽なんだけど。ま、そんな都合よくはいかないよねー)


 全員、そこそこのダメージはあるが普通に戦闘は継続できそうに見える。


「全く、神様の加護はずいぶんと優秀だね? 平和な世界を望んでるくせして、一番の信者たちである君たちに、戦わせる力を与えるなんて、本当に中途半端な奴だね、君たちの信じる愚かな神様は」

「愚か者は貴様だろう。神の築いた平和を壊そうなど反吐が出る。貴様のような存在はこの世界に必要ないのだ」

「必要があるとかないとかって、どうでもよくないかい? そんな価値観で物事が決まるなら、この世界はとっくに無くなってるんだよ。神も君たちもね。そんなつまらない見方するくらいなら、もっと人生を楽しんだ方がいいでしょ。君たちは本当に、くだらないね」


 騎士たちはラグナの言動に全くと言っていいほど反応せずに、攻撃を再開した。


(あーもう。本ッ当に面白くないねこいつら。ちょっとくらい感情を出せよ、この操り人形どもが。あーイライラする。絶対にぶち殺す)


 再開した攻撃を避け続けていたが、騎士の攻撃を防ぎ、ラグナの持っていた白夜も弾き飛ばされた。


「これで終わりだ。死ね」

「終わり? それは君たちの方でしょ?」


 その瞬間、ちょうどその騎士の後方に落ちていた極夜が動き出したかと思うと、騎士の体を貫いて、ラグナの手元へと戻ってきた。


「な⁉」

「やっと驚いてくれたね。ま、そんな暇ないんだけど」


 ラグナは極夜が貫いた騎士が倒れたのを横目に、隣にいた騎士の心臓を貫いた。反対側にいた騎士は、慌ててラグナを斬ろうと踏み込んだが、極夜と同じように白夜がその首を斬り裂き、ラグナのもとへと帰還した。一瞬で三人の騎士を殺したラグナは、残りの騎士たちに視線を向ける。その表情には普段の笑顔など一切残っていなかった。完全な無表情で、ラグナは言う。


「さ、終わらせようか。この退屈な戦いを」


 それからラグナが騎士を殲滅し終えるまで、一分もかからなかった。連携ができなければ騎士ひとりひとりは大した実力ではないので、当然の結果と言えるだろう。最後に残った騎士の武器を破壊し、足を斬ると、変わらず無表情で話しかけた。


「ぼくさぁ、本当に君たちみたいなやつらが大嫌いなんだよ。可能ならばもっと苦しめてやりたいんだよ。でも、今は急がないといけないんだ。だからこれはぼくの優しさだ。死んどけ、ゴミ」


 その騎士の首を斬り落とすと、ラグナは大きく息を吐いた。


「あー終わった終わった。よし、脱出しようか……どうすればいいかな?」


 ラグナは少し考え込むと、騎士たちの荷物を探り始めた。


(多分持っていると思うんだけどねーどこかな?……お、あったあった)


 ラグナは騎士が持っていた宝玉のようなものを取り出すと、それに力を込めた。


「当然、帰還用のアイテムは持ってるよねぇ。利用させてもらうよ」


 そうしてラグナがワープした先は、教会だった。


「あーやっぱりここに通じたか。サーレイション連合王国の教会で間違いないとは思うんだけど……」


 全く別の教会に飛んでたら面倒だなと思っていると。外から爆発音が聞こえてきた。それが聞こえた瞬間、ラグナはいつもと同じ笑顔になった。


「何というか、最高に面白い感じになっていそうだねぇ。よし、ぼくも混ざらせてもらうよ!」


 ラグナは教会を飛び出すと、混乱に包まれている国内をさらに滅茶苦茶にすべく、行動を開始した。





あとがき

 白夜と極夜がラグナの元へと戻ってきたのは、双剣に備わる機能の一つです。神器なんて呼ばれる武器ですから、性能は当然かなりのものです。

 ラグナが『神聖騎士団』と戦っている間に何が起こっていたんでしょうね。




 

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