自分のための英雄⑤
キメラの攻撃を、ラグアはひたすらに避け続ける。今までの敵とは違い、姿を消しても、現れた瞬間に当然のように攻撃してくる。目が複数存在しているため、背後から攻撃しても対応される。
(ハハハ! いいね。こういうのだよ。初見殺しですら殺せない、正攻法でやっても当然ムズイ。あぁ、最っ高に楽しいねこれは)
そんな中、キメラの攻撃がラグナの腕をかすった。その部位はサソリの尻尾のような形をしていた。
「っと、毒か。うーん、治すのもめんどくさいしな。よし」
ラグナは毒に感染した腕を斬り落とした。そして、すぐに新たな腕を作り出した。
「よしオッケー。にしてもどう攻略したものかな?」
(どうも再生能力もあるみたいだね。斬り落としたはずの部位はいつの間にか吸収されてるみたいだし、一撃ですべてとは言わずとも、ある程度消し飛ばせるだけの火力は必要だよねぇ)
自らに使える手札は何か整理していく。重要なのは火力だけ。あの図体なら命中精度はいらない。とすれば……
「こういう戦い方は初めてだけど、まぁどうにかなるかな?」
ラグナは双剣を構え迷うことなく突進する。伸びて来る触手や尻尾を斬り捨て、それらが再生するたびにまた切り捨てていく。多少のダメージは無視し、毒攻撃を喰らえば迷うことなくその部位を斬り落とし再生していく。
(あーこれキッツいなぁ。痛みとかはあんま感じないけど、脳をずっとフル回転させないと回復が間に合わないねこれ。それに加えて、『歪み』も併用して……あぁ、ほんとにきついね。だけど、面白い)
互いに血肉を流し続ける殴り合いが始まってから数分が経った。ラグナは準備が完了したのを理解し、普段のものとは違う安堵の笑みを浮かべた。そして、再び突撃すると、キメラの触手にぶつかり後ろへ吹き飛ばされた。が、冷静に受け身をとり立ち上がると、右手をキメラへ向けていた。
(このキメラは周囲にある肉の類はすべて吸収する。当然ぼくの肉体も。だけど、吸収されてもぼくの肉体になら、どれだけ離れていても『生命創造』を使える。普段は与えたエネルギーを用いてぼくの体を形成するわけだけど……エネルギーを与えても形がそのままだった場合、いったいどうなるんだろうね?)
「さぁ、命よ、『爆ぜろ』」
その言葉を発したのに反応し、過剰にエネルギーを与えられた肉塊達は、それを許容できずに、爆発した。
内側から大爆発が起こったキメラは、その動きを完全に停止させた。
「よし……あーーーー‼ 疲れたぁ‼ 面白かったけど、こんな経験は一度だけで十分だねほんとに」
(ぼくの課題はやっぱり火力不足だね。こんなに手間暇かけなきゃあのレベルの爆発を起こせないっているのは。解決すべき問題だね。まぁ、細かいことを考えるのは後だ。さぁ、『英雄の剣』を見に行かなきゃだね)
ボス部屋の奥、その部屋に『英雄の剣』はあった。台座に突き刺さっており、選ばれたものが抜けるって感じが見て取れる。
ラグナは迷うことなくそれに近づき、触れる。抜こうとしてみるが当然抜けない。
「そりゃそうだよね。ぼくが抜けないのは当然なんだけど、本当にわからないね。メイアはなぜこれを抜けなかったの……ん? あぁ、なるほどね。こういうことか」
(なんというか、実に神様が考えそうなことだね。だとすれば、確かめなきゃだね)
ラグナはその剣をそこに放置すると、ポータルに乗り入口へと帰還した、はずだった。ラグナは気が付くと全く別の場所へとワープしていた。
「え? ここは、入口じゃないね……何があったのかな?」
周囲を見渡すが、一切見覚えがない。ダンジョンの中なのはわかるが、それ以上はすべて不明だ。
(あのワープでなぜか別のダンジョンへと飛ばされたか。事故、はないだろうね。だとすればこれは)
ふと気配を感じ視線を向けた先にいたのは、モンスターではなく、純白の鎧を身にまとった騎士たちだった。
「『神聖騎士団』か。なるほどね、神が干渉してきたか。思ってたより早いね」
「神の御意思に従い、汝を抹殺する。抵抗は無意味と知れ」
「そんな御託を並べてる暇があれば、さっさと殺しに来なよ。神の操り人形ども」
(「緊急事態だ、ぼく」)
(『なんだい、わたし』)
(「『神聖騎士団』だ。どうも、神様がようやく動き始めたらしい」)
(『へぇ、ついにか。ぼくはどうすればいい?』)
(「とりあえず、二人に連絡して。間違いなく奴らは二人を狙う。それが終わったら城内を徹底的に探索してくれ。ほぼ確実にそこにある」)
(『了解だよ。頑張ってよ、わたし』)
(「当然さ。そっちは任せたよ、ぼく」)
通話が終わった瞬間、騎士たちが突撃してきた。ラグナも白夜と極夜を構えると、挑発するように口を開く。
「さぁ、始めようか狂信者。君の信じるものがいかに無意味なのか、教えてあげようじゃないか」
あとがき
一気に話が進んで行きましたね。『神聖騎士団』の詳細は次回でわかります。また、ラグナは何に気づいたのでしょうか?
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