自分のための英雄③

 ラグナが飛び出していったあと、洞窟内では気まずい沈黙が広がっていた。


「……えっと、メモリア、さん?」

「なんじゃ?」

「あの、そもそもなんでぼくに協力なんてしようと?」

「あぁ、簡単な話じゃよ。わしらも『英雄の剣』が欲しいんじゃが、わしらにはあの剣を扱えんのじゃよ。そういうわけじゃからあの剣を扱える人材を探しておるんじゃよ。で、それがお主じゃ。正直、お主があの剣に選ばれない理由なぞ無いはずなんじゃがな……」

「なんで、そんなことがわかるんですか?」

「お主は似ておるからな。あやつに、不死身の英雄に」

「似てる? というか、会ったことがあるかのような口ぶりですね」

「うむ。あったことがあるぞ。確かあれは、1500年ほど前じゃったか?」


 当然のことのようにそう言ったメモリアにメイアは目を見開いた。なんとなくわかった。これは冗談ではないと。


「にしてもお主、ラグナに気づかんのもそうじゃが、わしのことも分からんのか?」

「え?……もしかして、本当に、あのメモリア・コンダクターなんですか?」

「その通りじゃぞ? なんじゃ、知っておったのか」

「知ってはいますよ。歴史の教科書に載っていましたし……それじゃあ、ラグナさんは、いったい何者なんですか?」

「最近、様々な国で事件が起こっているという話は聞いたことはあるかの?」

「はい、噂程度ですが……も、もしかして?」

「あやつがすべての事件の犯人じゃよ。わしも、あやつに協力しておる」


 圧倒的情報量で脳がやられたのか、すごい顔になっていた。


「おーい。面白い顔になってるぞー正気に戻れ」

「……はっ! え、いやなんというか、それ話していいんですか?」

「いいじゃろ。なんせわしらは、お主を仲間にしに来たんじゃから」





 ラグナは目的のダンジョンの入り口に到着していた。その両手には白夜と極夜が握られており、防具の類は一切つけていなかった。


「さてと、確か50階層あるんだっけ。可能ならば今日中に終わらせたいんだけど、ずっと隠形で突っ走るっていうのはしょうもないからねー。さて、楽しんで行こうじゃないか」


 ラグナは通り道にいるゴブリンやスライムを的確に急所を斬りながら走っていった。そして、前に他の探索者がいるのを確認すると『歪み』でその人間たちをすり抜け加速していく。


(わかってはいたけど上の層は基本的に雑魚だね。途中までは完全に無視して突破しようかな……あ、そうだ。武器を変えるのはありかもね。次の層からやってみようか。良い練習になりそうだね)


 そうやって走っていくうちにあっという間にボス部屋に到着した。


「さて、一層のボスは何だっけ? 大したやつではないのは知ってるけど、でかいゴブリンとかだったかな。まぁ入ればわかるか」


 その部屋に居たのは、記憶通りサイズの大きめのゴブリンだった。


「あ、あってた。さて、やろうか」


 ラグナが接近するのに合わせて、ゴブリンも動き始めた。そして、お互い武器を振りかぶった瞬間、背後にいたラグナがその首を斬り落としていた。


「よし終わり。うーん、人間相手にも通じるからなーこれ。知性のない獣相手ならこうなるのも当然だよね……もっと面白い相手と戦ってみたいね。10層くらいまでは難易度変わらないっぽいし、いろんな武器試しつつ効率よくやっていこうか」


 そこから10層まではほぼ流れ作業で終わった。普段の双剣ではなく槍や刀、弓矢や銃、使い慣れていないものも含め様々な武器を使いまわしてもなお、速攻で終わってしまった。単純に敵が弱いというのもあるが、それ以上に――


「動きが機械的すぎるねぇ。どう行動するのが読みやすすぎて攻撃に当たる気はしないし、こちらの攻撃は外れる気がしないし……事故率0.001%っていう数値になるのも当然かな。逆にメイアの両親は何があって死んだんだろうね? 聞いておけばよかったな」


 片手間に10層のボスを討伐し終わり、次の層へと進んでいった。


(ちょっとくらいでいいから面白くなってくれよ? じゃなきゃ、退屈すぎるからさ)





あとがき

 ダンジョン攻略はかなり巻きで行きます。神の影響でかなり弱くなってるので事故率が死ぬほど少ないんですよね。

 ラグナの戦闘スタイルは、幻覚と隠形を利用した超初見殺し特化です。普通の戦闘もできなくはないですが、効率を優先した結果こうなっています。

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