自分のための英雄②

「よし、着いたね。うーん、ノックとか必要かな?」

「どうじゃろうな。そもそもあったこともない奴がいきなり家に突撃してくる時点で意味の分からん状況じゃからな……最低限の礼儀くらいは守ればいいんじゃないじゃろうか?」

「なるほどね……よし、突撃だ」

「何がなるほどなんじゃ?」


 ノータイムで洞窟内に突撃したラグナに呆れるようにため息をつき、メモリアも洞窟内へと入っていった。


「想像以上に、暮らしやすそうな環境じゃな。これは……そうか。ダンジョン内と同じ仕組みじゃな?」

「みたいだね。ダンジョン内の環境を一定に保つシステムがこの洞窟にも存在してるらしいね。ダンジョンでゲットできたのかな?」

「まぁそんなところじゃろうな。そろそろ出会えそうな気がするんじゃが……」

「……誰ですか?」


 洞窟の最奥、様々な武器や食料品が置かれており倉庫のようになっているそこの中央に彼はいた。その右手には剣が握られており、その眼は獣のように警戒心を宿していた。


「初めましてーメイア・エルカート君。君に危害を加えるつもりは一切ないから安心してほしい。ぼくはラグナ、よろしく」

「それで警戒とくと思っとるんかお主は。じゃが、こやつが言った通り危害を加える気は一切ない。わしは、メモリア・コンダクターじゃ」


 メイアは、こちらに向けられていた剣先を下におろした。その眼は変わらず警戒心の塊ではあるが。


「じゃあ、なんで来たんですか? 憐れみならいりませんよ」

「安心しなよ、そういうのでもない。何から話すべきだろうねー……君、『英雄の剣』を探してるんだよね? それに、ぼくたちも協力させてくれないかい?」


 メイアはラグナが言ったことに一瞬驚いたが、すぐに諦観を感じる表情になった。


「なんで協力してくれるのかって聞くべきなんでしょうが、もういいですよ。諦めましたから?」

「え⁇ どうしてだい?」

「見つけたんですよ、もう。ですが俺は、選ばれませんでした。あの、『英雄の剣』には。だからもう、いいんです」


 メイアの言ったことに今度はラグナが驚いた。その表情はメイアが言っていることが理解できないといった感じだ。そしてそれはメモリアも同じだった。


「当然ですよね。英雄は誰かを守る存在、誰かのための存在なのに、俺は自分のために英雄になろうとしてたんだから。用がないんだったら、早く帰ってくれますか?」

「いや、用ならまだあるし今増えた。ねぇ、なんで君は英雄になろうとしたんだい?聞かせてくれないかい?」

「……なんで、そんなこと聞くんですか?」

「必要だからだよ。ぼくにとっても、恐らく、君にとってもね。だからお願いだ。君のことを聞かせてくれないか?」


 ラグナの雰囲気があまりにも真剣だったためか、メイアは少し沈黙したのち、その口を開いた。


「……わかりました、話します。俺は、英雄になれば、だれにも頼らず、一人で生きていけるようになれる。そう思ったから、『英雄の剣』を求めました」

「ほう。なんで、一人で生きれるようになりたいと思ったんだい?」

「……分からなかったんです。彼らは何でぼくを拒絶しないのか。いなくてもいい存在なはずなのに、邪魔な存在なはずなのに。なんであんなに、彼らは優しいのか。それで、俺は怖くなったんです。あの、理由のない善意が。なんな気持ちをもう味わいたくない。だから俺は、一人で生きたい、そう思ったんです」

「……なるほどねぇ」


(どう思う? メモリア)

(どうも何も、この世界の悪い部分がはっきりとしたのぉ。善意が人を救うとは限らんということじゃな。それにしても本当にわからんのじゃが、あやつはなぜ――)

(うん。なんで彼は『英雄の剣』に選ばれなかったんだろうねぇ。正直言って、彼以外に、この世界であの剣を持つにふさわしい存在はいないと思うんだけど。これは、しっかり調べる必要があるね)


「聞かせてくれたありがとう。じゃ、ぼくはやることができたから行くよ。メモリア、残りは任せたよ」

「どこに行くんですか?」

「ダンジョンに潜ってくる。直接『英雄の剣』を見にいってくる」


 そう言ってラグナは、洞窟を飛び出した。


(さーて、とりあえず姿を変えてっと。よし、これでオーケー。この国はいったい、何を隠しているのかな? ダンジョンに潜って、後この国を調査して……あぁもう面倒だ。効率よくいこう)


 ラグナはそこで立ち止まると、ナイフを歪みから取り出した。そして、自らの左手を斬り落とした。


(よし。手が一個あれば一週間くらいはいけるでしょ。肉体を持たせる必要はないからねっと)


 ラグナは地面に落ちた自らの左手に手のひらを向け、呟く。


「さぁ、生まれろ命よ。ぼくの手で『生命創造』。よし、そういうわけだから、国の調査は頼んだよ、ぼく」

「りょーかい。そっちも頼むよ、ぼく。いやその姿なら、わたしかな?」


 ラグナはもう一人自分を作り出した。左手も、いつの間にか治っていた。


「それじゃあ、行こうか。ダンジョン攻略RTA」





あとがき

 理由のないやさしさって、時に人を傷つけてしまうこともあると思いませんか?

 ラグナの『生命創造』のリソースはラグナの血肉です。まぁ自らの肉体も作れるので、リソースは実質無限です。

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