第三章 自分のための英雄①

 サーレイション連合王国、世界最大級のダンジョンをそのまま利用し建造された国家であり、戦争期は人々の避難所としても利用されていた。現在もダンジョンは変わらず利用されているが、その様相は娯楽の側面が強く、安全装置も徹底されているため、ヒトが死ぬことは全くと言っていいレベルでない。だが、ゼロというわけではなく、ごく稀にだが事故でヒトが死ぬこともある。


「ぼくが求めているのは、そうやって奇跡的に孤独になった子供だね。この世界において孤児は極めて少ないからねー。この国ならワンチャンあるかなーって思ってるんだけど」

「ワンチャン、あるじゃろうか?」

「きっとあるでしょ、事故率1000年間で0.001%すらないけど」

「呆れるほどに素晴らしい数値じゃの。流石は神様が作ったくだらない楽園じゃな」

「まったくもってその通りだねー。お、ようやく到着だよ」


 二人はサーレイション連合王国の正門に着こうとしていた。


「さーてと、楽しんで行こ――」


 二人が正門をくぐろうとした瞬間、少年が突然門から飛び出し、外へと走っていった。その姿はボロボロであり、一瞬見えたその眼はほの暗い何かを映していたように感じた。


「……滅茶苦茶それっぽい奴がおったのぉ……こういうのを運がいいというのか?」

「この場合はもはや運という次元では語れないんじゃないかな? なんだろうね、奇跡かな? 運命かな? まぁ細かいことはどうでもいいか」

「どうするんじゃ? あやつに話しかけにでも行くのか?」

「うーん……とりあえずは国に入ろうか。国民に聞けばあの子についての話も知れるかもしれないし」

「そうじゃな。一先ず宿をとるとしようか。お主の力は実に便利じゃ」


 二人の姿は他の人間が見ると全く別人の姿になっている。ラグナの幻覚の効果だ。


「だねー。人の目を気にする必要がないってのは実に楽でいい」

「今更聞くのもあれなんじゃが……なぜお主は女性の姿をしておるんじゃ? 別の意味で視線を集めておるぞ?」


 メモリアが言ったようにラグナはなぜかその姿を女性に変えていた。元が中性的で整っているのもあるが、まったく違和感がない。


「いやー宿とるんだったら女の子二人のほうが違和感なくていいよねーって思うわけだよ。変に疑われても別に問題はないんだけど面倒だし」

「本音は?」

「なんかの間違いで誰かが襲ってきたら面白いなって。まぁそんな奴この世界にいないんだけど。あとは情報聞き出すなら女の子の方がいいよねーって」

「……そうか。一応ちゃんとした理由はあったのじゃな。趣味とかではなく」

「いや間違いなく趣味ではあるよ」

「趣味ではあるんじゃな……なるほどのぉ」


 メモリアはすべてを察したかのような表情をしていた。


「いやー旅行してた時に変装として女装することが結構あってね。ヒトを簡単に手玉にとれるものだから楽しくなっちゃってね。それ以来も結構するようになったんだよねー。こんな力もゲットできたわけだから」

「……楽しかったんじゃな。気持ちはよくわかるが」


 そんな風に話している内に、宿の前に到着していた。


「さて、とりあえず部屋をとったら、あの少年について調査するのと、『英雄の剣』があるダンジョンについても調べていこうか」

「うむ、了解じゃ」


 数時間後……


「何というかお主、慣れすぎではないか? 女性の仕草というか、話し方というか、そういったことに」

「まぁねー練習する時間はたくさんあったから。こういった技術は結構身に着けているよ」

「なるほど……一応聞くが、何千年じゃ?」

「さぁ? 覚えてないねー。まぁあれは時間が流れていなかったから、無限だった気も、ほんの一瞬の出来事だった気もするけどね。まぁそれはどうでもいいんだ。集めた情報を整理するとしようか」


 二人は情報をまとめていった。その内容は以下の通りだ。


少年について

 名前:メイア・エルカート

 年齢:12歳

 ・5年前に両親が事故で死亡、親戚もいないため天涯孤独の身になるが、近所の住 

  民たちが無償で援助を行っていた。

 ・2年ほど前にその援助を受けるのを拒絶。一人で生活を開始した。今は国から離 

  れた、ある洞窟で暮らしている。

 ・最近は、ダンジョンに潜っている姿がたまに見られるが、話しかけようとすると 

  逃げられる。

 ・『英雄の剣』を探しているような発言をしていたといううわさがある。


『英雄の剣』について

 ・かつて不死身の英雄と呼ばれた人間が使っていたとされる剣。

 ・その剣に選ばれたものは英雄にふさわしい力を得る。

 ・現在はサーレイション連合王国の中でも最大級のダンジョンの最深部に封印され   

  ている。

 ・1000年間でかなりの人数がその剣に触れたと言われているが選ばれたものは誰

  一人いないといわれている。


「まぁこんな感じかな? 少年については結構いい情報が出たけど、『英雄の剣』に関しては、知っていることしか聞けなかったねぇ。まぁ当然だけど」

「少年がお主が求めている人材そのものすぎるんじゃよな。都合がよすぎるのぉ」

「だね。まぁ都合がいいことは何も悪いことじゃないし、会いに行ってみようか。メイア・エルカートに」

「……ちなみにお主、その姿のままでいくのか?」

「あぁ……男の子相手だからなぁ、元の姿にしとこうか。ぼくの正体には気づいてくれるのかな?」

「聞いた限りじゃと、最近の事件についてなんも知らないかもしれんからのぉ。というか気づかれたいのかお主。ばれないほうが楽でいいじゃろ」

「だってその方が面白そうじゃん、まぁなんであれ、さっさと行くとしようか」





あとがき

 第三章スタートです。この章以降は戦闘描写が増えていくと思うのでよろしくお願いします。

 今回でラグナの女装癖が判明しましたね。これ以降も結構な頻度で性転換することになります。それと、ラグナの実年齢はいったいどれくらいなのでしょうかね?

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