たとえ未来が決まっていようと⑨
二人は、デモクレシア王国を去り、次の目的地へと向かっていた。
デモクレシア王国で何が起きたのかというと、まずメモリアは子供たちにちょっとした未来を教え、実際にそうなった。その結果未来を当てる占い師の話が少しずつ噂になっていき、多くの人が未来を聞きに来た。そしてそのすべてが当たった。そうして気が付いたころには誰もがその占いを信じるようになっていった。
そのような状態なってから数日後、メモリアは恐ろしい未来を口にした。それは、ある男が家族を皆殺しにし、失踪するというもの。
流石にそんなことは起こらないだろうと皆思っていた。だが、メモリアが言ったように、その男は家族を殺し、どこかへと消えた。
(実際に犯行をしたのは幻覚を用いその男の姿になったラグナ。本物はひっそりと殺されている)
メモリアの言うことはすべて必ず起きる未来であると、誰もが理解した。それ以降もメモリアは不吉な未来を国民に告げていった。そしてそのすべてが当然のように実際に起きた。
その結果、人々はその確実に起こる未来に脅え、どうにかそれを避けられないかと行動を始めた。中には、自らが誰かに殺されるというのなら、殺してくる人間を先に殺すなんていう行動に出る者もいた。
そんな中、メモリアこそがすべての元凶なのではないかと考え始めるものが現れ始めた。だが、メモリアは既に姿を消しており彼女がいた場所には一枚の紙が残されていた。その紙には、今を超える恐ろしい未来が記されていたとされるが、詳しい内容は残っていない。見たものはもれなく発狂したためだ。
こうして、デモクレシア王国は完全に崩壊した。
「うーん。なんというか、えげつないことしたねー」
「そうかの? わしはただ未来を教えてやっただけなんじゃがなー」
「それがえげつないって言ってるんだよ? いやまぁ滅茶苦茶面白かったから文句は一切ないんだけどね?」
「ならいいじゃろ」
「それもそうだね」
いつもと変わらないテンションで二人は歩く。大量の命を奪っていながらも、奪っているからこそ二人は、常に楽しそうに笑っていた。それこそが、自分だと理解しているから。思ってもいないのに命を憐れむ方が、奪った命に対する冒涜だと思っているから。
「さて、次の目的地は、もう決まっておるのか?」
「うん。次の目的地は、全てがダンジョンでできている国、サーレイション連合王国だよ」
「ほう? あの国へ行くのか? ならば目的はあの?」
「あぁ。ほかの国と同じで変化を起こすことは大前提で、あの国に行く理由は二つ。一つは人材発掘。これに関しては見つかればラッキー程度のものでしかないけどね。だから、今回の本命はこっちだね――『英雄の剣』あれを取りに行く」
少年は自分に価値なんてないと思っていた。特技があるわけでもなければ、お金を持っているわけでもない。何かを生み出すこともできないし、誰もが普通にできることすらこなせない。そういう存在だと。
だからこそ、少年は分からなかった。なぜ、両親が死に、天涯孤独となった自分が拒絶されないのか。なんでみんながこんなにも優しいのか。間違いなく自分は、いなくてもいい存在なのに。
少年は知りたかった、自分が求められる理由を、自分が今も生きている理由を。だが、どれだけ考えても分からなかった。みんなに聞いてみてもちゃんとした答えは誰もくれなかった。
そうして理由のない善意を受け続けた少年は、その善意を受け取るのを拒絶した。そして少年は、一人で生きていける人間になりたいと願った。そうすれば、こんな思いをせずに済むと思ったから。
少年は求めた、一人で生きていける力を、知恵を。そんな時少年は、ある武器の存在を知った。その名は『英雄の剣』。戦争の時代、不死身の英雄と呼ばれた人間が使ったとされる剣であり、サーレイション連合王国の最も深いダンジョンに封じられている。その剣はヒトを選び、選ばれた人間は必ず英雄になると。
英雄ならばきっと、一人で生きていける。そう思った少年は『英雄の剣』を手に入れるため、ダンジョンへと潜り始めた。
あとがき
というわけで、第二章終了です。ラグナやメモリアについてこの章でよくわかったのではないでしょうか。そして、最後に出てきた少年、そして『英雄の剣』。これらについては三章でしっかり登場しますのでお楽しみに。
それでは、第三章『自分のための英雄』でお会いしましょう。
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