たとえ未来が決まっていようと⑧

 銃声や爆発、悲鳴が響き渡る戦場から少し離れた建物の屋上、そこで彼らは戦っていた。ラグナはアーゼリスの攻撃を素早く避け、的確に攻撃を当てていくがその攻撃は鎧を貫通することは無く弾かれる。そして、反撃にアーゼリスが攻撃しそれをまたラグナが避ける。戦闘が始まってすでに五分、これらが繰り返され続けていた。


「すばしっこいですね。ですが、あなたの攻撃は私には通じませんよ?」

「みたいだねー。無駄に硬いねその鎧。脱いでくれないかい?」

「何を言っているのですか。そんなことするわけがないでしょう?」

「そりゃそうだね。っと危ない危ない」

「本当に避けるのはうまいですね。ですが、動きが単調ですよ? 実戦慣れしていませんね」


 アーゼリスの攻撃が、徐々にラグナの体にかすり始めた。直撃はしないが確かに血は出ている。


「ま、当然だね。なんせ、実戦はこれが初めてだからねぼく」

「……ふざけているのですか? あなた?」

「大真面目だよ。ま、今回に関しては、経験の差は、ズルで埋めさせてもらうよ」


 ラグナがそう言った瞬間すべての傷が消え、万全の状態へと戻っていた。


「な⁉ 傷が治った⁉」

「君がどれだけ攻撃を当てようとぼくはすべて治せる。さぁ、ぼくを殺せるかい?」

「くっ、そのようですね。しかし、限度はあるのでしょう? それまで切り続けてあげますよ」


 傷が治ったことに驚きつつも、アーゼリスは慌てることなく戦闘を続けた。ラグナは多少の傷は治せるからと無視し容赦なく攻撃を仕掛けていった。

 戦闘が長引くにつれ、少しずつラグナが優勢になっていった。アーゼリスは焦りつつも致命傷になる攻撃は止め続けていた。追い詰められていくなかで、アーゼリスはあることに気づき、笑みを浮かべた。


「なるほど、そういうことですか。まんまと騙されましたよ」

「おや、気づかれたかな?」

「あなたは傷を治してなどいない? それは、幻覚でしょう? 地面に落ちた血までは隠しきれないようですね」


 ラグナはアーゼリスから距離をとると、自らに纏っていた幻覚をといた。その姿は、血まみれであり、出血量はかなりのものだと分かった。


「うーん。落ちた血を隠せないのは重要な課題だね。どう対策すべきかな?」

「……勝てる気でいるのですか? この状況で」

「もちろん。あぁ、そうだ。幻覚を見破ったご褒美に、ぼくの能力について教えてあげよう」

「何を言っているのですか? あなたは」


 アーゼリスは突然そんなことを言い始めたラグナに困惑しつつも、警戒を切らすことなくその言葉に耳を傾けた。


「ぼくの力は二つ、まずは今見せた通り、幻覚を作ることができる。ただし、作れるのはヒトの形をしたものだけ。逆に、ヒトの形さえしていればどんなものだって作れる。そう、。そしてもう一つは――」


 アーゼリスはその言葉の意味を理解し、警戒を強めた、が。その心臓は真後ろに立っていたラグナによって貫かれていた。


「ガハッ……今、のは。透、明……化?」

「残念、ハズレだよ。じゃあねアーゼリス君、君はいい練習相手になってくれたよ」


 そう言ってラグナは、アーゼリスの首を斬り落とした。


「よし。終わったよーメモリア」

「うむ。お疲れ様じゃな」

「……結構ぼく頑張ったんだけど、もうちょっと労ってくれてもよくないかい?」

「お主が本気で頑張っておったらな。さっさとその幻覚をとけ」

「あ、ばれてる?」


 そう言うとラグナは血まみれの姿の幻覚をといた。戦闘前と変わらず傷一つない姿のラグナがそこにいた。


「お主のその剣なら初手であの鎧は砕けておったじゃろ。最後に普通に貫いておったんじゃから。それに、血を垂らしておったのもわざとじゃろ。気づかれなかったら普通に殺しておったのだろう? あと、最後のあれは透明化ではなく、自らの存在する座標をこことは違う次元に少しずらしたといったところか? 透明になっているだけなら、最後に姿を現す必要はないじゃろうからな」

「ハハハ。全部大正解だね。なんというか、正直期待外れだったよ。彼、昔はもっと強かった?」

「そうじゃな……1000年もの平和はヒトをこれほどまで弱くするか。いや、神の影響もあるじゃろうか? まぁもうどうでもいいことじゃ……眠れ、アーゼリス・ダイバステア。平和を求め戦った、気高き戦士よ」


 メモリアはアーゼリスが持っていた長剣を手に取ると、それを自らのポーチへと入れた。その表情には悲しみが浮かんでいたが、すぐに普段の表情へと戻った。


「他には、誰も来ていないみたいだね。じゃ、改めて戦争を見学するとしようか」

「そうじゃな」

「さて、この戦争、どっちが勝つと思う?」

「ふむ……連邦が勝つじゃろうな、九割方な」

「へぇ、その心は?」

「守るものがあると人は強くなるというのはよく聞く話じゃ。それに加え、大切な家族を奪われたということに対する怒りはより強い力を生む。それに比べ、連合国側の憎悪は誘導されたものでしかいない。技量の差が歴然である上、より強い感情の力が加われば、結果は想像に難くないじゃろ」

「ま、そうだろうね。さてさて、負け戦をどこまで盛り上げてくれるかな?」


 戦争は数日間に及んだ。結果は二人が予見した通りダイバステア連邦の勝利で終わった。だが、その代償は重かった。国土は荒らされ、国民の半分が死亡した。そのうち非戦闘員は6割に及んだ。

 連邦はすぐさま復興作業に取り組み、元の平和な国家を取り戻そうとした。だが、消えない憎悪が国民たちの心に刻み込まれていた。

 また、連邦の英雄、メモリア・コンダクターは、戦争の最中ともにいたと思われるクレアシオン・リスタルトと同様に行方不明となっていた。彼女が戦争の原因なのではないかといううわさ話が流れることもあれば、彼女は攫われたのだという話もあり、真偽は誰にも分らなかった。





「次はどこの国へ行く予定じゃ? 順当に行くならば、隣国のネバーフィン帝国じゃろうが」

「その予定だよー。どんな風にするかは全く決まってないから、のんびり行くつもりだけどね」


 二人は、ダイバステア連邦を離れ、次の目的地へと向かっていた。その表情は笑顔であり、これからの未来が楽しみで仕方がないといった雰囲気だ。


「あの国って確か、ゾンビに襲われ続けた過去があるんだっけ。だったらそれに関連のあることしたいよねぇ」

「それはよさそうじゃな。ゾンビに襲わせるか、ゾンビにするか、そのどちらかが面白そうじゃな。いや、両方同時にやるのがよいかの?」

「だねー。まぁ何であれ、頑張っていこうか」

「うむ。楽しんでいこうではないか」





あとがき

 本編にある通りラグナは姿を消すことができますが、あれは透明になっているわけではありません。メモリアが言った、存在座標を別次元にずらすというのは、簡単に言えば相互不干渉の状態になっていると思っていただければいいです。相手はラグナが見えなくなり、触れることもできなくなりますが、ラグナも相手に触れることはできなくなります。ただ元の次元を理解しているため、ラグナは相手を見ることだけはできます。

 次回で2章は終了になります。お楽しみに。

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