たとえ未来が決まっていようと⑦

「あやつら、思ったより装備がしっかりしておるの。お主が与えたのか?」

「そうだよー。両方とも戦争が終わった後にできた国だからまともな装備なんてなかったからね。最低限だけど用意させてもらったよ」

「その装備の出どころは?」

「もちろんリスタルト王国の王城だよ、本当にあほみたいに保管されてたよ」

「じゃろうな。流石は最古の王国といったところか。にしても、あやつら目が死んでおるのぉ。兵士たちも洗脳しておるのか?」

「いや、彼らは思考を少し誘導しただけだよ。目が死んでるのは上層部が苦しめたからだね」


 二人は軍隊がにらみ合っている光景を眺めていた。ダイバステア連邦側は未だに困惑しているものが多くおり、また結界があることから気を緩めているものも多い。

 逆に、エレクッシ民国とストーピッツ王国の連合軍は完全に目が死んでおるものや、怒りに燃えるものが多くおり、もうすぐ戦争が始まるというのが見て取れる。


「さてと、ダイバステア連邦の方々にも本気になってもらうとしようか」


 そう言うとラグナは右に手を向けると何かを取り出した。それは――


「なんでロケランを持っておるんじゃお主。流石にそれはリスタルト王国にはないのではないじゃろうか?」

「うん。旅してた時にあっちの大陸にも行ったからね。そこで手に入れたんだよね。よし、ぶっ放すとしようか」


 ラグナはロケットランチャーを大樹の頂上へ向けると迷いなくその弾を発射した。そして、それが着弾すると同時に連邦内に設置されたすべての爆弾が起爆した。


「たーまやーー。いやはや、綺麗な花火だね」

「じゃな。うむ、結界も消滅したのぉ。笑いそうになるほど慌てておるなあやつら。それに、動き始めたか」


 結界が消滅すると連合軍は攻撃を開始した。連邦は突然の爆発に驚いている内に、連合軍からの攻撃が飛んできて対応する間もなくかなりの人数が死んでいった。慌てて、防御魔法を発動し砲撃を防ぎ、そして反撃を開始した。


「よし、躊躇なく攻撃してくれたね。これなら問題なさそうだね。ちゃんと戦争になりそうだ」

「よっぽど辛い思いをしたのじゃろうな。憎悪がこっちにも伝わってくるのぉ。懐かしい気分じゃ」

「まだまだ戦争はこれからでしょ。とは言え、流石に実力の差は大きいねぇ。強力な兵器を配ってはいるけど、簡単に差は埋まらないね」


 ラグナが言った通り、連合軍の一部の兵士にはロケットランチャーやライフルなどの兵器を用いていた。だが、多くが防御魔法で止められており、近距離での戦闘も多くが連邦が勝利していた。


「ま、こうなるのは想定内だ。だから、もっとハンデを背負ってもらうよー君たちにはね」


 ラグナがそう言った瞬間、連邦の隊長格に通信が入った。その内容は国内に敵兵の一部が侵入しており非戦闘員も含め無差別に攻撃していると。


「さぁどうする? 家族が殺されるかもしれない状況、だけど今戦線を離れるわけにはいかないよね? どうするのか好きに選びたまえよ」

「いい感じに盛り上がってきたのぉ。これこそ、戦争といったところじゃな」


 連邦の兵士たちは、そのまま戦線を維持し続けるものと侵入者を排除するものに分かれていった。当然人数が減った分実力差は人数差によって埋められていき戦線は混沌と化していった。国内も同じように地獄のような景色が広がっていた。


「これでぼくの仕込みは終了だ。あとはどうなるのか楽しみながら見学し――」

「見つけたぞ、侵入者、それにメモリア様。まさか貴方が連邦を裏切るとは思っていませんでしたよ」

「……来たか、アーゼリス。わしを殺しに来たか?」


 いつの間にかアーゼリスと呼ばれた、重厚な鎧を着たエルフの男はラグナたちのいた建物の屋上へと来ていた。


「貴方を殺すなんてとんでもない、と言いたいところですが、貴方が平和を乱すというのならば、その命頂戴いたします」

「へぇ。こいつが、君の言っていた?」

「そうじゃ。かつてわしのもとで、本気で平和な世界を作るという願いのもと戦っておった、今も生きておるわしの唯一の戦友じゃよ。その願い故に早期に神の影響を受けてしまったがな」

「なるほどねぇ……殺すけど、かまわないよね?」


 ラグナのその言葉を聞き、メモリアはアーゼリスを見つめた。その眼にはかつての彼の姿が映っていた。未練を断ち切るかのようにその眼を閉じ、口を開いた。


「わしからも、頼む。あやつを、終わらせてやってくれ」

「りょーかい。さぁ、アーゼリス君。君の相手はぼくだよ」

「ずいぶんと舐められたものですね。わたしを殺すと?」

「もちろん。君程度殺せなきゃ、ぼくはこの先何も成せない。だから、ここで死んでくれるかい?」

「死ぬのはあなたですよ。平和な世界を乱したその罪、命を持って贖いなさい」


 ラグナの両手にはいつの間にか白と黒の双剣が握られていた。アーゼリスも長剣をその手に取った。


「その双剣、まさか?」

「あぁ、リスタルト王家に代々受け継がれていた神代に作られたとされる神器、双月剣『白夜』と『極夜』だよ」

「なるほど、あなたのような犯罪者に使われるとは、可哀そうに。わたしが解放してあげましょう」

「君みたいな平和ボケした人間に使われるその剣のほうが可哀そうだと思うけどね。まぁいい、始めようか」


 その瞬間大きな爆発音が響いた。それと同時に彼らは駆け出し、剣をぶつけた。





あとがき

 戦争スタートです。そして、次回はラグナの初の本格的な戦闘シーンです。お楽しみに。


 


 

 

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